夢の中でみつけたもの。:13スレ目179


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夢の中で見つけたもの。







リビング、そこで俺はテレビを見ていた。
桐乃には今日は友達が来るから部屋から出てこないでよね、と言われていたが、あまりにも暇で出てきてしまったしょぞんだ。

まぁテレビをみても、なにかしら面白い番組がやっていることも無く、暇をつぶせなかったのだが。
それでも部屋に居るよりは良かった。桐乃の部屋から声が聞こえてくるのだ、聞きたくも無いキャッキャウフフとした声が。
いたたまれなくなった俺は致し方なく、静かに部屋をでてリビングに来たのだ。

あぁ、駄目だ、暇だー。

なんて事を考えていると、上の部屋が開く音が聞こえてきた。
ヤバい、桐乃か? と思い隠れようとするが、テレビの音量からして無意味だと悟った俺は溜息をつくと居ないふりを諦めたのだった。

なるべく平静を装いテレビに向き直る。
後ろのリビングの扉が開くと、だらしない声が聞こえてきた。

「ふぃー、あっちーなー。なんかちべたい飲み物は……。 ん? お前クソマネか?」

ここでまさかの加奈子登場。予想外すぎだろ常考。

「よ、よぉ、ひさしぶりだな」
「そうだっけ? まぁ確かに最近顔見てなかったっけかな。ってかそんな事より今何してんの? 暇?」

何か嫌な予感がするので、全力で回避にかかる。

「いや、今すっげぇテレビが良いところなんだ」
「へぇ、ニュースですっげぇ良いところなんてあるんだ……」
「へ?」

テレビを見ると、いつの間にかニュースをしていた。政治関係の。
俺は気まずげに苦笑すると、誤魔化した。

「な、なーんてな、ははは」
「……」

加奈子はジトーっとした目をこちらに向けてくる。
俺はそれを直視できず目を逸らした。

「で、で? なんか用なのか?」
「はぁ、まぁ良いよ。 クソマネが暇なら一緒に映画でもどうかなと思ったんだけど、どうよ?」
「映画? 俺は是非見たいが、上の桐乃達はどうすんだ?」
「下で映画見てる、ってメール送っとくから平気だろ」

ま、まぁそう言う事なら、と言う事で俺は了承した。
暇で仕方なかったところだ、良い暇つぶしになるだろう。

「でも俺なんかとで良いのか? 桐乃達と見るほうが楽しいんじゃ」
「まぁ確かに桐乃達と見る予定だったんだけどよ、まぁ上で盛り上がってたしクソマネとで良いやと思ったわけよ。だから加奈子にとってクソマネは桐乃達の代わりってわけ、お分かり?」
「へいへい、了解」

まぁなんにせよ暇をつぶしてくれるってんだ、乗らない手はないな。

「で? どんな映画なんだ?」
「ん~、恋愛物」
「ふ~ん、そうか、まぁなんでも良いけどさっさと見ようぜ」

時間の無駄だって事で促すと、加奈子はDVDプレーヤーに近づくと、ディスクを入れてソファに腰掛けた。
なんで飲み物取りに来ただけなのにDVD持ってんだ、とツッコみたかったが、まぁそこにツッコんだら長くなりそうなので自粛した。

映画が始まり、互いに静かになる。
だが途中からだろうか、どうにも加奈子の視線が画面ではなく、俺に向かっている気がする。
ふいに加奈子に視線を向けてみても、そんな素振りは一切無く画面を真剣に見ているのだが、どうにも視線を感じて仕方無い。

もうこちらに視線はよこさせまいと、加奈子をジッと見続ける。こうしていたらこちらに視線を向ける事など出来まい。
ん? あれ? でもこれだったらなんか俺映画見れなくね?
ずっと加奈子見続けているとそういう疑問行き着くも、もうここまできたら最後まで見つめ続けてやる。
と、何故か意固地になってしまった。

するとどうだろうか、加奈子の頬がどんどんと赤くなっていく。面白いように赤くなっていきリンゴのようになると、加奈子はこちらにガバッと向き直ってきた。

「さっきからなんだよ! クソマネ!!」
「お前から先に俺の事見てきたんだろ!?」
「べ、べべべ、別に見つめてなんか無い!!」
「嘘つけ!!」
「嘘じゃねぇ!!」
「嘘だ!!」
「嘘じゃない!!」

