( ∵) もう終わるようです その2


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体にグッと力を込めて、今すぐにでもこの地から離れてしまいそうなミセリを止める。
すっかり忘れていたが、彼女たちと僕とじゃ散歩の認識が違う。
同族なのにおかしなことだ。

――いや、おかしいのは僕なのだけれど。

( ∵) (歩こうよ)

ミセ;*゚ー゚)リ 「え、えぇ~……疲れるじゃん」

ミセリにとっては普通であるが、僕にとっては考えられない散歩。
その命を少しでも長くしたくて、僕は"僕の散歩"を提案した。

( ∵) (お願い、今日だけ……ね?)

ミセ*゚‐゚)リ 「……」

ミセ*゚ー゚)リ 「仕方ないなぁ、今日だけだよ?」

( ∵) (ワガママ言ってゴメンね)

ミセ*゚ー゚)リ 「本当にねぇ」

ワガママを言って申し訳なかったが、承認してもらえてよかった。
しかし、気のせいだろうか。
こんなに明るい彼女が、一瞬だけその表情を曇らせた気がするのは。

ミセ*゚ー゚)リ 「高所恐怖症?」

(;∵) (違う!)

きっと気のせいだろう。

特に向かう当てもなくフラフラと歩く。
まぁ僕が喋る度に一々止まっているのだが、彼女はそれにイヤな顔一つしないのだからありがたい。

そんな時、彼女はその藪をつついてきた。

ミセ*゚ー゚)リ 「どうして、声を出さないの?」

思わず足がピタと止まる。
地面に文字を書く為ではなく、その質問にドキリとして。

ミセ*゚ー゚)リ 「結局、昨日答えてくれなかったでしょ?」

( ∵) (理由はないよ、何となくさ)

ミセ*゚ー゚)リ 「嘘吐いちゃダメだよー?」

( ∵) (嘘なんかじゃないよ)

いいや、嘘だ。
話さない理由も、その言葉も全部嘘だろうと、僕の中で何かが唾と共に吐き捨てる。

ミセ*゚ー゚)リ 「正直に教えてほしいなー……ダメかな?」

( ∵) 「……」

えぇい、もう何だっていいや。
成るように成るだろうとため息を吐いて、僕は初めて同族に打ち明けることにした。
ミセリだったら、わかってくれるかも知れない――。

( ∵) (理由は、二つあるんだ)

ミセ*゚ー゚)リ 「……」

( ∵) (一つは、少しでも長く生きていたいから)

ミセリはジィと地面に現れる僕の字を見つめている。
初めて同族に話した、その理由。

そして――

( ∵) (もう一つは――)

初めて僕が別の存在に打ち明ける、その理由。

( ∵) (僕は、声が汚いから)

あぁ、下らない下らない下らない。
何て愚かな理由なんだろうと、自分でも思う。
自分の嫌いな部分に蓋をしないと自分を愛せない、僕の中身は自分の小さな体よりもよっぽど矮小だ。

( ∵) (……下らないね)

ミセ*゚ー゚)リ 「自分の声が、嫌いなの?」

僕の文字から視線を外し、目を見つめながら不思議そうに聞いてくる。
他のヤツからしたら不思議だろうね、僕も自分以外がそう言うのを聞いたことがないし。

( ∵) (うん、好きじゃないかな)

ミセ*゚ー゚)リ 「そっかー……でも、聞いてみたいなぁ」

寂しそうなその声に、一度大きく心臓が跳ねる。
まるでその言葉が弓か槍のように突き刺さった気がした。

僕のこんな枯れた、ガラガラな声でも、聞きたいと言ってくれるなんて。

( ∵) 「……」

ほんの一瞬だけ悩んでみたが、何てことはない。
彼女は僕の声を聞いたことがないから聞きたいと言ったのだ。
別に、僕の声が好きで言ったワケなんかじゃない。

そりゃそうか、彼女どころか誰だって聞いたことがないのだから。
一度聞けばもういいと、そう言うに決まっているさ。

そこまで考えて僕は、首を横に振ってみせた。

ミセ*゚ー゚)リ 「そっか、無理言ってゴメンね」

( ∵) (いや、いいよ)

お互いに苦笑いで、彼女は声を出し、僕は文字を書いた。
そうしてまた歩き出したが、空気が何だか重たい。
先ほどよりもミセリの口数は格段に減り、その内に立ち止まることもなくなった。

ミセ*゚ー゚)リ 「じゃあ、楽しかったよ」

( ∵) (うん)

昨日よりも少し遅い時間、太陽がその身を完全に消してから、僕らは別れの言葉を交わす。
だけれど、どうしても何かがノドに引っ掛かっていてムズムズするのだ。

ミセ*゚ー゚)リ 「明日……明日もまた、会えればいいね」

( ∵) (うん、会おうよ。また同じ場所でお話をしよう)

