从 ゚∀从夕やけ空のようです 第二次 その2

('A`)「ん?」


くたびれたジャケットを羽織った男がいた。
部屋は時計だらけでありとあらゆる種類がある。

それはおおよそ校内にある部屋とは思えないような空間だった。


从; ∀从 「な、なんなんだここ……」

('A`)「お、お前さんは」


男が何か言おうとしたが私は聞かずに入って来た扉から出た。


「ああそっちは!」


得体の知れぬ物への恐怖に駆られながら私は駆けた。

気がつくと私は夏空の下にいた。


从 ;゚‐从 「~~~!」


熱い、さっきまで学校にいた時とは全然違う体感気温だった。
ここはどこだ? 駆けながら周りを見渡す。

じわじわと蝉の鳴き声がする、アスファルトからの照り返しが熱い。


从 ;゚‐从(ここは……)


そこで初めて私は体が幼い時のそれに代わっているのに気付いた。

(だから落ち着けって)

从 ;゚‐从「!?」


突然私の頭に声が響いた。
それはさっき出会った男の声とよく似ていた。


(いいか? 落ち着いて話を聞けよ?)

从 ;゚‐从 「うん……」

(じゃあ落ち着いて今来た道を戻るんだ)

从 ;゚‐从「……わ、わかった」


男も得体が知れなかったが、今のこの状況よりはましだ。
そう思えた。

('A`)「簡単にここの説明をしようか?」

从 ゚∀从 「うん……」


不思議だった。
空間に扉が浮いているとしか言えない物が戻った場所にはあった。
そこに入ると私は元の中学生の姿になっていたのだ。


('A`)「俺も細かいことはわからない。ただここに留まっているだけだから」


そうしてぽつぽつと男は語り出した。

从 ゚∀从 「ねじれ?」

('A`)「ああ、そうだね、なんか過去と未来が入り混じってんだよここ」

从 ゚∀从 「いつからこんなところ……」

('A`)「さあ? 俺もそれはさっぱり。うねってる時計とかには触らないようにしなよ、さっきみたくその時間いっちゃうからさ」

从 ゚∀从 「さっきのは私の幼少時代?」

('A`)「おそらくね、そんときの自分にくっつくというかなんというか」

从 ゚∀从 「幽霊みたいな」

('A`)「そうだな、そんな感じ」

从 ゚∀从 「もしかしてさ、なんか影響あったりするの」

('A`)「影響?」

从 ゚∀从 「私に」

('A`)「……ある、と思う。干渉した時間も短いから命がどうたらはならないだろうけど」

从 ゚∀从 「……なんか行方不明なったり?」

('A`)「そういうケースもあるかもなあ……俺もよくわかってないんだ。時間に干渉して、しわ寄せが来るってことぐらい」


昔の謎が少しだけ解けた。
たぶんさっきのアレが私の失踪の原因だろう。
なにがどうしてどうなったのかなんてわからないがおそらくそれで私は行方不明になって発見されたのだ。

