「俺が妹と夫婦なわけが無い」03


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「――じゃ、これなら注文してもいい?」
「殴りますよ」

喫茶店で一番高いメニューを指差しながら、年下に奢らせようとしている目の前の女性は
伊織・フェイト・刹那、いわゆるダメ人間だ。

「ひ、酷くないっ!?」
「わざとらしい演技は必要ありませんよ」
妹さんの事で大事な話がある――そう言われて呼び出されたのに、
さっきからやってることはひたすら飯を奢らせようとしてるだけ。

「大体、今はそんなにお金に困ってるわけじゃないんでしょう?」
その昔、小説家を目指して様々な出版社に投稿を続けていた彼女だが、
いかんせん才能には恵まれていないらしく、未だその夢は叶わないままである。
だが、面白いものを見極める目は確かであるらしく、今ではその能力を活かし、
いわゆる同人ゴロという仕事(?)をしているらしい。

「株で失敗しちゃって・・・」
このザマである。冒頭で俺がこの人をダメ人間と称した事を誰が責められよう?

「こっちも以前と違ってお金には余裕が無いんで諦めてください」
「ちぇっ」
「それよりも本題に入ってくださいよ、桐乃に何があったって言うんですか?」
「それは私が聞きたいわよ!また盗作疑惑をかけられたんだから!」
「へっ!?」
フェイトさんは以前、桐乃の書いた「妹空」というケータイ小説を盗作した前科がある。
熊谷龍之介ことぷーりんさんという出来た編集者のお陰でその問題は一応の解決を見たのだが――

「どういうことなんですか?」
「だから、妹空の続きを彼女が持ってきたのよ」
「それでどうして盗作疑惑が?」
『理乃先生が書いたとは思えない。信じたくないが君はまだ反省してないのかね?』
「なんすかそれ?」
「熊谷さんに言われたの・・・」
がっくりとうなだれる彼女に自業自得と言いたくなったが、それよりも聞きたい事が出てきた。

「続編を桐乃が書いたんですか?」
「そ、それでそのまま熊谷さんに渡したらさっきのセリフを言われたってワケ」
「読まなかったんですか?」
「私は桐乃ちゃんを信用してたからね~。そんな酷い出来だなんて思ってなかった。
 でもわざわざ私に一度渡したってことは彼女自身も出来が良くないって思ってたのかも」
どういうことだ?そもそも桐乃があの小説の続編を書いたこと自体が寝耳に水だ。

「・・・・・あいつ、何でいきなり続編なんて言い出したんでしょうか?」
「な~んかお金が欲しかったからみたいよ?」
「なんすかそれ!!」
そんなことの為に?にわかには信じがたい。
少なくともあの時のあいつは書きたいから書いていたハズだ!

「お金の為に書くのだってそんな悪い事じゃないとは思うわ。ただその中身がね・・・」
「どうだったって言うんですか?」
「上手く言えないから・・・アレコレ説明しても仕方ないし、むしろ私が聞きたいの」
「何を?」
「“彼女に何があったの?”」
わざとらしい演技じみた質問――俺は返答に詰まった。

「ご両親に不幸な事があったことは聞いたわ、でもそれじゃリノの説明がつかないの」
リノとは桐乃のケータイ小説の主人公だ――そしてそれは桐乃の分身でもある。
それが見る影もないほど変わり果てていたとでも言いたいのか?

「言い辛いことなら無理には聞かないけど?」
「―――んじゃ、聞かないで下さい」
俺には変わったようには思えない桐乃の態度、だが本当は無理をしてるとでも言うのか?
どいつもこいつも好き勝手桐乃の心配ばっかりしやがって!

