最近はずっと曇りがちな天気が続いていたが今日は久しぶりの快晴。
教室の窓際にいると暖かな陽射しが入り、午後には窓際の子が授業中にこっくりと舟をこぎだす光景も見られた。
教室の窓際にいると暖かな陽射しが入り、午後には窓際の子が授業中にこっくりと舟をこぎだす光景も見られた。
そんな暖かな日、放課後を迎えいつものように部室へと向かう。
「あれ・・・澪先輩だけ?」
部室に入ると、どうやらまだ澪先輩しか来ていないようだ。
それに、
それに、
「くー・・・」
その澪先輩はソファーに座り、小さな寝息を立てて眠っていた。
ちょうど先輩が座っている所には暖かな陽が体に当たっていて、眠るにはとても気持ちよさそう。
ちょうど先輩が座っている所には暖かな陽が体に当たっていて、眠るにはとても気持ちよさそう。
と、先輩が少しだけ身をよじってこちらの方に体を向けてきた。
「うーん・・・」
「――――っ!」
「――――っ!」
眠っている先輩の艶やかで柔らかな唇を見た瞬間、ドキッと心臓が跳ね上がり、思考は白く、顔は恐らく紅に染まった。
呼吸はほとんど止まったも同然な状態で、眼は先輩に固定されて動かない。
呼吸はほとんど止まったも同然な状態で、眼は先輩に固定されて動かない。
代わりにごくり、と喉が動く。
「も、もう恋人同士なんだし、ちょっとだけ・・・」
唇に誘われながら、しかし音を立てないよう静かに近づく。
たった三メートル程の距離がとんでもなく長く感じ、その間自分の心臓の音がやけにうるさく聞こえて、それで先輩が目を覚まさないかと不安だった。
たった三メートル程の距離がとんでもなく長く感じ、その間自分の心臓の音がやけにうるさく聞こえて、それで先輩が目を覚まさないかと不安だった。
「ん・・・」
そっと、唇に触れたか触れてないかというぐらいの浅いキス。
しかし私にはそれだけでもう、いっぱいいっぱい。
しかし私にはそれだけでもう、いっぱいいっぱい。
「すーっ、はあ・・・は」
そうして少し離れて深呼吸をして、止めに止めていた呼吸を再開する。
「・・・ごめんなさい、先輩」
恋人同士とはいえ、何だか悪いことを――いや、してるかもしれないけど。
とにかく、寝ている相手にこっそり気付かれないようにキスするのはドッと疲れるものだと強く感じた。
「んー・・・あれ、梓?」
「お、おはようございます澪先輩」
「ああ、ごめん・・・ちょうど陽が当たってた所に座ってたら暖かくてちょっと眠ってたみたいだ」
「い、いいですよ、私も今来た所ですから」
「お、おはようございます澪先輩」
「ああ、ごめん・・・ちょうど陽が当たってた所に座ってたら暖かくてちょっと眠ってたみたいだ」
「い、いいですよ、私も今来た所ですから」
――キスした事がバレてないだろうか。
何か適当に話題でもふってごまかそう、と思ったのだが。
何か適当に話題でもふってごまかそう、と思ったのだが。
「梓」
「は、はい?」
「今、眠ってた私にキスしただろ?ごまかそうとしてもダメだぞ」
「は、はい?」
「今、眠ってた私にキスしただろ?ごまかそうとしてもダメだぞ」
ごまかす暇もなく、あっさりバレていた。
「どっ、どうして!?」
「だって梓、顔が真っ赤になってるし私自身、唇に柔らかいものが当たった感触があるしさ。
この感触は間違いようのない梓の唇だって私は一番よく知ってる」
「だって梓、顔が真っ赤になってるし私自身、唇に柔らかいものが当たった感触があるしさ。
この感触は間違いようのない梓の唇だって私は一番よく知ってる」
いつもキスする時は澪先輩からなだけに説得力があり、そう言われるともう否定のしようがない。
「寝ている間にこっそりキスするとは感心しないな」
「う・・・ご、ごめんなさいっ」
「まったくだよ」
「う・・・ご、ごめんなさいっ」
「まったくだよ」
そう言いながら先輩は立ち上がると、私に近づき腕を伸ばしてくる。
怒られる、と感じ思わずびくっと体が震える。
怒られる、と感じ思わずびくっと体が震える。
――しかし次の瞬間、私はふわりと、先輩の腕の中に包み込まれていた。
「せ、先輩?」
「まったく・・・寝ている時にキスされても、こっちがあまり感じられないだろ?
