「俺が妹と夫婦なわけが無い」04


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

――どうしてこうなった

桐乃に言われて出てきた手前、さっさと家に帰る気にもなれない。

「田村屋にでも行くか・・・」
このささくれ立った心をなだめてくれるのは、あの雰囲気しかないだろう。
しかし正直それはどうなのかと思いながらながら近所をブラブラしていたら
見慣れた坊主頭の男が目に付いた―ー

「お?あんちゃん久しぶり!」
「よう、ロック、ちょうどいいところに来た。今ヒマだろ?ちょっと付き合え」
「へ?ちょ、ちょっと待ってくれよ!イテテ」
話しかけてきた麻奈実の弟の耳をすれちがいざまに引っ張りながら強引に連れて行く。
行き先は近所のゲーセン――かつて桐乃が親父に趣味の品々を咎められた時に
ここの太鼓の達人で派手に暴れていたっけ――

「百円出すかお前が殴られるか選べ」
「あんちゃんひでえよ!?」
今時、パンチングマシーンの前で堂々とこんなカツアゲする奴も珍しいだろう―

「冗談だ」
財布から小銭を取り出しマシンに投入し、グローブを着け思いっきり的に向かって拳を振りぬく。
出た記録はたいしたものじゃないし記録を狙ってたわけでもない。
ただムシャクシャしたこの気持ちをどうにか落ち着かせたかっただけだ。

「ヒュ~、あんちゃんかっけー!」
「茶化すな」
「なんだよ~なんでそんな不機嫌なんだよ~」
「・・・・・別にたいした事じゃないさ」
こいつに話したって仕方がない、そもそも話すような事じゃない。

「はぁ~、去年の姉ちゃんみたいだ」
「は?何のことだ?」
「なんでもない、たいしたことないって暗い顔で言われても
 説得力ってぇもんが足りない!・・・っつー感じ?」
「そりゃそうだな」
俺が今まで桐乃や黒猫の面倒を見てきた事の中には、
素直じゃねぇあいつらに対して半ば強引にしてきたこともあったな――

「それにおれ、あんちゃんがそんな不機嫌そうにしてるところ初めて見てる気がする」
「そうか?そうでもないと思うが・・・・・」
「――やっぱおじさんたちが居なくなっちゃって大変?」
「いや、もう慣れたさ」
そう、慣れたはずだ。桐乃と二人だけの生活にも、それに伴う責任にも――

「そういやお前は聞いたのか?」
「へ?何を?」
俺があの両親の実の息子じゃなかった事。そう聞こうかどうか迷っていたら

「ああ!あんちゃんに姉ちゃん以外の彼女がいる事は知ってるぜ!」

なんかドヤ顔で変な発言してきやがった。

「麻奈実以外ってどういう意味だ!?」
「いやー、やっぱあんちゃんはモテるんだなーって!
 あ、でも誤解しないでくれよな!?
 おれがあんちゃんのこと兄貴みたいに慕ってるのに姉ちゃんは関係ないからさ!」

どうしてそうなる?
噛み合わない会話に脱力しながら頭を抱えていたら、何故か笑いがこみ上げてきた。

「な、なんだよあんちゃん!」
「や、やっぱお前はバカでいいなと思ったんだよ。お陰で和んだわ」
「ヒデー!!なんかヒデーよあんちゃん!!」
「気にするな、それじゃあな」

背後でなにやらわめく弟分を尻目に家路に着くことにした。







「やっぱり先輩ってホモなんですか?」
「なんでそうなるっ!?」

この力いっぱい否定したくなる質問をぶつけてきたのは赤城瀬菜。
俺の友人、赤城浩平の妹で黒猫の友人でもあり筋金入りの腐女子だ。

「あたし見たんですよ?先日先輩が男子高校生とデートしてたところを」
「ありえねー妄想はやめろ!!」
「そうは言っても『兄貴と慕う』だなんてセリフ聞いたら照れ隠しにしか思えません」
あ?なんだそりゃ?ひょっとしてロックのことを言ってるのか?
ぶっ飛んだ妄想に眩暈を覚えてこめかみを押さえながら頭を振る――

「お前さぁ、あいつは俺の幼馴染の――麻奈実の弟だろが!何勘違いしてんだ?」
「やはり女性との関係はカモフラージュで、真の狙いはその弟!?」
「いいかげんにしろ!」
ビシッ!とそのおでこにチョップをかまして妄想から現実に呼び戻す。