あぁ、駄目だ、これじゃ押し問答だ。
いくら言っても一緒だと悟ると、俺は言うのをやめた。

「ま、まぁいい。とにかく落ち着こうこのままじゃ埒が明かん」
「う、うん。そうだな、こんなのずっと言ってても意味ないしな」
「そうだ、意味ない。だからこの件は水に流してお互い映画に集中しよう」

俺がそう言うと、加奈子はぎこちなく頷いた。
はぁ、これでやっと映画に集中できる。

「あ、そうだ加奈子」
「ん?」
「巻き戻しても良いよな? 今さっき見てなかったし」
「おう、良いよ」

了承を得ると、巻き戻してもう一度再生した。

「と、ところでさ、クソマネ」
「あん? なんだよ」

妙にイジイジしながら話しかけてくる加奈子に、怪訝に思いながらも返事をする。
何か拾い食いでもしたのだろうか。それに顔も赤いし。病気なのか?

「く、クソマネの膝って気持ち良さそうだよな」
「……は?」

さっきまで心配していた事も忘れて、思わず間抜けな問い返しをしてしまう。
いきなり何を言い出すのか、こいつは。
俺の膝が気持ち良さそうだと? そんな事言ったらお前のぷにぷにの膝の方が万倍気持ち良さそうだろうが。

「座ってもいい?」
「はぁ!?」

加奈子はあろうことか俺の膝に座りたいと言ってきた。俺は素っ頓狂な悲鳴を上げてしまう。
一体どうしたというのだ、何故急に俺の膝に座りたいなどと。

「ま、まぁ別に良い……って待て待て、加奈子、一旦冷静になれ」

思わず反射的に了承してしまいそうになるが、なんとか思いとどまる。
どうする、何故か知らないが加奈子は膝に座る気満々らしいぞ。

でも考えてみろ、上にはまだあいつらが居るんだろう? それに下で映画見てると言ったんだろう?
ということは、だ。あいつらはいつ下に下りてきても不思議じゃない状況なのではないか?

下に降りてきたあいつらが加奈子を膝に座らせている俺を見たらなんて思うだろうか? それは簡単だ、『変態だ』って思うに決まっている。
そして加奈子を救うために俺の事を殴り、加奈子を俺の膝から引き離すだろう。
あやせの声もしていたから、下手をしたら殺される可能性だって出てくる。

という事で今俺がこいつを膝に座らせる=死ぬ覚悟が必要ってことだ。

さぁ、これからどうしようか。
そう考えると、先程まで見ていたテレビで子供のあやし方をやっていたことを思い出す。
よし、と気合を入れる。

俺は一先ず落ち着かせようと加奈子の頭を撫でる事にした。
するとどうだろうか、加奈子の顔が一気にふにゃぁとして蕩けてしまった。
顔が赤くなり、目がトロンとしている。

おぉ、流石NHK。凄い効果だ。

「く、クソマネぇ」
「うん? うんんんん!?」

だが、効果がありすぎたらしい。加奈子はふにゃけた顔のまま俺の膝にポスンと頭を乗せてしまった。
こ、これはいわゆる膝枕状態なのでは?

この状況では、膝に座っているのと一緒なのでは無いだろうか。
どっちにしろ見つかったらボコられるのではないだろうか。

嫌な考えが次々に浮かび、冷や汗が背中を伝った。

「だ、駄目だ、嫌な未来しか想像できねぇ………って、え!?」

どう転んでも最悪の結果にしかならない現状を確認していると、上の扉が開く音が聞こえてきたではないか。
これは、これはもう最悪のパターンなのでは?

