無題:12スレ目98


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あの夏、俺には、短い期間だったが恋人がいた。

その、付き合い始めて間もない彼女とすぐに別れる原因になったのは、
俺が「妹に彼氏ができるのが許せないシスコン兄貴」で、一方、妹の
桐乃の方も、「兄貴に彼女ができるのが耐えられないブラコン妹」
だったから、だった。

結局、俺は、「実の妹を一番に思いやる兄」でいようとして、その夏、
こんな俺でも好きになってくれた、初めて出来た彼女と、別れた。

俺は酷い言葉でののしられても、殴られた上で絶交されてもいい立場
だったと思うが、何故か彼女はそうせず、『まだ俺に好意があること』
だけをはっきりと告げ、元のポジション(=妹の親友)に戻ることを
宣言して、その場所から離れていった。


その時の事を思い出すたびに、あの時の判断はどうだったのか、他に
やり方はなかったのか、何度も思い悩む事になったが、兎にも角にも、
一つの物語は、この曲がり角で大きく曲がって、その先へと進んで
行く事になったのだ。


そのあと、少しして、俺をある場所に呼び出してきた「もと彼女」は、
以前と何も変らないような、でも、少しだけ何かがふっ切れたような、
とてもいい表情で、まっすぐに俺を見て、こう尋ねてきた。

「私を『妹』として愛せますか?」と・・・。


それから、あっという間の数年間。
俺は学生生活を終え、社会に出て一年目。
妹の桐乃は高校最後の学生生活の日々を送っている。
もう一人の俺の「妹」、あやせと同じクラスで。

「おーい、こっちだ」
「・・・あ、お兄さん!」

待ち合わせのオープンテラスのカフェ。年末も近く、さすがに気温は
低いが、電飾を施されたツリーの色とりどりの光の輝きで、それほど
寒いような気はしない。

「あれ? 桐乃は?」
先に席に座っていた俺の方に近付いて来るなり、そこにいるはずの、
もう一人の待ち合わせ相手の事を尋ねてきたあやせ。

「ああ、やっぱり体調が今イチなんだと。でも『大したこと無いから、
あんただけ行ってくれば』って言ってな。」
「ふうん。そうですか。ひょっとして、気を使われちゃいましたかね?」

「おまえもやっぱり、そう思うか?」
「はい。最近桐乃、『あやせはこのままでいいの?』とか言いますし」

「ああ、俺もこの間、『ねぇあんた、あやせの事はどうするの』って
聞かれたっけな。」

「気にする必要なんてないよ、って言ってるのに、ねぇ?」
「そうだな。」


そうだった。

あの夏の時点から、今まで俺にはずっと彼女がおらず、そのかわりに
可愛い妹が二人いる。


はじめは、あやせが何を言っているのか、俺には解らなかった。

あの夏、桐乃を介して出会った俺とあやせは、桐乃の与り知らぬ所で
彼氏彼女として付き合って、結果的に桐乃を苦しめ、寂しがらせた。

俺も、あやせも、そんな気は全く無かったが、初めて出来た相手との
デートの楽しさに酔っている間、どうしても他の事は忘れがちになり、
時間やお金にも限りはある訳だから、どうしても他の付き合いは悪く
なってしまう。

一般的には、妹<彼女 という図式になる訳で、世の中の多くの妹は
「そんなもの」と気に留めないかも知れないが、うちの妹様は違った。

そこが、言わば、前回の失敗であり、これを繰り返さない為に、俺は
「桐乃に彼氏が出来るまで彼女を作らない」宣言をし、桐乃が同様の
表明をしたために、いつの間にか、いかなる他人も入り込めない無限
ループが形成されたのだった。