自業自得だったわけだ。


从 ゚∀从 「それで……」

('A`)「ん?」

从 ゚∀从 「なんでこんな場所に私は来たんだ?」

('A`)「さあ?」

从;゚∀从 「さあ……って」

('A`)「俺もよくわからないんだよ、ちょっとわけあってここから出ないだけでさ」

从 ゚∀从 「なんでまた……」

('A`)「まあ色々あって……
    ただ、一度来た人は来やすくなるらしい、あと君がよくいく場所からここにつながりやすくなったり」

从 ゚∀从 「そうか……」


それ以上は男から何も聞きださせそうになかった。
彼がどうこうしているわけではなく、なぜか存在している空間らしかった。

('A`)「こっからならたぶん戻れるよ」


そう言って男は古びた時計を指差した。
それが帰る道らしい。


('A`)「もうここは忘れたほうがいい」

从 ゚∀从 「ああ、こんなの夢だと思う事にするよ」

('A`)「ああ、そう、それがいいよ」

从 ゚∀从 「じゃあ、もう会わないとは思うけど」

('A`)「あ、それと」

从 ゚∀从 「ん?」


急に真剣な声のトーンになり男が言った。


('A`)「絶対にここに来たいなんて願っちゃだめだ。滅多にそうなることはないだろうけど」


* *


* *


(;^ω^)「重いお……」

从 ゚∀从 「ほーらファイトファイトー」


結局ショッピングモールに行って僕はハインにたかられっぱなしだった。
僕の気分転換というよりハインの気分転換じゃないかこれは。


从 ゚∀从 「どうだ、少し気が楽になったか」

( ^ω^)「そうですね、気楽で体が軽いだけじゃなくて財布も軽くなりましたね」


言ってから思った。やられる。このパターンは高速パンチだ。
しかしパンチは飛んでこなかった。


( ^ω^)「お?」

从 ゚∀从 「……」


ハインは西に沈む太陽を見ていた。
どこか寂しげに。

从 ゚∀从 「これをやろう」


そう言って彼女は僕に何かを放り投げた。


( ^ω^)「時計……?」


腕時計だった。
どこか使い古された感じだ。


从 ゚∀从 「……私の受験時に使ってたやつだ。ご利益あるぜ」

( ^ω^)「おお! ありがとうだお!」

从 ゚∀从 「……ああ」

( ^ω^)「?」


何処かハインの様子がおかしかった。
普段とは違う、どこかしおらしさすら感じさせる雰囲気だ。

从 ゚∀从 「そうだな……」

(;^ω^)「お?」

从 ゚∀从 「受験終わったらまた買い物行こう」

( ^ω^)「えーまた僕のおごりかお」

从 ゚∀从 「いや今度は私がおごってやる」

( ^ω^)「マジで?」

从 ゚∀从 「マジマジ」

( ^ω^)「ねーよwwwwww」

从 ゚∀从 「だまろうか」

( :#)"ω^)「タイミングずらしまで使うとは……成長したのう……」

从 ゚∀从 「まあガチでおごってやるよ」

( ^ω^)「お、それは楽しみにしとくお」

从 ゚∀从 「合格祝いにさせろよ」

( ^ω^)「善処するお」

だけれど、それは叶わなかった。


* *



秋が終わる少し前の事だった。
つるべ落としよりもなお早く、ハインが死んだ。

交通事故だった。
前方不注意などと言うわけのわからぬ理由で彼女の命はあっさりと刈り取られてしまった。

さぞかし無念だったろう、辛かっただろう。
そんな彼女の事を考えると胸が苦しくなってぽたぽたと涙がこぼれた。

なのに、


( ;ω;)「どうして笑っているんだお……」


彼女の死に顔は不思議と安らかだった。
まるで何も悔いはない、とでもいうように。

そんなわけはないだろう。
君の人生はこれからだったのではないか。

どうして笑っているのだ君は!

人の感情というのは不思議な物で、重大な決断をするときに限って起伏が無い。
受験ノイローゼからはいくらか脱却していた僕だがこれは中々堪えたらしい。
僕は本当に簡単に決断した。小さい時に好きだった絵本を「邪魔だから」って時が経って捨ててしまうみたいに。