駄目だ、冷静になれ、冷静に。そうだ、タイムマシーンを探せ。
ってそうじゃ無ぇだろ! ま、待て待て、本当に待って? もうどうすれば良いか全然分かんねぇんだけど。

足音が響くたびに、どんどんと冷静さを欠いていった俺は、何故かその時こんな結論に至った。
そうだ、寝たふりしよう。

この時の俺にどうしてそうなったかを小一時間程問い詰めたい。

「加奈子? 映画終わった?」

よりによってあやせかよ!!
心中で叫びを上げてしまう。

「ってお兄さん? どうしてここに?」

あやせは少しずつこちらに近づいてくる。
そして俺のすぐ傍まで来ると、息を呑む音が聞こえた。

「な、ななな、何してるんですかお兄さん!」

叫ぶと、あやせは俺の頭を引っぱたいた。重力にしたがって、横に倒れていく俺。
そう、そうだ、俺は今寝ているんだ。だから重力に逆らうな。あくまで自然に倒れろ。

体から力を抜き、横にポスンと倒れる、すると頭が柔らかい感触の何かに乗った。
ポヨンとしていて、ふにっとしていている。
? なんだこれは。

倒れた方向からして加奈子の方に倒れたのだが、一体何とぶつかったのだろうか。こんな感触のクッションは家には無かった気がするのだが。

「―――――――!!???」

俺がこの感触の正体について考えていると、どうしたのだろうか、あやせが声にならない悲鳴をあげた。
それから数分も経たず、なにかに掴まれて体をもとに戻された。

あぁ、もうちょっとあのクッションの感覚を味わっていたかった。
人知れず俺は嘆いたのだった。









   ・・・・








加奈子視点。





どうしてこうなった。
加奈子が起きると、クソマネは加奈子を膝枕しながら寝ていた。すぐ近くであやせが慌てている。
なんで加奈子は寝てたんだっけか。そう考えて記憶の中を探ると、すぐに答えが見つかった。

そ、そうそう、クソマネに頭撫でられたから……だったっけな。

思い出して赤面してしまった。
くそ、たまにこういう事をしてくるから困る。するならするで事前に言ってくれないと加奈子の身がもたねぇよ。
事前に言ってくれたらなんでもしていいのに。き、ききき、キス、とかも。

そこまで考えると、頭がショートしてしまいそうになった。
あ、危ねぇ危ねぇ。

そんなふうに加奈子がトリップしていると、なんだろうか、太ももに軽い衝撃を受けた。あやせにバレないように薄目を開けて確認する。
そこには、加奈子の膝に頭を乗せたクソマネがいた。

………うひゃい!!

心臓がドクンと跳ねた。や、ヤバい。これあやせにバレて無ぇよな!?
ヤバいヤバい。今加奈子の顔超赤いって!
嫌でも顔に熱がいってしまう。
って、駄目駄目、冷静にならなければ!!

そんなふうに心の中で悶々としていると、ふとももの感覚がなくなってしまった。どうやらあやせがクソマネをもとの位置に戻したらしい。
え、後もうちょっとだけこの状況でいたかったな。

「危ない危ない。お兄さんは寝ていても危険人物ですね」

やれやれと言わんばかりに肩をすくめると、あやせは何故かクソマネの隣に座った。
何故か顔が赤くなっていて、もじもじしている。

「そ、そんなお兄さんには罰が必要です。うん。必要です」

そう言ってあやせはギュっと目を瞑ると、あろうことかクソマネの膝にダイブした。
ぼすんとソファがゆれる。

「!?」
「そ、そう、これは罰です。きっと起きた時には膝が痛くてしょうがなくなっているでしょう。っだから罰なんです。 ふわぁ」

ならなぜそんな気持ちの良さそうな声をだしている。
そうツッコみたくてしょうがなかった。

溜息をつきたくなるが、我慢する。
まぁ良いか、加奈子は加奈子でこの膝枕を楽しむとしよう。

そうしめくくると、加奈子は心中で頷いたのだった。







    ・・・・






京介視点。





現状を確認する。
左に加奈子、右にあやせ。どちらも膝枕状態。

……どうしてこうなった。

あやせ、何故こんな形で罰を与えるんだ。生殺しじゃないか。俺のムスコがテントを張ってしまっても知らないよ?
まぁそんな事態になると、俺がどんだけ言い訳をしようとあやせは俺を[ピーーー]か俺のムスコを[ピーーー]だろうな。

ムスコよ、今日はお前の出番は無いので大人しくしていなさい。

俺は全力で明後日の方向に気を逸らしたのだった。

そんなふうに俺が「あ、あの雲飛行機みたいな形してるー」とか空想に耽っていると、またもや上のドアが開く音がした。
あぁ、今度は桐乃か。

どうする。

考えるも、このまま寝たふりしか俺には選択肢が無いので続行する。
あ、こら、お前の出番は無いと言ったろ? ムスコは引っ込んでなさい。








   ・・・・







あやせ視点。


気がつくと、結構時間が経っていたようです。
上から桐乃が降りてくる音がしますから。 はぁ、あっというまでした。それではそろそろ起きますかね。

そう考えるも、私の体は反応を示しません。それどころか、顔をお兄さんのお腹に向けて寝転がってしまいました。

ちょ、なにしてるんですか私! あ、でもなんか気持ち良い。どうしよう、お兄さんの匂い良い匂いです。
だからしっかりしてください私! そんな事してたら桐乃が降りてきてしまいます!