俺だって、未来永劫それでいいとか、それで済むとは思っていない。
ただ、しばらくの間は、それでいい、と思っていた。


そこに、「私も妹になる」と来たあやせ。
はじめ、ついに俺はあやせを壊してしまったのか、と激しく後悔した。

思い込みが激し過ぎるとか、発想がぶっ飛び過ぎている時があるとか、
もの凄くクセはあるが、あやせはいい子だ。

理由を考えても思い当たらない、多分、理由以前のところで俺好みの
ルックスな訳だし、そういう外見だけじゃなく、言葉を正しく使って
礼儀正しく奇麗に喋るのは、そばで聞いているだけでも気持ちがいい。

つまらん事を言って怒らせるパターンも多かったが、だからこそ、か、
あやせの笑顔にはとてつもない魅力を感じていたように思う。
実際に付き合っていても、本当に楽しかったよな。

そんなあやせが、
「わたしを桐乃と同じように、妹として慈しむ事は出来ませんか?」
と言ってきたのだった。

正直、あやせに別れを切り出した俺としては、今後はどんな顔をして
あやせに会えばいいのか解らないでいたのだが、それでも、これから
姿を見ると避けあうような関係になるのだけは嫌だった。

償い、というのも何だが、幾らかでもあやせのためにしてやれる事が
あるならしてやりたい、とも思ったし、だから、どんな形になっても
あやせと付き合いが続くのは、良い方向への選択のような気がした。

後日、念のため麻奈実にも相談してみたが、「きょーちゃんのなかで、
もうこたえはでてるんでしょ? がんばれ、おにいちゃん!」などと
あっさり相談を打ち切られ、長々と別の話に付き合わされたな。


「なぁ、あやせ。『妹として』って言っても、おまえは実際に妹じゃ
ねぇし、具体的に、どう接すればいいんだ?」
そういう、当たり前といえば当たり前の、俺の質問に、

「いえ、何も。お兄さんが妹の桐乃にするように、一度、そう考えて
から接してくれればいいです。
ちなみに、わたしの方は、元々『桐乃みたいにお兄さんがいれば』
みたいな憧れが最初にあったので、そう思えばいいかな、と。
まぁ、それで、『結局あれは憧れだけだったのかな』とか、ちょっと
悩んじゃいましたけど、でも外から見た形なんて実はどうでもよくて、
大事なのは気持ちの中身なんじゃないかな、って。」

「あやせ・・・」

「『彼女』っていう、桐乃にはなれないポジションから奪い取ろうと
するんじゃなくて、桐乃と一緒に並んで、お兄さんを好きな気持ちで
いたい、って。それは許されるかも、って。そう、思いました。」

なんかちょっと泣きたくなる、ありがたい話だが、


「・・・でもな、桐乃と同じ気持ち、じゃないだろ?」

「同じですよ。人が人を好きになるんです。
お兄さんだって、桐乃の可愛いところ、桐乃の素敵なところ、幾つも
知ってますよね? もし、わたしと桐乃のポジションが入れ替わって
いたら、桐乃を彼女にしたくなりませんか?」

桐乃が、妹じゃなく、妹の友達だった場合?
      • いや、確かに桐乃には、悔しいが、兄の俺でさえ尊敬せざるを
得ない面があるのは事実だし、妙に可愛い瞬間があるのも事実だ。
ここだけの話だが、いつだったかの、恋人偽装兄妹デートで浮かれた
瞬間が無かったとは言えない。
幸か不幸か、エロゲやオタク趣味みたいな共通の話題にも事欠かない
訳だし、案外付き合えるのかもしれんな。

「いや、それでも、妹は妹だろ。」

「確かに、妹とは、法律上で結婚はできません。でも、逆に言えば、
それだけじゃないですか。
妹と恋をして、妹と付き合って、その、ちゅーとか、したとしても、
どんな法律にも触れないんですよ?」

おまえは俺と桐乃にちゅーさせたいのかっ!

くそぅ、さぞかし気持ちいいだろうなっ!

