( ^ω^)プライベート・キングダムのようです その1

爪'ー`)y‐「以上が今度の試合のメンバーだ。ベンチメンバーもいつでも試合できるよう、しっかり練習しておくように」

(;^ω^)(馬鹿な!)

監督はそれだけ言うとサッカー部の部室から出て行った。
静まり返っていた部室がにわかに騒がしくなり、やがて部員達は各々帰り支度を始めた。

名前を呼ばれたフォワードのジョルジュが意気込んでいる。彼はいつも試合で得点を挙げるのだ。
キャプテンのモララーはいつものように涼しい顔をしている。彼はいつも試合で相手のボールを奪う。
名前を呼ばれなかったドクオは眉を寄せて唇を噛んでいた。彼はいつもベンチで味方を鼓舞する。

僕はいつも試合中、ベンチに座って出番は来ないかとずっとずっと口を噤んで待ち続けていた。

まさか、また、選ばれなかったなんて!

スパイクシューズを脱ぐ。服を脱ぐ。制服へと着替える。
狭い部室に、がちゃがちゃとロッカーを閉じる耳障りな音が響く。

大きな声が聞こえた。ふと視線を動かすと、ジョルジュとモララーが話していた。
楽しそうに笑っている。突然、そんな二人の横からドクオが口を挟んだ。すると次第に二人は真剣な面持ちになっていく。
ドクオは真剣な表情で身振り手振りを交えて何かを伝えている。僕は視線を外した。あんなの、どうでもいいんだ。

( ^ω^)(……)

どうして、試合に僕が選ばれないのだろう。僕だって試合に出たいし活躍だってしたい。
出場さえさせてもらえれば、活躍できるのに。そうだできるんだ。
相手からボールを奪って、シュートを決めて、アシストをして、驚くようなパスを繋ぐんだ。

                    □□□

部室を出るともう日が沈んでいた。冬至はもう過ぎたっけ、と頭に浮かぶ。
吐く息が白くなって消えていく。寒気がする。汗を拭き取れていなかっただろうか。
スポーツバッグを肩にかけなおして、前を歩く部員たちへとついていった。

校門へと至り、固まって歩いていた僕らは別れの挨拶を交わして分散した。
それじゃあ明日、だとか、お疲れ、だとか。誰が誰に向けるでもなく言っている。
僕は何も言わず、帰路へとついた。隣にドクオがついてくる。

僕とドクオは同じ中学校出身で、二人で仲良くこの高校へと進学してきたのだ。
そのため帰り道は同じ方向だ。帰り道を歩きながら僕はドクオへと話しかけてみた。

( ^ω^)「さっき、モララーとジョルジュと何を話していたんだお?」

('A`)「え? ああ、今度の試合についてだよ」

( ^ω^)「試合? ドクオは僕と同じでベンチ入りだお?」

('A`)「……そうだけど、今日の練習で気がついたことがあったんだよ。
   致命的とまではいかないけど、二人の連携ミスが多かったから、俺が気がついたことをアドバイスしてみたんだ。
   俺みたいな補欠がいつもレギュラーのあいつらにアドバイスってのは変かな。けど、とにかく、伝えてみたんだ」

( ^ω^)「へえ、聞いてくれたかお?」

('A`)「そりゃあ聞いてくれるでしょ。
   俺は確かに上手じゃないかもしれないけど、第三者が見て気がつくことだってあるんだからさ。

('A`)「俺が思っただけで、伝えたことが的外れだったらあの二人は従わなきゃいいんだし。
   人から言われたことを真に受けて信じ込むってことはないでしょ。納得したなら、気にしてもらえればいい」

僕はドクオの言っていることが信じられなかった。
それじゃあ、今まで僕の全ての助言は納得されていなかったのだ。
僕のこうしたほうがいいぞ、と言う発言は全て相手の心のうちで嘲笑されていたのか?