「あやせー? 加奈子ー? どこー?」

あっ!!
手遅れになってしまいました。桐乃はリビングの扉を開くと、私達を探してキョロキョロ見回しているみたいです。

「って兄貴!? 部屋から出てくんなっつったじゃん! 何出てきてるわけ!?」

桐乃はお兄さんを見つけたかと思うと、そう言いながらこちらに向かって歩いてきました。
多分桐乃の事ですから、お兄さんがこんな所にいると私達に見つかって絡まれると思ったんでしょう。だからお兄さんを私達から遠ざけようとしてお兄さんに部屋から出ないようにと言っていたんでしょう。
はぁ、心配性だなぁ。別にお兄さんがいたって絡んだりしませんよ。こんな変態。

そう内心で罵倒するも、今の現状を思い出し、思わず顔を赤くしてしまう。
や、やっぱりお兄さんを別の部屋に隔離しておくのは正解だったかもしれませんね。

「はぁ、返事無し。って事は寝てんのね。兄貴、早く起きて自分の部屋に戻れっつの」

そう言ってさらに近づいてくる桐乃。とうとう、お兄さんのすぐ近くまで来てしまいました。
桐乃はこちらを覗き込んだかと思うと、一気に真っ赤になり口をあわあわとさせ始めました。

「あ、あああ、兄貴!? 何してるわけ!?」

桐乃は叫んだかと思うと、お兄さんの頭をパシンとはたきました。その衝動でお兄さんが倒れてきます。
……あれ? デジャヴ?

私がそう思うと同時に太ももに軽い衝撃が。さらさらとした髪の毛の感覚が。
こ、こここ、これ、これってぇぇぇぇ!!!!!

ボンッ!!

か、顔が熱いです!! お、お兄さん早くのいてください!!!

「わ、わわわ、しまった! は、早くもとに戻さないと!!」

桐乃は慌ててお兄さんをもとの状態に戻します。
……もうちょっと良かったんですけど。

……違います。間違えました。あぁ、清々しました、お兄さんの汚らわしい頭が私の太ももに当たったなんて考えるだけで鳥肌です!!
私は頭の中を訂正すると、これからどうするかを考えます。お兄さんの太ももは寝心地が良いので、仕方なくもうちょっとだけ寝たい気分なので桐乃に起こされるわけにはいかないのですよ。

って桐乃!? 何をやろうとしてるんですか!?

薄目を開けたまま、桐乃の方を見てみると、桐乃は何故かソファの前に移動していた。
そしてあろうことかお兄さんの太ももを開き始めたのです。

「ふぅ、な、なんか疲れちゃったから休も。それからでも良いよね、あやせたちを起こすのは。」

太ももを開き終わると、桐乃は「あー疲れたー」という声と共にその間に座りました。
な、なにやってるんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

私の心の中で叫び声が空しく響きました。









   ・・・・









京介視点。



何故だぁぁぁ!!!
何故俺の股の間に座るんだぁぁぁ!!

おい桐乃、いくら友達と一緒が良いからってな、これはやっちゃいけないことだぞ?



なんて考えていた桐乃が座ったときから早くも20分の時がたっていた。
そろそろ太ももの感覚がなくなってきた頃だ。
肝心の下の奴等は起きる気配など微塵も見せずにより深い眠りに陥っていた。呼吸もゆったりとしてるし、時々寝返りもうっている。
加奈子なんて何回転げ落ちそうになるのを防いでやったことか。

でも、そろそろ何とかして起きてもらわなければならない。この状況で親父やおふくろが帰ってきたら俺の世間体的に人生が終了する。

左に加奈子。右にあやせ。そして中央に桐乃という、異常な事態。
こんなものをあの親父達に見られてなるものか。

知恵を振り絞れ、俺。

「ん、うぅ」

桐乃が寝苦しそうに眉を顰めながら身じろぎした。
お、悪いな。起こしてしまうところだった。

俺が桐乃の頭を撫でると、桐乃は満足そうにもう一度身じろぎして寝た。
ふぅ、なんとか起こさずに済んだか。

………ってあやしてどうすんだ俺ぇぇぇ!!!!