マンネリとした勉強の毎日などにまいっていた僕としては十分すぎる理由だったのだ。


( ^ω^)「死ぬお」


そう、人は簡単に命を捨てることが出来る生き物なのだ。

1、まずほどほどに長いロープを用意します。

2、ロープでわっかを作りましょう。ちょっとした重みで解けたりしないようにしっかりと結びましょう。

3、天井に吊るします。吊った時に足が地面につかないように気をつけましょう。


( ^ω^)「……」


僕の部屋で準備はなんの滞りも無く行われた。
後は階段を上る要領で椅子に乗って、縄を首にかけて椅子を蹴ればいい。

新幹線で東京から大阪へ移動するよりもずっと早くあの世のハインの場所まで行けるだろう。
もしかしたら僕の場合地獄へ行ってしまうかもしれないが……

椅子に足をかけて、僕は右足から椅子に載せるべきか、左足から載せるべきかなんて考えた。
どうしてこんなどうでもいいことを考えるのかなんて思うと苦笑してしまった。


( ^ω^)「生きようとでも?」


ここまで来たのだ。もう生きようと思ってるのなら相当なナルシストだ。
それも、友人が死んで、それで悲劇の中心になったかのような非常に醜い類の。

さあさっさと吊ってしまおう。
そうして僕が縄に手をかけた時に自分の漬けていた腕時計にふと目をやった。


( ^ω^)「ああ、あの時の……」


ショッピングモールに行った時にハインがくれた腕時計だ。
最初サイズの調整を間違えてキツくなりすぎてしまい、手がしびれたりした。

僕はなんとなくじっとそれを見ていた。


( ^ω^)「……」

( ^ω^)「……」

『きっとブーンは……』

( ^ω^)「……」

『本当にギリギリまで逃げないで』

( ^ω^)「……」

『駄目になっちゃうだろうから言っておくけどな?』

『ブーンは本当にギリギリまで逃げないで、駄目になっちゃうだろうから言っておくけどな? 
くじけてもいいし、逃げたくなったら逃げてもいいからな?
情けなくって生きているのが嫌になっても死ぬなんてつまらん理由だからな』

『はあ?』



この卑怯もんめ。

ハイン、君は本当にずるい。

思いだしてしまった。
思いださなければ簡単にあの世に行くことが出来たものを。

最後の最後でひきとめられてしまった。

そうして僕は迷ってしまったのだ。
生きるか死ぬかを。


( ^ω^)

( ;ω^)

( ;ω;)


いっそ何にも考えないくらいになっていれば。


( ;ω;)


こんな気持ちにならなかったろうに。

椅子から降りる。
僕は実行しなかった。
忠告通り逃げたのだ、僕は。

その時だった。

チクタク                          チクタク


          チクタク            チクタク
チクタク

               チクタク            チクタク


    チクタク            チクタク







幾重にも重なり合う、時計の音。
僕の部屋の扉の向こうからうるさいくらいのそんな音が聞こえてきた。

特に何も考えがあるわけでもなく機械的に僕は扉を開いた。


('A`)「ん?」


部屋に入るとくたびれたジャケットを着た男がいた。
特別に若いわけでも老けているわけでもない、どこかつかみどころの無い外見をしていた。

異様な部屋だった。
壁にも地面にもありとあらゆる種類の時計があり、すべてが停止している。
まるで時が止まっているかのようだった。


( ^ω^)「どこだお、ここは」

('A`)「うーん、なんなんだろうねえここは」

( ^ω^)「あんたもわからないのかお」

('A`)「いや、わかってはいるけど何とも説明しにくい場所でね、こう色々と時間がねじ曲がっている場所というか……」


そこまで言って彼は僕を見た。

('A`)「ところで、あんた内藤っていう人?」

( ^ω^)「なんで知ってるんだお?」


そう答えると彼は少し嬉しそうな顔をした。


('A`)「ああそうかあ彼女やったんだなあ。そうかあそうだよなあうまくいったんだなあ……」

( ^ω^)「どういう事だお」

('A`)「え? ああ、そうか、うん、なんと言ったらいいのかな、ええと、あのタカビーっぽい子いるだろハインとかいう」

( ^ω^)「ハインかお? ハインの事かお!?」


要領を得ない彼の話し方にイライラし、つい声を荒げてしまう。
なぜ彼がハインを知っているのか。上手くいったっていうのはどういうことか。
洗いざらい話してもらいたかった。

少しの間があり、ぽつりぽつりと彼は話始めた。

* *


別れという物は突然に訪れる。
少なくとも私にとってはそうだ。

ブーンが死んだ。
自殺だった。受験ノイローゼだったらしい。

私が久しぶり(といっても一週間程度だが)に彼の家へと顔を出したら彼は部屋で首を吊っていた。
青天の霹靂というのはまさにこのことか。

ただ恙無く流れていくと思っていた毎日はいとも簡単に終わりを告げた。

どうしてもっと彼に注意を払っていなかったのか。
まじめな性格の奴だった。

少なくとも私と同じように現役で合格しても間違いないくらいには勉強していたし、
今年の試験だって万全の準備をして彼は向かって行った。
ただ、運が悪かったのだ。

だけれど彼にとってはそうでない。

あのニコニコとした笑顔の裏にどれだけの苦悩があったのだろう。
私にはもう、知ることはできない。

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最終更新:2011年02月25日 16:11
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