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紅い雪が降る。一瞬そんなフレーズが思い浮かんだ。いや、それはさすがに大げさか。

もっとも澪先輩に誘われて寄り道した公園の光景は、それほどまでに幻想的だった。
とても数え切れないほどの紅葉が、折からの強い風ではらはらと舞い散らされ、
あたり一面に降り積もっている。まるでそれが紅い雪のように私の目には映ったのだ。

「小さい頃、ここでよく遊んだんだ」

さきほどショッピングモールでしこたま買い込んだ紙袋を抱え込みながら、
澪先輩は公園の真ん中あたりを目指してずんずんと進んでいく。

「律先輩と……ですか」
「そうだな」

私の問いかけに、先輩は小さくうなずく。

「ここら辺でいいか」

そう言うと先輩は足を止め、すうっと目を閉じた。

あたり一面が茜色に輝いてる、まばゆいばかりの光景の真ん中で一人たたずむその姿は、
あたかも古代ローマの女神像か何かのようだった。
いったい何をしているんですか。そう聞くことさえ、とても許されないような気がする。

「今日の木々のざわめきって、なんとなく硬く感じないか」

しばらく見とれていたら、不意に先輩が口を開いた。目はそのままで。

「そう……ですか、ね」

私も先輩にならって耳を傾ける。
だが残念ながらいつもの音とどう違うのか、よくわからなかった。
音楽に関してなら、かなり聞き分ける自信がある。
けど風の音の微妙な違いまで聞き取れるほどには、残念ながら出来がいいわけではないらしい。

「葉っぱが枯れたり落ちたりしてるから、かなあ」

首をひねりながらつぶやく先輩の姿に、ふと小学生くらいの長い黒髪の少女が二重写しになった。

小学校の頃の澪先輩は、ひどく引っ込み思案だったと聞いたことがある。本を読むことが好きで、おとなしい子どもだったとか。

努力を重ねて。
たくさんの手に支えられて。
美しく成長した先輩が、こうして私の目の前にいる。




どうやってこんなに変わったんだろう。
そしてこれからさらに、どう変わっていくんだろう。

知りたい。
見ていたい。
これからもずっと。

来年。5年後。10年後。さらにもっと先、はるか彼方の未来。

その時はたして私は、どうしているだろう。

そばにいられるだろうか。
そばにいることを許されているだろうか。
そばにいることがふさわしいと思われてるだろうか。

自分も頑張らなきゃ。
そばにいられるように、頑張らなきゃ。

認められるために。
許されるために。

「大丈夫か、梓」

ふと気づくと、いつの間にか目の前に澪先輩の顔があった。

「心配したぞ。声をかけても返事しないから」
「すいません、なんか、その、ぼんやりしてました」

恥ずかしさが込み上げてきて、あわてて目をそらす。

言えない。
澪先輩の姿に見とれてたなんて。
自分たちの未来に想いをはせてたなんて。

「今の梓の顔色は、この紅葉みたいだぞ」
「それは、きっと夕日のせいです」
「そうだな。きっとそうだ」

あらためて先輩の顔を見つめ直す。
そこには私のすべてを包み込んでしまうかのような、とても柔らかな微笑みが広がっていた。

よし、できる。

この笑顔のためなら、私はなんだってできる。
そして必ず10年後の紅い雪も見るんだ。ふたりで。

(おしまい)