「それじゃ、もういいですか?そんなヒマじゃないんで帰ります」
わかりやすい不機嫌オーラを出しながらさっさと席を立つ。

「鈍いなぁ・・・」
何かつぶやいてる様だがもう聞く気はない――

「アレじゃ僕が彼を呼んだ理由もわかってくれないだろうな・・・」

普段とは違う口調に気付く事もなく、俺はそのまま店を出て行たのだ――






「んじゃ、今日は俺の部屋を使ってくれ」
「ワオ!!じゃ、一緒に寝るんだ?」
「バカいうな!」
「違うよ~キリノとキョウスケおにいちゃんがって意味だよ~」
「んなっ!?」

俺をからかうこの少女はリア・ハグリィ。世界でも期待される陸上の選手だ。
何故そんな奴が我が家に居るかと言えば非凡な妹様の人脈以外に理由はない。
桐乃は中学三年の時に陸上でアメリカに留学していた経験がある。
リアはその留学していた時のルームメイトで仲も良い。桐乃曰く「妹みたい」だとか。
まだ両親が健在だった頃、うちにホームステイしたこともあり、
その時から何故か俺に対して好感度MAXで接してくる人懐っこい女の子だ。

「夫婦なのに一緒に寝ないの?」
「リア、アメリカの常識で語るんじゃない。
 それにそもそも桐乃のベッドも俺のベッドも一人用だ」
この家に住んでる人間は今や二人だけなのだから空き部屋くらいあるんだが、
いくら友人だとしても両親の部屋に泊めるのにはまだ心理的な抵抗があったので、
寝る時には俺の部屋を使わせることにしたのだ。
秘密のコレクションは避難済みだから見られて困る物もないしな!

「ふ~ん、まいっか!」
「それで今回は何しに来たんだ?桐乃へのリベンジは済んでただろ?」
「二人に会いに来たんだよっ♪」
「おいおい、そんな理由で気軽に海を越えてくるなよ、まったく」
「キョウスケおにいちゃんに言われても説得力ないよ?」
「ほっとけや!!」
「ほっとけないよ~。ハイこれ!!」
「なんだこりゃ?」
ニコニコと馬鹿でかい旅行カバンのようなものと小さな箱を取り出した――

「けっこんのお祝いだよ♪」
「へ?、ああ、ありがとう・・・」
小さな箱の中にはペアのマグカップが入っていて、二つとも名前が彫ってある。
だがカバンの方は空っぽだ。

「なんでこっちは空なんだ?」
「キョウスケおにいちゃんがまたキリノを追っかけてくる時にいるでしょ?」
「おいおい、まさかこのカバンがプレゼントかよ!」
しかも桐乃を追いかける前提って俺、この子の中でどんだけシスコンなんだよ?

「そーだよ!キリノにはキリノ用のプレゼントがあるし!」
「そらまた準備のいいことだな。このマグカップなんていつ用意したんだ?」
それぞれへのプレゼントなら前もって用意していた可能性もあるが、
このいかにも新婚さん仕様のペアのネーム入り食器なんてすぐ用意できるものなのか?

「俺と桐乃が籍を入れたこといつ知ったんだ?」
「キリノが教えてくれたんだよ、けっこう前に」
「ふ~ん・・・・・、桐乃には何やったんだ?」
「スパイク」
なんでわざわざ?あいつなら人から貰わなくたって自分のスパイクくらい持ってるだろう。

「陸上、辞めさせないよ」
「・・・辞めてるわけじゃねーだろ?」
リアのこんな表情は初めて見る。なんか怒ってるみたいだ。

「桐乃の部屋に泊まれば良かったじゃねーか。ひょっとしてケンカしたのか?」
引っかかってた疑問をぶつけてみる。
なんで桐乃は自分の友人なのに自分の部屋に泊まることを了承しなかったんだ?

「欲しいものは手に入ったからって、陸上辞めるなんて言ってたから・・・」
「はぁ?なんだそりゃ?」
以前と比べて陸上に力を入れなくなった理由は時間と金の問題だったはずだ。
その証拠にバイト代が出るモデル活動の方は、以前より頻繁にやってるらしい。

「キリノは嘘ついてる・・・・しただけじゃ・・満足してない」
聞こえん。はっきり言いやがれチクショー!