( ^ω^)(そんなわけないお)

それに、助言をしていたのは小・中学生までのことで、今はもうまるっきり声を出さない。
どうしてって、簡単なことじゃないか。ドクオはそうやって思わないのだろうか。

( ^ω^)「自分が助言した相手が試合で活躍したら、どうするんだお?」

マフラーに顎を埋めているドクオはしばらく反応しなかった。
そうしてゆっくりと僕へと振り向くと、首を傾げた。小動物のような動作だった。

('A`)「?」

( ^ω^)「自分のせいで、相手が注目を浴びるんだお? 悔しくないのかお?」

('A`)「……よくわからないけど。悔しくはないよ。むしろ嬉しいじゃないか。俺の言葉でチームに貢献できたんだ」

( ^ω^)「そうかお……」

やがて駅につき、僕らはそこで別れた。改札口が違うのだ。
道中ずっとドクオの言っていたことを考えていたが、僕には意味がわからなかった。

                    □□□

会社帰りのサラリーマンたちと一緒に電車に乗り込んだ。
このご時勢からか、大きな駅ではないからか、人は少なく席に座ることができた。
スポーツバッグを足元へと置く。そこから首を回すと車内の様子を見渡すと、見知った容姿が目に映った。

( ^ω^)(ん?)

从 ゚∀从

( ^ω^)(あれは、確か)

ハインリッヒ先輩だ。確か、去年卒業したのではなかったっけ。
彼は僕やドクオよりも二つ年上であり、かつてサッカー部のエースストライカーであった。

性別を感じさせない端正な顔立ち。脱色されている乱れた髪。覇気の感じられない瞳。
痩身で、だらしない服装。全てに大儀そうである先輩は、高校時代と何も変わっていなかった。

ハインリッヒ先輩は、ピッチ上では人が変わったように動きが活発になることで有名だった。

目を爛々を輝かせ、味方に向けて声を張り上げ、フィールド上を縦横無尽に走り回り、
一人で敵陣を切り裂くドリブルを見せたかと思えば、相手チームの意表をつく鋭いパスを通す。

先輩は、誰よりもチームに貢献していた。
素人の練習の付き合いから経験者との対話まで、何にでも彼は参加したものだった。

人望に厚く、異性からの人気が高く、教師に対する態度も慇懃だった。
学校生活で見た先輩は制服をだらしなく着ていたけれど、それが妙に様になっていた。
いつも笑顔を浮かべていて、愉快な空気を振りまいていた先輩は人気者だった。

( ^ω^)(こんなところにいたなら、サッカー部に来てくれればいいのに)

視線に気がついたのか、ハインリッヒ先輩はこちらを見た。視線がぶつかる。
すると腕を組み、眉を寄せ、足先で床を規則的に叩き始めた。とんとんとん。何かを考え込んでいる。
僕は席を立ち上がり、先輩の座席まで歩いていった。僕を見上げて声を上げる。
  _,
从 ゚∀从「んー?」

( ^ω^)「ご無沙汰してますお。ハインリッヒ先輩」
  _,
从 ゚∀从「んー?」

( ^ω^)「サッカー部で二つ下だった、ブーンですお」
  _,
从 ゚∀从「んー……? ああ!」

輝いてやるぞ、決心がつかないように点滅していた電球がいっちょやるか、とやる気を漲らせたように先輩は顔を変えた。
組んでいた腕を解いて手のひらを打ち付ける。パンッ。
その音に振り向いた数人のサラリーマンの視線を感じた。

( ^ω^)「かしわでなんか打ってどうしたんですかお」

从 ゚∀从「いやいや、悪い悪い。二つ下のブーンか! いやあ俺も年をとったねえ。すぐに出てこないんだ」

( ^ω^)「二つ離れてましたから、無理もないですお。でも、一つ上の人たちなんて少ないですけどね」

从 ゚∀从「いやあすまんすまん。しかし、二つだって? じゃあ、モララーとかジョルジュと同じなのか。あと、ドクオだ」

( ^ω^)(どうして僕だけ思い出せないんだお……? 頭が悪いのかお?)

从 ゚∀从「部活帰りか? いやいや、もう遅いのにご苦労だな。しかしどんどんやるといいぞ。
     やればやるほどうまくなって、さらに楽しくなる。好きなものこそ上手なれ、だ」

( ^ω^)「はあ」

从 ゚∀从「ええと、ブーン。サッカー好きか?」

( ^ω^)「……は、い」

从 ゚∀从「……そうかそうか。何事も楽しいのが一番だ」

( ^ω^)「先輩は、大学生になってどうですか?」

从 ゚∀从「楽しいぞ。実は今から飲み会でな。まあちょっと遅刻しちまったんだけど」

僕が高校二年。二つ上の先輩は現役合格なので大学一年。
僕は十七歳。二つ上の先輩は十九歳。飲酒・喫煙は二十歳から。……まあ、守っている人なんていないか。

( ^ω^)「サッカーはもう、やめたんですかお?」

从 ゚∀从「そうだなあ。やってないことはないけど、昔ほどの情熱がないことも確かだな。
     遊びでちょくちょくとやるんだ。飲み会の友達にもサッカー経験者がいてさ、そいつも俺と同じような感じなんだよな」