「そんなくだらねー事聞くために呼び出したのかよ?」
呆れながら非難めいた口調で尋ねるが、返ってきた答えは思ったより深刻だった。

「もしそうなら、まだマシだったでしょうけど――」
「どういう意味だよ?」
「ホモじゃないなら何で瑠璃をふったんですか!?」
え?意味がわからん。俺が黒猫をふったって?誰から聞いたんだよそんな事。
つーかこいついま黒猫のことを“瑠璃”って呼んだよな?
そっかー名前で呼び合うほど仲良くなってたんだなー。
そういや赤城もそう言ってたし、いいことだ。うん。

「なに一人で納得したような顔してるんですか?」
「お前があまりにぶっ飛んだ事をいうから思考がそれにつられて飛んでったんだ」
「まじめに答えてください。あたしがいいかげんなことが嫌いだって先輩はご存知ですよね?」
ああ~そういえばこいつも桐乃と同類で“趣味さえなければよく出来た女の子”だったな。
“よく出来た”のベクトルは違ういわゆる優等生の委員長タイプだが。

「なあ、まずその話を誰から聞いたか教えてくれないか?」
「誰からも何も本人からです」
「言っとくが俺はあいつと喧嘩はしたが別れたりしたつもりは無いぞ?」
「え?そうなんですか?」
どうも俺の周りには誤解や早とちりをする人間が多いようだからな、
落ち着いてしっかり事実確認をしないと。

「あいつ、何て言ってた?」
「『先輩に嫌われたかもしれない』って・・・・・」
「・・・・・まあ、正直に言うと少々あいつに対して腹を立てたのも事実だけどさ。
 別れるつもりも振ったつもりもねーよ」
「それなら何で――」
「いやーお前にまで心配かけて悪かった。だが誤解は解けたしもういいだろ?」
正直なところあまり突っ込んで欲しくない話題なのでさっさと切り上げたい。
そもそも喧嘩の原因は黒猫が俺より桐乃のことを心配してた事に対しての嫉妬だ。
そんなみっともない理由なんて言いたくない――

「先輩は本当に瑠璃のことを好きなんですか?」
「な、なんだよ突然!?」
嫌いだったら一年近くも付き合ったりしねーだろ?何でそんなことを聞くんだ?

「あたしの知ってる先輩は“彼女”を――いえ、
 あんな落ち込んだ状態の知り合いを何日も放っておくような人じゃなかったですから」

感情のこもらない声と表情でその事実を突きつけられた俺は
ハンマーで頭を殴られたような衝撃と目の前が真っ暗になったような感覚に襲われた――

「あたしの言いたい事はそれだけです。それじゃ――」

踵を返して去っていく瀬奈を見つめながら、
それでも俺は瀬奈の言葉を認めずに済む理由ばかりを考えていた――







「な~んか最近きょうちゃん元気ないね」
「そうか?」
「うん。いわおも言ってたよ~」
「くそ、余計なことを」
大学の昼休み、せっかくの憩いの時間にあまり気分が重くなる話題は避けたいのだが。

「あいつなんか妙なこと言ってなかったか?」
どうも俺と麻奈実の仲を勘違いと言うか拡大解釈してる奴がいるようだが、
俺はそういうつもりもなければこれからそうなるつもりも無い。
それは黒猫と付き合いだした時に決めたことで、今更変えるつもりは無い。

「ううん、ただ『あんちゃんが機嫌悪そうにしてたぜ』って聞いただけだよ?」
「それならいい」
「よくないよ~、きょうちゃんは友達が暗い顔しててもほっとくの?」
ああそうだな。確かに俺はそういうことに首を突っ込んできたような奴だよ。

「・・・最近の俺ならほっとくらしいぜ?」
先日瀬奈に言われた言葉を思い出し自嘲気味に答える。
でもあれはきっと俺が黒猫と気まずい状態だったからだ。
ただの友人だった頃と違って恋人同士という仲で、しかも黒猫が落ち込んでる原因は俺だ。
ほっとく、ほっとけないの問題ではなく、どうすりゃいいのか分からねえんだ。

「きょうちゃんにはそんな人にはなって欲しくないなあ・・・」
「俺だってなりたくないね」
そうさ、そんな冷たい奴にはなりたくない。

「もしかして桐乃ちゃんとけんかでもした?」
「なんでそこで桐乃の名前が出るんだよ」
「う~ん、昔からきょうちゃんは桐乃ちゃんの事ではすぐ怒ったりしてたから・・・かな?」
「残念だがハズレだ、桐乃との仲はいたって平和だよ」
「そうなの?最近きょうちゃんから全然桐乃ちゃんの話を聞かないよ?」
「え?そうだっけ?」
「そうだよ」
でもそれは取り立てて話すようなことも無いから・・・じゃないのか?
そもそも俺は麻奈実に桐乃の話とかしてたっけ?