「はぁ、まあ原因はどうでもいいけど、帰るまでには仲直りしておけよ?」
「どうでもよくないっ!!!
 キョウスケおにいちゃんのバカ!!」

涙目で思いっきり怒鳴るリアの顔が昔の記憶を呼び起こした――
この表情、ずっと昔俺と桐乃の兄妹仲が良かった頃、
“俺の為に怒った桐乃”の顔そっくりだ――






pppppppppp・・・・・
日曜の朝に鳴り響く不快な電子音は目覚ましの音だ。
主夫に休みは無く日曜だろうと朝寝は出来ない。

「もう朝か・・・」
食事当番は交代制、今日の朝食は俺が作る番だ。眠気を振り払いキッチンへと向かう――

「おはよう」
「おう、早かったな。もう少しで出来るから待っててくれ」
朝食が出来上がる前に桐乃は起きてきた。

「部活でもあるのか?」
「ううん、ただ目が覚めただけ。手伝うよ」
「わりーな」
桐乃の好意をありがたく受け取り、二人で朝食の準備に取り掛かる。

「「いただきます」」

食事中静かなのは昔からだが、最近の静けさはちょっと違うような気がする――

「なぁ、桐乃」
「なに?」
「陸上、辞めるのか?」
「な、何よいきなり」
「この前、リアが来た時にそんな事を言ってたからさ、気になったんだよ」
「――別に辞めるつもりは無いけど、大会で入賞目指したりとか、将来陸上選手になろうとか、
 そういう気持ちはもう無い。リアにしたらそれは陸上辞めるのと一緒だろうケド」
「それでいいのかよ?もったいなくねーか?」
「別に?それに高校卒業する前にどうせ決めなくちゃいけないことでしょ」
「そりゃそうだけど・・・・・
 なんか金のことも気にしてるみたいだしさ。そういうのがちょっとな」
フェイトさんから聞いた話も気がかりの1つ。
青臭いと言われようと、そういう理由で自分を捻じ曲げて欲しくない――特に桐乃には。

「なに?まさか『金のことなら俺が何とかしてやるから心配するな』とでも言いたいの?」
「言いたいけど言えねーよ。お前の方が稼いでるし」
「・・・・・だったら黙っててよ」
「ぐっ、お前なぁ」
「あたしはそれよりアンタの方が気になるんだけど?」
「は?俺?」
「うん・・・。アンタだってやりたい事とかあるんじゃないの?
 そりゃ家の仕事もバイトも放り出されちゃあたしが困るけど・・・」
「何が言いたいんだよ」
「く、黒いのとかとはちゃんと仲良くやってんの?彼女なんでしょ?」
「お前こそどうなんだよ?友達なんだろ?」

俺とは今まで通りだ。電話やメールでの最近ではやり取りがほとんどだが特に変わりはない。
この前の沙織のお祝いパーティのことも特に問題は無いと言っていた。それが気になる。

「お前も黒猫も話題に全然出さねーだろ、はっきり言って逆におかしいぞ?
 楽しかったら『楽しかった』って絶対言うだろお前らなら」
「・・・・・別にケンカしてる訳じゃないし」
「ケンカしてる訳じゃないって、お前なぁ・・・」
「うっさい!!誰のせいだと思ってんのよ!?」
まぁ、この二人が気まずくなった原因は間違いなく俺だ。
それは俺が黒猫と付き合い出した時の比ではないだろう。

「アンタがハッキリしないからいけないんじゃん!!彼女なんでしょ?大事じゃないの!?」
「大事に決まってんだろうが!」
「じゃあ何でアンタはあたしにばっかり気を使うのよ!?」
「こんな状況で妹を気遣って何が悪いってんだ!!」
「―――――うっさい!義務感だけで気を使ってもらってもウザイだけだっつーの!!!」
思いっきり机を叩いた弾みで味噌汁がこぼれる――

「あっ!?」
「・・・・・いいよ、さっさと片付けよう」
「ごめんなさい。・・・カーペットもそろそろ変えなきゃね」
床に飛び散った味噌汁をふき取りながら桐乃が提案してきた。