んでな、と言葉を切って、先輩は自分の隣に置いていた紙袋を持ち上げた。
紙袋には熊のロゴが入っていた。頭にアンテナを挿しているとわかる、コミカルなシルエットだ。

从 ゚∀从「今日はそいつの誕生日で、これはそのプレゼントだ。『アナロクマ』のスパイクシューズだぜ。
     そいつのスパイクがもうボロボロでな、買い換えろっていうんだがどうせそんなにしないからって……」

『アナロクマ』とは有名なブランドだった。
高価ではないが優良な品質であることを売りにしていた。

( ^ω^)(僕には何もしてくれなかったくせに、なんだよ、それ)

ハインリッヒは一方的に話し込んでいたので、僕は適当に相槌を打っておいた。
どうせわかりやしないだろう。頭が悪いに決まってる。そうだ。サッカーだって生まれ持った才能だけでプレイしてたに決まってる。
努力なんてまったくしていないくせに、どうしてみんなからチヤホヤされて褒められるんだ。

電車が減速していき、やがて駅へと止まった。
ハインリッヒは降車駅だと立ち上がった。話の途中でごめんな、と謝って。
いえいえ。どうせ聞いてなかったですし。そうやって言いそうになるのを我慢した。

从 ゚∀从「じゃあねー」

ドアが閉まり、手を振るハインリッヒが後方に流れていく。
僕は座席へと戻り、呟いた。

( ^ω^)「楽しそうじゃないかお。どうして、OBとして来てくれないんだお。
       僕にサッカーを教えろよ。上手くなるように教えろよ」

それに『アナロクマ』なんてブランドを買ってやがる。その社はもう古いんだよ。
今の時代は『チデジカ』だろう。あの無駄のないフォルムに魅力を感じないのか。

少々値は張るが仕方がない。いい物は高いものだ。貧乏人なんてお断りだ。
カスタマーに媚びるようになったらおしまいだ。安くして、気持ちの悪いやつらが固定客になったらどうするんだ。

( ^ω^)(ふふん)

僕はスポーツバッグへと視線を向ける。
そこには『チデジカ』のスパイクシューズが入っている。

                    □□□
 _
(;゚∀゚)「それほんとかよ!?」

( ・∀・)「へえ」

( ^ω^)「本当だお。昨日偶然電車内で出会ったんだお。で、言ってたお」

('A`)「でも、ハインリッヒ先輩はサッカーを完全にやめたんじゃあないんだよね?」

( ^ω^)「やめたんじゃないかお? もう情熱がないって言ってたお。
       だからここの高校のOBとして練習に参加することはないんじゃないかお。
       どうせ練習ももうしていないし、なまってるお。きっともう下手糞だお」

  _
( ゚∀゚)「ハイン先輩が下手糞だって? あの人が錆び付くとこなんて想像できないぜ」

( ・∀・)「まあ、練習しなかったら下手になるのは確かだよ」

('A`)「サッカーやめちゃったのかあ。ハインリッヒ先輩。残念だな」

( ^ω^)「だおだお。俺はもう一線を退いたから、あとはおまえらで楽しくやってくれって言ってたお」

翌日、授業が終わり部活でのことだ。
昨日のことについて、話をかいつまんでジョルジュとモララーとドクオに伝えてやった。

まず初めに、ハインリッヒを尊敬しているドクオに教えてやろうと思っていた。
ドクオを見つけると、またモララーとジョルジュの二人と話し込んでいたので、一緒にご静聴願った。

( ・∀・)「しかし、ハインリッヒ先輩がそんなこと言うか?」
  _
( ゚∀゚)「馬鹿。お前そりゃあ今のほうが大事だろうし、向こうのほうが楽しいんだろ。仕方ねえよ」