「前はよく『桐乃の奴が~』とかお話してくれてたよ?」
「そう・・・だっけ・・・・・?」
最近は――?
そう言えば俺と桐乃の最近の会話ってどんなのだ?
家には二人しかいないんだ。会話をしていないなんてありえない。昨日だって――

今日の予定や家事の分担を確認したり、集金や買い足しの必要がある備品の確認とか
話していることはたくさんある、だから会話が無いなんてことはありえない・・・けど

「俺、こんななる前って桐乃とどんな話してたっけ?」
急に不安が襲ってきた――

一番最近の桐乃との会話で思い出されるのは、黒猫に会いに行ったあの日だけだ。
それ以外はほとんど日々の業務連絡みたいなものだ。

今、桐乃が何を考えてるのか、何を求めているのか――
全く想像すら出来なくなっている自分に愕然としてしまった。







prrrrrr… prrrrrr… prrrrrr…

コールの相手は沙織だ。どうにも訳がわからなくなった原因のひとつを
直接こいつから聞き出そうと思って電話することにした――

『はい』
「よう、沙織か?今大丈夫か?」
『ええ、大丈夫ですわ』
「あれ?どうしたんだその口調・・・」
『お気になさらずに。何か御用があってかけていらしたのでしょう?伺いますわ』

いつものバジーナ口調ではなく、いつかのお嬢様状態だった時の沙織だ。
どういう心境の変化なんだ?

「いや、なんつーかさ。お前らこの前3人で集まってただろ?」
『ええ、わたくしのお祝いにお二人に来ていただきましたがそれが何か?』
「あの時、黒猫と桐乃に何があったんだ?」
『ご本人たちに聞けば宜しいのではないですか?
 かたや恋人、かたや家族―。わたくしに尋ねる必要などない間柄でしょう?』
「・・・・・もしかして沙織怒ってる?」

いつものバジーナ口調ではなく素の槇島沙織のお嬢様口調。
しかしそれは親しさの現われでなく、今の沙織は
友人であるはずのバジーナでは無いという拒絶の現われに感じられた――

『わたくしは以前、申し上げていたと思います。
 「わたくしの大事な友人たちを悲しませたりしたら承知しません」と』
「・・・・・覚えてるさ」
『ではお望み通りサークルクラッシャーと呼んでさしあげますわ』
「勘弁してくれよ・・・」
こんな事を聞きたくて電話したんじゃない。あの二人の間で何があったのか?
それを知りたいだけなんだ――

「あいつらに聞いても何も言わねぇんだよ、頼む。教えてくれ」
涙声で懇願する。
そばに居るはずなのに――。
そばに居るつもりなのに――。
どうにも掴めなくなってる桐乃や黒猫との距離が、果てしなく遠くなっている気がして――

『――失礼しました。きりりん氏と黒猫氏を案ずるあまり少々きつく当たりすぎました』
「なあ、あいつらに何があったんだ?」
『・・・・・強いて言うなら、あの時は何も起きておりませぬ。
 以前なされたやりとりをまた改めてなされただけでござる』
「そうなのか?」
『はい。ただ拙者はその時初めて聞いたわけですが・・・』
沙織にも秘密にしていたようなことだったのか?一体なんだ?
あの二人の間でどんな会話があったんだ?だいたい一回目っていつの事だよ――

「教えてもらえないか?」
『――拙者から言うわけにはいきませぬ。やはりここはきりりん氏から聞いてくだされ』
「もう聞いたんだよ!だけどあいつは何も言わな――」
『1つ!!』
急に言葉を遮ってきた――

『1つ真剣に考えて答えを出していただきたい』
「・・・・・なんだよ」
『京介氏はなぜきりりん氏と婚姻届を出されたのですか?』
「今更何を聞いてくるんだよ」
そんなもの散々皆に説明してきた。
色々あるけど最大の理由は“法律上成人扱いしてもらう為の方法だったから”だ。
そんなこと沙織はとっくに知ってるだろう――

『その事についてきりりん氏と話をすれば、自ずと答えは聞けると思います』
「そうか・・・・・」
『ええ、そうです』
「わかったよ、そうする。黒猫にはお前からも話しておいてくれないか?」
『京介氏からも連絡は必ずなさって下さいね?』
「ああ、わかってるよ。それじゃな」

電話を切った後、ふと“その事”について疑問が湧いた――
俺と夫婦になる事について、桐乃はどう思っていたんだろうか?