思わず自分でツッコんでしまった。

「どうする、どうする俺!?」

何時まで経っても結論が出ないまま、過ぎていく時間。
そして、ついに時は来た。

おふくろ様のお帰りだ。

玄関が開く音と共に俺の体が冷や汗を大量に排出する。
どうする、おふくろなんかにバレてみろ、近所の情報網を俺の変態説が駆け巡るぞ。
無理やり立っちまうか? でもそんな事したら皆が地面に頭をうつ事になる。却下だ。

どうするぅぅ!! 俺ぇぇ!!

そして、リビングの扉が開く瞬間。俺は近所での俺の評判を諦めた。
あぁ、俺は明日から近所で変態として扱われるんだな。

なんて事を考えて、「はぁ、やれやれだZE」と言って肩を竦める。

「京介、あんた…」
「一応言っとくがな、おふくろ。これは俺のせいじゃないんだ」
「居たんなら返事ぐらいしなさいよ、それとほら、荷物片しといて」
「……へ?」

変だな、何故おふくろは平常運転なんだ? こんな事があったらおふくろの事だから「あ、あんたなんて事してんの! 桐乃の友達だけならともかく桐乃にまでそんな事させて!!」みたいなことを言い出すと思っていたんだが。

「ほら兄貴、お母さんがあぁ言ってるんだから手伝いなよ」
「そうですよ、お兄さん」
「はぁしっかりしろよな! なにボケっとしてんだよ!」

「へ?……へ?」

気がつくと、桐乃達も起き上がっている。
バカな。何時の間に?
それどころか、まるで何事も無かったかのように振舞っているではないか。
そう、まるでさっきまでの事は現実に無かったかのように。

……ちょっと待て。うん。ちょっと待とう。
ではなにか? 俺が今さっきまで体験していた事は夢か何かだというのか? あんなにリアリティがあったのに? 桐乃の髪の感覚も、何か柔らかいクッションの感覚も全部覚えているのに?

「いつまで寝惚けてんの、兄貴。さっさと手伝ってきなって!」

桐乃はそう言うと、俺の背中を思い切り叩いてきた。バチンと音をたてる。
痛い。

そうか、今さっきまでのは俺の夢だったのか。っていうか俺はなんて夢を見てしまったんだ。あやせたんはともかく何故桐乃や加奈子まであんな事になるんだ! 夢は心の奥の願望とか言うしもしかしてあの夢は俺の願望なのか!? い、いや、そんな事は無ぇ、断じて無ぇ!! あれだよ、エロゲのやりすぎだよ。多分桐乃から借りたエロゲのせいであんな夢を見たに違いない。

そうだ、そうに違いない。そう言う事にしとこう。

精神的に崩れそうになるが、なんとか誤魔化すと俺はこの件を忘却するためにおふくろの手伝いに向かった。

今日のご飯はなんだろなー。ニンジン玉ねぎジャガイモお肉にカレールー、ってまたカレーかよ!!









 ・・・・









晩御飯後。

晩御飯をご馳走になっていったあやせ達を見送る事になった。
おふくろの命令で。

昼間にあんな夢をみたせいで妙に気恥ずかしいが、それをなんとか押さえ込みながら一緒に歩く。

距離的に近いのはあやせの家なので、先にあやせの家に向かう。あやせは何故か先に加奈子の家に向かいたがっていたが、距離的に遠回りになると言うと渋々といった感じながらも諦めてくれた。

黙々と夜道を歩く。冷えた空気が気持ち良い。

「あのさ、お前ら今日の昼間、その、俺の膝枕で寝なかったか?」

思い切って聞いてみる。どうしても今日のあれが夢だなんて思えなかったのだ。

「はぁ? 何を言ってるんですか? お兄さん」
「はひゃひゃひゃ、とうとう妹の友達で妄想かよ、童貞乙wwwwww」

……そうですよね。

その後は散々弄られ、気付くとあやせの家についていた。
軽く挨拶を交わして分かれようと背中を向けるが、そこであやせに引き止められた。

「お兄さん、今日はありがとうございました。おかげで良い夢が見れましたよ」
「ん? 夢? なんの事だ?」

いきなりお礼を言われたので問い返すが、あやせはすぐに背中を向けると家の中に入っていった。
ちょっと耳が赤くなっていたが、大丈夫なのか?