モララーが疑いの言葉を浮かべている。自分で作り上げた妄想をまだ信じ込んでいるのだ。
ジョルジュが自分を納得させるかのような言葉を続けた。ドクオは黙り込んでいる。

( ^ω^)「友達に『アナロクマ』の靴をプレゼントしにいってたお。誕生日なんだってさ」

('A`)「本当に? 俺の今履いているこの靴も、ハインリッヒ先輩に買って貰った『アナロクマ』なんだよ」

( ・∀・)「ああ、そうだったね。ドクオから話を聞いたとき、先輩をもっと尊敬してしまったよ」
  _
( ゚∀゚)「確か、ドクオのスパイクがボロボロだったんで『怪我したらどうすんだ』って買ってきてくれたんだよな」

('A`)「そうそう。クリスマスイヴの夜、急に家に来てさ。しかも窓からなんだよ。もうビックリしてね。
   あのとき俺はカーチャンのご飯を待つ間、数学の予習をしてたんだ。よくわからなくて困っていると窓から音がしてね。
   『窓に! 窓に!』って叫んじゃったな。錯乱しそうになった俺を見てサンタの格好をした先輩が笑うんだ」

('A`)「『頑張ってる君にクリスマスプレゼントだ!』って袋を放り投げてきてね。
    贈り物なんて受けたの、トーチャンが死んでカーチャンと二人暮らしになってから初めてだったんだ。
    情けないことに、プレゼントの中身を見たらもう涙が溢れちゃってね。おかげで数学の教科書が湿っちゃったよ」

('A`)「そのせいで勉強できなくてさ、次の日のテストは泣きはらした俺の目のようだったよ」

ジョルジュが豪快に笑い、モララーも笑った。
ドクオの言葉の真偽を確かめもしないで信じ込んでいる。空想じゃないの? と言うのを必死で堪えた。

  _
( ゚∀゚)「俺もハイン先輩からプレゼント貰ったことあるぜ。知ってると思うけど同じ中学校出身なんだよ。
     当時、初めて出来た彼女との待ち合わせでなあ。興奮して髪型も服も決めていったんだけど、
     待ち合わせ場所の地理がわからなくて盛大に遅刻してしまってなあ。振られちゃったんだよ」
  _
( ゚∀゚)「相手の女の子が大好きだったから、悲しくて悲しくてな。しかも初恋だぜ。
     中学生の俺がその場でわんわん泣いてると高校生のハイン先輩が通りがかってさ、心配してくれたんだよ。
     事情を話すとつけていた腕時計を外して『これ持って明日もう一回デートに誘って来い』って言うんだ」

( ・∀・)「お前、待ち合わせしてるのに腕時計も持ってなかったのかよ」
  _
( ゚∀゚)「ああ、駅の方向もわからないし店もないし公衆電話もなかった。
     あんなに絶望したのは初めてだったよ。んで、誘ったらその腕時計が彼女の趣味だったらしくてな。
     話が弾んで無事デートできたのさ。時計を先輩に返しに行ったら先輩はもう別の時計をしてたんだ」
  _
( ゚∀゚)「『もういらないから、やるよ』って言うんだぜ。汚れ一つない綺麗な時計なのにおかしいよな。
     きっと俺の浮かれた顔を見て察してくれたんだろうな。
     それ以来、時計は俺と彼女の結婚式までの時間をずっと秒読みしているんだぜ」

モララーが鼻を鳴らして、ドクオが口笛を吹いた。
いらないものをおしつけられただけじゃないの? と言いたくなるが、我慢した。

                    □□□

爪'ー`)y‐「おまえら集まれー。紅白戦するぞー」

顧問が僕たちを呼びつけて、メンバー表を張り出した。
出来るだけ均等に戦力を振り分けたからな、と言い、チームの区別をつけるためにビブスを配った。

( ^ω^)(僕は、モララーと、ジョルジュと……ドクオは相手チームか)

このチームは三年生と一年生が少ない。合計しても五人に満たないのだ。
一つ年の離れた彼らはあまりサッカーへの関心がなかったようであった。
そうして僕との同期は丁度、二つのサッカーチームを作れる人数だった。

このチーム分けの意図は簡単に把握できた。
言ってしまえば、チームの主軸であるモララーとジョルジュは自分たちよりも劣る周りをいかに活かせるか、
敵として振り分けられたドクオのチームはそれに対してどのように対応するか、を想定した内容になっていた。

前述したように、部員数はあまり多くない。
三チームは作れないので、必然的に幾人かは補欠となる。

そして、ベンチに座り込んでいる僕の目の前で紅白戦が始まった。

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最終更新:2011年02月25日 16:44
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