僕の書いた文字を見て、彼女はその眉毛をハの字にしてはにかむ。
やはり何処か寂しそうなその顔は、僕の心をぐちゃぐちゃに掻き回す。
それはすぐに上からいつも通りの笑顔に変わるのだが、その一瞬がどうしても引っ掛かっていた。

ミセ*^ー^)リ 「そうだね、うん! 約束!」

手を振りながら月に取り入られようとする、彼女の後ろ姿。
何だかこのままじゃいけない気がして。
ただ手を振って別れるだけじゃ、後悔する気がして。

( ∵) 「ゴェェェェエ゙エェェ!!」

自分でも気づかない内に、大きな声で叫んでいた。
あぁ、あぁ――――、何て気持ちがいいんだろう。

初めて会った時のように目を大きくしたミセリが、振り返る。
やっぱり、僕の声は汚いなぁ。

もしかしたら、これで嫌われてしまったかもと、叫んだことを後悔し始めていた。
しかし次の瞬間、彼女がお腹を抱えて笑っているのが見えた。

ミセ*^ー^)リ 「あはは! 何その声!」

やっぱり笑われてしまったか。
そりゃあそうだ、こんな声を笑わない方がおかしいだろう。

( ∵) 「……ゴェ」

ミセ*ぅー゚)リ 「いやー、顔に似合わない声だねぇ……」

笑いながら泣くと言う高等テクニックを見せ付け、ようやくそれが収まったミセリが目を擦りながら感想を言う。
うぅむ、やはり自分の声は恥ずかしいし、初めて他の存在に聞かれてよりいっそうだ。
しかし、初めて出した大声は随分と気持ちがよかったな。

そんなことを考えていた僕の手が、突然ギュッと握られる。
ニコニコと笑っているミセリの顔が、ずいと近づいてきた。

ミセ*゚ー゚)リ 「アタシは好きだよ、ビコーズの声」

行動も言動も、その全てが思わぬ不意打ちだった。
急に顔が熱くなり、自分でも真っ赤になっているのがわかる。
それを見てミセリは、またクスクスと。

ミセ*゚ー゚)リ 「明日、絶対会おう。うん、約束は果たさなくちゃ」

そのまま目を閉じて、一人うんうんと頷くミセリ。
僕はと言えば、夢見心地でポーッとしたまま、体が固まっていた。

ミセ*゚ー゚)リ 「ありがとう、何か勇気が湧いたよ」

何の話かわからなかったが、お礼を言われたのでひとまずどういたしましてと返す。
そうして、今度こそミセリは月に取り入られて行った。

いまだに体が熱いし、その場から動けずにいた僕はとりあえず横になった。
今夜も星が綺麗に輝いて、その存在をアピールしている。

ふと、昨日会った女性を思い出した。

――('、`*川 「光って消えるだけ、その命の灯火を一瞬だけ燃え上がらせて消えるだけ、そう知っているのに」

何となく彼女の言っていたことがわかった。
みんなそれぞれ、自分を認識してもらいたくて輝いているのだ。
きっと、今日僕が初めて叫んだ時、僕は今まで生きてきた中で一番輝いていたのだろうな。

明日、ミセリと会ったら散歩に行こう。
"僕の散歩"ではなく、"僕たちの散歩"をしよう。
そう心に決めて、寝ようと決心した時に何処からかヴァイオリンの音が聞こえてきた。