「だから、お兄さん。どうしてもわたしを桐乃と一緒に並べられない
と言うのなら、一度彼女だったわたしを、『彼女いもうと』として、」

「か、かのじょいもうと、だと!? 何だ、その魅惑的な響きは!」

「そして、桐乃のことを『いもうと彼女』として」

「い、い、い、いもうと彼女!? ・・・いかん鼻血出て来た」

「タイプの違う二人の妹と仲良く付き合うのは、お兄さんの特技だと
聞きました。」

      • いやいやいやいや、それは、ゲームの話だから!
しかもな、それって桐乃の調教?の結果じゃねぇかい。



「なぁ、それって、誰の入れ知恵なんだ?」
俺は、それが時々頭のおかしいあやせであっても、あやせ本人の考え
だけには見えなかったので、ちょっと意地が悪かったかもしれないが、
そう聞いた。

「ふふっ。」
あやせは少し笑って、
「わたし、お兄さんと桐乃とわたしの事を、いっぱい悩んで、悩んで、
考えて、考えて、色んな人に相談して、相談して、やっと辿り着いた
ゴールなんですよ。・・・こんな妹は、いりませんか?」

上目づかいで俺を見るあやせの瞳。
いっぱい悩んで、考えて、というのは、多分、嘘じゃないのだろう。
そうやって自分なりに苦しんで、あやせは今、俺の前にいるんだよな。


そして俺は片手を差し出しながら、あやせに頭を下げて言う事になる。

「妹から始めて下さい。お願いします。」

こんな間抜けな台詞を言う男、二人といねぇ。

そして、俺達は、兄妹になった。


それから、今まで、俺と桐乃とあやせは、三人でよく買い物や食事で
一緒に出かけたり、高坂家で団らんをするようになった。

以前にしていた恋人付き合いではなく、オープンそのもの付き合いだ。

あやせと二人きりになる瞬間は時々あるけど、彼氏彼女じゃないから
ちゅー、とかはしない。
(いや、元々、あやせが何度かしてくれただけなんだけどな)

『桐乃としない事はわたしともしない、桐乃とする事はわたしともする』
それがただ一つの約束ごとだった。


桐乃は、やはり、元々自分が別れさせた原因だと引け目を感じている
ところがあるみたいだったが、俺達の、というか、あやせの提案する
新しい関係をあっさり受け入れて、三人での予定をよく組んでくれる
ようになった。

まぁ、桐乃だって、ケンカ別れになったり、大きな遺恨を残しながら
あやせと付き合うのも辛い事だろうし、どうしようか悩んでいる所へ
あやせの方から寄ってきてくれた訳だから、悪くない選択だったのだ
と思う。

あいつらは、基本的に親友だし、お揃いやペアが大好きな年頃だし、
心配することも無かったな。


まぁ、そんなのが、ここ何年かの、俺達の風景だった。

今日は、やっぱり桐乃の立案で、クリスマスを祝して外で食事の予定
だったのだが、桐乃は少し熱が出たとやらで欠席。
あやせだけが、待ち合わせのカフェに現れた、と言う訳だ。

まぁ、こんな日に、両手に華で歩いていると刺されるかもしれんしな。

「どうします? って、聞くまでもないですよね、シスコンお兄さんは。」
「まぁ、おまえだって、俺が二人で行こう、とか言っても、さっさと
桐乃の看病に行くんだろ? 
まぁとりあえず、買うものだけ買って、急いで帰るか?」
「はい。じゃ、ケーキとチキンを適当に見繕って・・・」