「あんたさ、今日出かけていいよ。家の事はあたしがやっとくから会ってきなよ」
「いいのか?久々の休みだろ、やりたいことあるんじゃねーの?」
「べつに無い」
「本当にそうならいいけどよ・・・」
「本当だからさっさと出て行っていいよ」
「―――――じゃ、そうするわ」
片づけを済ませた俺は久々に黒猫に会いに出ていった――


「・・・・・業務連絡だけの会話しかしないくらいなら、
 無理してあたしと一緒に居なくていいじゃん――」








突然の休日に俺は、恋人と会うべく黒猫の家の前に来ている。
来る途中連絡はしたが、なにせ突然の訪問だ。待たされるのは仕方が無い。

「待たせてごめんなさい、入って」
「ああ、ありがとう」
黒猫の家に来るのも随分と久しぶりだ。
それどころか顔を見るのも久しぶりのような気もする、仮にも彼女なのに――

「妹たちは?」
「部屋で遊んでるわ、上の妹も少しは気が利く様になったみたいね」
「そっか」
黒猫に導かれるまま部屋へ向かう――
今までと変わらない構図なのに、空気が違うと感じてしまう。


「――それであの女の言う通りにここへ来たわけね」
「わりぃかよ」
どこか不満を感じさせるように溜め息をつきながらそう言った黒猫に対して
つい尖った口調で応えてしまったこのモヤモヤした気分の原因は自分でもわからない。

「それよりお前ら最近どうなんだよ、
 この前の沙織のパーティのことだって全然話題に出さねーだろ?何があったんだ?」
「・・・・・ねぇ、先輩はいつまでこのままでいるつもりなの?」
「このままって、何がだ?」
「その・・・・・あの女との契約の事よ」
―契約―つまり婚姻関係のことだろう。いつまで桐乃と“夫婦”でいるつもりなのか――
「一応、あいつが二十歳になるまでって考えてるけどな」
「なぜ?」
「仮にも兄貴だぜ?親が居なくなったら俺があいつの保護者だろ?
 せめてあいつが成人するくらいまでは一緒に居てやらなきゃダメだろ」
半分は本当で半分は嘘だ――半分は、俺がまだあいつの兄貴でいたいから。

「それは本当なのかしら?」
「――本当だ。それよりはぐらかすなよ、お前は最近、桐乃とはどうなんだ?」
「はぐらかしてないわ、大事な事よ。私とあの女との問題でもあるもの――」
まぁそりゃそうだ。
沙織の言う通り、今の俺と黒猫の関係は“不倫”と言われても否定しようが無いのも事実。

「もう少し待っててくれよ、出来るだけ今まで通りにしてるんだからさ」
「そんなことであの女との関係がいつまで持つかしら?」
「――どういう意味だよ?」
「今までと同じ事をしていても、今までと同じ関係なんて保てるはずが無いわ」
「・・・・・なんだよそれ」
「事象は常に変化し続けているのよ。全く同じ状態を保つなんて不可能でしょう?
 小さな水滴でさえ落ち続けていればいずれ岩の形さえ変えてしまうのよ――」

出来るだけ今までと同じように――俺も桐乃もそう思って過ごしているはずだ。
でもそれは無理なことなのか?思えば最近の俺たちの関係はどこかギクシャクしている。
幼い頃やお互いを無視しあってた頃、人生相談に振り回されていた時期のどれとも違う――

「――心当たりがあるのかしら?」
「うるせえよ」
言ってしまった後、後悔したが言葉は止まらなかった―
「言われなくたって今の状況が異常なことくらい俺にもわかってるさ!
 だけど俺は兄貴なんだよ!そういうふうに育ってきたんだ!今更変えられるかよ!」

俺はそう思っているのに、あいつは――桐乃は違うのか?妹だと思ってないのか?
いや、あいつは俺と“家族”であることを選んだハズだ!

「あなたはそうでもあの女は違うかもしれないわ!!」
涙をうかべながら訴えてくる――何が言いたいんだよ!

「違わねーよ!!」
「決め付けないで!!もっと考えなさい!!」

黒猫が何を必死に訴えているのか理解しないまま俺は

「お前まで桐乃の心配かよ!!」

最悪な捨て台詞と共に部屋を出て行ってしまった――
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