( ・∀・) 「ハロー、お久しぶりー」

全身を緑色で包んだヴァイオリン弾きが、くるりと一回転して挨拶をする。
何だか嬉しくなった、前はあんなに嫌だったのに。

( ・∀・) 「ははぁ、ふふぅん、ほぉほぉ……」

僕を中心にぐるぐると回りながら、じろじろと僕を見回す青年。
前言撤回、やっぱりコイツは大嫌いだ。

( ・∀・) 「なぁんか、変わったねぇ」

しばらく僕を観察して唸っていた彼は、ようやく離れるとそう言った。
僕は何も変わっていないのに、彼は何を言っているのか。

( ・∀・) 「うん、やっぱり前と雰囲気が違う」

アゴを手で擦りながら、ニヤニヤと笑って納得していた。
何だか嬉しい気持ちが湧いてきて、思わず僕もニヤリと返す。
たしかに、変わったのかも知れない。

( ・∀・) 「しかし、流石に本能を抑える男だよ。まだまだピンピンしてらっしゃる」

( ∵) 「……?」

( ・∀・) 「おっと、こんな時間……それではまた何処かで」

細く美しいヴァイオリンの音色だけを残して、彼はピョンピョンと去っていく。
いや、音色だけではなく僕に何とも言えない気持ちも残していった。

彼の言葉の意味を、この時の僕は理解できなかった。

◆◇◆◇◆

いつもより少し早く起きる、ざまあみろ太陽め。
とは言ってみるものの、やはり早起きをしても暑いものは暑い。
久しぶりにノドを潤すだけではなく、水浴びも済ませた。

そうしてまたいつも通りに朝ごはんを食べて、一息を吐く。
数分した頃に重い腰を上げて、ミセリとの約束の場所へと向かい始める。

今日は僕にとって、大切な大切な一日だ。
今までの僕を脱ぎ捨てて、新しい自分に成るための一日。
そして、ようやく僕が同族と一緒に成れる日。

自然と、約束の場所へと向かう足取りも軽くなるものだ。
いつもよりも短い時間で、昨日よりも遥かに早い時間に、到着することが出来た。

( ∵) 「……?」

そこにいたのは、元気なミセリではなく、横たわる黒い影。

つい昨日に見たのと同じような姿の、それ。

慌てて近寄り、それを確認する。
あぁ神様と祈りながら、心の中で叫びながら、その顔を見た。

本当は見ずとも、わかっていたのに、あり得ない可能性を求めて――。

ミセ ー )リ

( ∵) 「……ゴェ」

わかってる、わかってるんだ。
僕たちの命が、とても短いなんてことは、無駄な足掻きだなんてことは。
極力削らないようにしていた僕だって、持ってもあと二日や三日が限度だろう。

ミセリは、アタシとあまり変わらないと言っていた。
つまり、真っ当に生きていた彼女が僕よりも早いのは、当然なのだ。

( . ) 「……ゴェェ」

胸が締め付けられる。
キュウ……なんて軽くではない、ギリギリと音を立てて、捻り潰さんが如く強く。

( ;;) 「ゴェェエ゙エ゙ェェェェェェエェ゙ッ!!」

だから僕は叫んだ、いつまでもいつまでも、強く、強く。
もう、何だっていい。
どうせ消えてしまう命だ、もう近いその日が来るまで、存分に見せつけてやる。

そして今まで開くことはなかったその羽を、力いっぱい伸ばして羽ばたく。
お天道様にまで届くとは思えないが、構うものか。
誰よりも高く高く飛んで、僕と言う存在を知らしめてやる。

汚い声だが、ジィジィと強く、大きく叫び続ける。
何かを振り払うように、光に向かって真っ直ぐに飛び続ける。

光って綺麗になる、なんてことは出来ない。
細く美しいヴァイオリンの音色も、響かせることはない。
彼女みたく、他の存在を幸せな気持ちにすることなんか、出来るハズもない。

だけれど、ガラガラに枯れたこの汚い声で、精一杯、思い切り歌うことなら出来る。
誰かのことを憶えて、その記憶を抱えていることだって出来る。
もしかしたら、誰かの記憶にだって残れるかも知れない。

あぁ、あと少し、もう本当にあとちょっとだ。
もうすぐで会いに行くことになるんだろう。
今なら胸を張って、君と同族だって言えるよ。


ガラガラと汚い声で鳴きながら飛ぶ、


          その存在を誇示している愚かしい僕は、


                        短いその命を燃やす、セミなんだって。




                         ジィジィ



  ジィジィ



        ジィ、ジィ



ジィ..ジィ..




いつの間に、本当にそう思った。
風を切り飛んでいたから気づかなかったのか、しかし気づいた時にはもう地面は目の前。
その身を打ち付けても、もうその痛みを感じることもなかった。

知らない内に、ロウソクは随分と短くなっていたのか。
必死に本能を押し付けてまで節約したその身は、そんな努力を嘲笑うようにあっさりと動かなくなる。

だけれど、後悔なんかしていない。
押さえつけていた分だけ強く、大きく、その一瞬を輝くことが出来たのだから。

僕にはあの螢のみたいに光ることは出来ない。
僕にはあのキリギリスみたいに美しくは鳴けない。
僕にはミセリみたいに、他の存在を幸せにはさせれない。

それでも見てくれ、僕の命は螢の光よりも輝いたと思うし、僕の声はキリギリスのヴァイオリンよりも大きい気がする。

ミセリのように他の存在を幸せには出来なかったが、僕は僕を幸せにすることは出来た。
本当に小さな小さな結果だが、これが何も出来ないと思っていた僕だ。

意識がどんどん遠くなっていく。
あの螢の言っていたことが、今ならば十分に理解してやれる。
どんなに長く生きていても、ただ生きるだけじゃなんの意味もない。

あぁ、そう言えば彼女には聞きたいことがあったんだっけ。
しかしそれももう聞く必要はない、そう気づいた時に何だかおかしくて、クツクツと笑いが込み上げる。

もう固まったその表情が、僅かだが動いて口角を上げる。
きっと彼女もミセリも、同じ気持ちで羽ばたいていったのだろう。
何だか妙に清々しいし、自分が誇らしい。

眠たい。
いつもならばうざったい太陽の日差しだが――――いや、やっぱりこの期に及んでもうざったく感じる。

きっと僕が消えても、世界は何一つ変わりやしない、当然だ。
空も地面もただただ広くて、川は緩やかに流れて太陽は憎らしく照り付けて。

それでも、もしも、だ。
頭の片隅にでも僕のことを、あの夏の日に煩く鳴きながら飛んでいった、セミがいたなと。
そう覚えている存在がいたならいいなぁ、とは思う。





             もう、夏が終わる――――。

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