俺は心の中で風邪引かないようにな、と言うと加奈子の家に向けて出発した。






「なぁ、クソマネ」
「あん? なんだよ」
「お前ってさぁ、就職とかしねぇの?」
「まぁ高校卒業したら就職も良いかもなぁ」
「マネジメント、興味あったら言えよな、すぐに紹介してやっから」

いきなり話かけてきたかとおもうと、いきなり就職先を紹介してくれる、と言うものだから少し驚いてしまった。
思わず加奈子の方に視線を向ける。するとそこには耳まで真っ赤になった加奈子がいて、俺とは反対の方向に視線を向けていた。

笑ってしまいそうになるのを我慢しながら、加奈子の頭を撫でてやる。
加奈子はビクリと肩を震わせるも、振り払おうとはせずにされるがままにされている。

「あぁ、あんがとよ」
「……ふんっ」

マネジメント、か。まぁそれも良い未来なのかもな。

なんて事を考えて、歩いていると加奈子が小走りに家に飛び込んだ。
どうやらついたらしい。

「じゃ、おやすみ」

そう言って帰ろうとする。
が、またもや引き止められた。

「クソマネ! 今日は良い夢が見れた! サンキューな!!」

またそれか、と思ったものの、どうせ聞き返しても返答は無いのだ。
俺は手をフリフリと振ると、そのまま歩いていったのだった。










家に到着。
俺はリビングに入ると、麦茶を入れてソファにもたれ掛かった。
昼間は太陽の光が入ってきていたリビング、今は月光が入ってきて静かな空気を醸し出していた。

コクリと麦茶を飲むと、机に置いた。

そのままぼんやりと月を見ていると、リビングの扉が静かに開かれる。

「桐乃…か?」
「うん。兄貴、その、さ。ありがとね、おかげで良い夢が見れた」
「どういたしまして」
「あれ? なんの事だ? とか聞かないんだ?」

俺はもう一度麦茶を飲むと、桐乃を見る。お風呂上りなのだろうか? 上気した頬はピンク色に染まっている。

「聞いたさ、けど皆答えてくれないだろ? なら良いよ。俺はお前らが良い夢を見れたならそれで良いよ」

くさすぎたかな? と思い桐乃を見るが、桐乃はバカにするどころか、さらに頬を赤くして微笑んでいた。

「うん。ありがと」
「あぁ、早く寝ろよ」
「分かってる、お休み兄貴」
「おう、良い夢を」

桐乃はもう一度ありがとうと言うと、リビングを出て行った。

また静かになったリビング。
俺はソファに深く腰掛けて、息を吐き出した。


俺にとって今日は、精神が磨耗するだけの最悪の日だった筈だ。
この人生の中で、これ程多くの冷や汗をかいた日もそうは無いだろう。

それほど今日は俺にとって辛い日だった筈だ。

だけど、今はどうだ? 何故こんなにも満足しているんだ?
こんなにも充足感のある日になっているのは何故だ?


自分に問いかけてみる。
答えは見つからない。見つからないと思い込む。

本当は分かっているんだろう?

分かっていないと思い込む。

本当は気付いているんだろう?

気付いていないと思い込む。

お前は、分かっているんだ。何故今日という最悪の日が最高の日に変わったのかを。とっくの前に気付いていたんだ。
俺は気付いていない、分かっていない、見つからない。そう考える。
だけど、もう見えていた。答えは見えていた。


『お前はあいつらが喜んでくれたから、良い夢を見れたから、それが嬉しくて今日と言う最悪が最善に変わったんだよ。気付いてたんだろ? だって俺は、お前なんだから』


あぁ、そうだよ。
素直じゃなかっただけだ、だから俺は目を逸らした。
嫌々あいつらに付き合っているという俺を作っていたかったんだ。

「なんだ、分かってるじゃねぇか、俺」

俺はふっと笑うと、目の前の麦茶を全部飲み干した。
コップを持っていくと、そっとリビングを出る。


きっと良い夢を見ている妹を起さないように。


さて、明日は久しぶりに秋葉でも回るか?
黒猫や沙織、そして桐乃の笑顔を思い浮かべながら俺は自分のベッドに潜り込んだのだった。




fin
ツールボックス

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