自宅パーティーの為の買い物プランを立て始めるあやせ。
俺もカフェの会計のため俺は立ち上がり、そこでテーブルの上にある、
自分の小さな荷物に目が行く。

そうそう。今日は、これがあったんだ。

「あ、あやせ。これ」
「え? なんですか? ・・・これ、・・・わたしに?」

あさっての方を見ながら俺が渡す小箱を、不思議な顔で受け取った
あやせは、
「あの・・・開けますよ?」
「おう」

「・・・奇麗なシルバーリング。・・・あ、わたしの名前が入ってる、
ayase、って。」

「い、いちおう、俺の給料の3ヶ月分なんだぞ、それ」

「え、でも、お兄さん・・・、・・・そういう意味だったら、わたし
受け取れませんよ?」

「あ、違う、違う・・・訳でもない・・・か」

「どっちなんですか!」

「あ、あのな、安心しろ、ちなみに、もう一つの同じ箱は、桐乃用の
色違いだ。」

「お兄さん!あなた正気ですか!? 重婚か近親相姦か、どっちかに
して下さいよ!!」

「いや、どっちも駄目だろ」

「解ってたら、なんで! 大体、わたしが桐乃と結婚しようとしても、
あのアメリカでさえ、たった9つの州しか認めてくれないんですよ?」

「関係ねぇだろ。っていうか、調べるなよ、そんな事」

「・・・結局、何なんですか、これは。」

「いや、だからな。・・・これは、桐乃には、『もうちょっと家族で
いてくれ』という、シスコン兄貴の情けない告白だ。」

「・・・じゃぁ、わたしのは?」

「いつとかはっきり言えねぇけど・・・、俺が女の子を一人、本当の
家族にする時は、絶対おまえにするから、っていう・・・情けねぇか、
これも」


俺の情けない吐露を聞いて、あやせの表情が、ふっと緩んだように
見えた。
「・・・わかりました。もう、紛らわしいんですから。」


真面目なあやせのこと、俺の言い方次第で指輪を突っ返されるかとも
思ったんだが、

「おい、受け取るのか? 実質的な意味は同じ、って言ったんだぞ?
桐乃に聞いたけど、おまえ最近、告白されまくってるんだろ?」

「告白ですか? はい、結構受けますよ。でも、何か、響いて来ない
っていうか、どこか違うって言うか、そう感じる人ばかりで・・・。
やっぱり最初に付き合った人のインパクトが大き過ぎましたかね?」

「・・・あやせさん、セクハラは、ほどほどにな。」

「まぁ、『真心のこもったプロポーズをしてくれた人がいるので、』
と言ったら、大概、すぐに諦めてくれますけど」

「・・・今すぐ俺をライターであぶってくれ」

火の出そうな顔の俺を尻目に、周りのイルミネーションの光を利用し、
あやせは輝く指輪を色んな方向から眺めている。

「・・・と、とにかく、約束したからな、」
「はい。あ、じゃぁ、今日から、ちゅー解禁ですよ。・・・あ、でも、
もちろん、お兄さんが桐乃にも出来るなら、ですけど」

『桐乃としない事はわたしともしない』ってか。

「できるわけないだろが!」

「でもわたしは桐乃とちゅーできますからね、」

指輪を付けて、悪戯っぽくそう言ったあやせは、何年かぶりに、俺に
急接近して来て。
そして、ほっぺなのか、唇なのか、何とも判断にしにくい微妙な所を
さっと擦っていった。

こ、こんな人目のあるところで・・・。


店を出て、並んで買い物に行こうとする矢先、

「あ、わたしもお兄さんにプレゼントがあります。お揃いですよ?」
そう言って、あやせは、俺の顔を覗き込む。


お揃い、って、まさかあやせも、俺に銀色に光る指輪とかプレゼント
してくれる気だったのか、それは嬉し・・・

がちゃ。


俺の手には、確かに銀色に輝くリング状のものが装着されていた。
だが、これは断じて指輪とお揃いなどではない。

「あやせ・・・。何、これ」

「だから、お返しというか、お返事というか、サイズはどうですか?」

「ああ! ぴったりだよ! あつらえたようにな!!」

「それ、名前を入れて貰うの、すごく高かったんですよ?」

「名前入りの手錠とか、いらんわ!」

「わたしのモデルのお給料の、三ヶ月分なんですからね?」



fin
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