「なあ、桐乃、ちょっといいか?」
「ん?なに?」
「お前さ、後悔してたりしないのか?」
「は?何を?」
「その・・・俺と結婚したこと」
今更だとは思う、何で今更こんな話題を出してるんだって自分でも思う。
でも、今これをはっきりしておかないと、これからの桐乃との暮らし方がわからなくなる。

「なんでそんな風に思うの?だいたいあんたと結婚するって言い出したのはあたしでしょ?」
「そりゃそうだけどさ、あの時は俺もお前も冷静じゃなかっただろ?後悔してないのか?」
「・・・・・それってあんたが後悔してるってこと?」
「後悔とかそんなんじゃなくて、このままでいいのかって思うんだよ。
 俺だけならともかく、桐乃まで黒猫との仲が変に拗れちまってるだろ?
 あいつはお前の親友でもあるんだし・・・」
「親友?だれが?」
いきなりの冷たい声に心底びびってしまった。

「誰がって黒猫がだよ、他に誰がいるんだ?あやせにも黙ってた事を相談するほどの仲だろ?」
「フン、そういえばアンタは結構べらべらと喋ってまわってるみたいね」
「何をだよ?」
「あたしと結婚したことよ!!
 あやせは地味子から聞いたって言うし!なんでそんな言いふらすワケ!?」
「なんだよ何を怒ってるんだよ?そんなに知られたくなかったのか?
 やっぱ後悔してるんじゃねーか!!」
「違うわよ!!」
何が違うって言うんだ?どう違うんだよ?

「あんたはさ、どうしてあたしと結婚したの?」
「それは・・・」
色々理由はあるさ、でもやっぱり成人として扱ってもらう為、だろ?
そうすればどんな事も俺たち兄妹の意思で決めることが出来るから――
住む場所だってそうだし、親父たちが残したものの扱いもそうだ。
そんな事桐乃だってわかりきってることじゃないか。

「うん、そうだね。でもさ、それってさ、結婚した理由で離婚しない理由じゃないよね?」
離婚しない理由?意味がわからない。そもそも離婚は桐乃が二十歳になった頃と決めてたから。

「ごめんね、あたしは知ってたんだけど言いたくなかったから黙ってた。」
黙ってた?何を?

「民法上では婚姻した人は年齢が二十歳に満たなくても成人として扱ってもらえる」
ああ、そうだ。それがどうした?

「これ、正確に言うと婚姻経験のある人は、って意味なんだって」
経験のある人?それが何を意味するんだ?

「だからね、別に今、離婚したら未成年に戻るってわけじゃないの、ずっと成人扱いのままなの」
「・・・・・・・・・・なんで黙ってたんだ?」
「言いたくなかったから」
「何で言いたくなかったんだ?」
「離婚したくなかったから」
「なんでだよ?」
「聞く前に答えてよ。なんで結婚したの?離婚しないの?」
「・・・そんな制度知らなかったからだよ」
「今は知ってるよね?どうなの?離婚したいの?」
「お前やっぱり離婚したいのか?」
「だから!あんたはどうなのかって聞いてるの!あんたの気持ちを教えてよ!
 黒いのと気まずくなってるんでしょ?当然よね、恋人が別の女と結婚したんだから!」
「何の関係がある?」
「あんたがあの女のことどう思ってるかってことよ。
 あたしと結婚してることが気まずくなってる原因なんだから離婚すれば解決じゃない!」
「わけわかんねーよ・・・お前一体何が言いたいんだよ」
こいつは一体どうして欲しいんだ?何がしたいんだ?

「あたしはさ、あんたと結婚したことは秘密にしたかった。
 だってあんたは説明するでしょ?“仕方なく”結婚したって!」
「・・・・・事実だろうが」
「うん、そうだよ。でもそう言って欲しくなかったし、そのことは黒いのにも言った」
「何を言ったんだ?」
「あたしがあんたと結婚した理由」
「だからそれは成人扱いしてもらう為だろ?」
「じゃあ、離婚しない理由」
「・・・・・」
「結婚する理由は同じでもいい、でも離婚しない理由は?あんたはある?あたしはあるよ!」
「なんだよその理由って」
「結婚したのも、離婚したくないのも、
 黒いのやでかいのと友達やめることになっても、欲しいものがあったの!!
 結婚したのも離婚したくないのも黒いのとケンカしたのも全部全部全部全部!!!

 ―――――あんたのことが好きだから―――――」
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。