キスするなら、私もちゃんと梓のことを感じたいんだからさ」
「まったく・・・寝ている時にキスされても、こっちがあまり感じられないだろ?
キスするなら、私もちゃんと梓のことを感じたいんだからさ」
抱きしめられながら耳元でそんな事を囁かれ、再び心臓が大きく跳ね上がる。
「お返しだ。利子つけて少し濃いめで返すからさ、目を閉じて」
「は、はいっ」
「は、はいっ」
そうして私が目を閉じるのと同時に先輩は唇を重ねてきた。
いつもならこのまま柔らかな感触だけに身を委ねるだけだが、
いつもならこのまま柔らかな感触だけに身を委ねるだけだが、
「ん・・・んんーっ!」
頭と背中を優しく抱きしめられたまま、口内に熱くて柔らかい先輩の舌が滑りこんできた。
濃いめというのはそのままの意味、と一瞬頭に思い浮かぶがそれもすぐに考えられなくなる。
濃いめというのはそのままの意味、と一瞬頭に思い浮かぶがそれもすぐに考えられなくなる。
もう澪先輩のことしか考えられなくなって、そのまま――
―ガチャ。
「ごめーん、待たせちゃっ・・・て・・・」
「おーっす、待たせた・・・な・・・」
「すいません、遅れてし・・・まあ♪」
「おーっす、待たせた・・・な・・・」
「すいません、遅れてし・・・まあ♪」
「「ぷはっ・・・」」
唇と舌が離れ、澪先輩がサーッと血の気の引いた表情で固まる。
私も同じように血の気が引きながらギリギリギリ、と体を動かし後ろを向く。
私も同じように血の気が引きながらギリギリギリ、と体を動かし後ろを向く。
――そこには、触れてはいけない一つの禁忌に触れてしまったかのような表情で固まる唯先輩と律先輩、それとは逆に目を爛々と輝かせて私達を見つめるムギ先輩の姿があった。
「あ、あのですね、これはその」
「こ、これはその、誤解・・・ってわけでもないんだが、その、なんだ」
「あ・・・私、今日、憂と食料品の買い出しに、行かないといけないから、帰、るね」
「あ・・・私も、今日、聡と食料品の買い出しに、以下略」
「こ、これはその、誤解・・・ってわけでもないんだが、その、なんだ」
「あ・・・私、今日、憂と食料品の買い出しに、行かないといけないから、帰、るね」
「あ・・・私も、今日、聡と食料品の買い出しに、以下略」
唯先輩と律先輩はそうカタコトの言葉を残すと早々に部室を出ていってしまった。
なんかフツーにからかわれるよりもこたえるような・・・。
なんかフツーにからかわれるよりもこたえるような・・・。
「私は何ら問題ないわ、続けて続けて♪」
「カメラ回されながら続けられるわけないですっ!」
「まったくだ・・・」
「カメラ回されながら続けられるわけないですっ!」
「まったくだ・・・」
ムギ先輩はムギ先輩で思考時間一秒以下、半ば脊髄反射でビデオカメラを片手に持っていて・・・ノリノリすぎます・・・。
「あ、じゃあ一つだけ聞きたいことが♪」
「な、なんですか」
「出来ればノーコメントにしたいんだが」
「いえ、ただ・・・♪」
「な、なんですか」
「出来ればノーコメントにしたいんだが」
「いえ、ただ・・・♪」
今の場面を目撃された以上は恐らく、いやまず良い事は聞かれないだろうなと思われるけど。
「梓ちゃんが秋山梓ちゃんになるのか、それとも澪ちゃんが中野澪ちゃんになるのか、決まったら教えてくださいね♪」
――ちょっと、かなり意味が分からないようで分かるような。
「ど、どれだけ話を飛躍させてるんですかっ!」
「わ、私は中野澪になっても構わないけどやっぱり梓を秋山梓にしたいかな・・・」
「み、澪先輩っ!」
「わ、私は中野澪になっても構わないけどやっぱり梓を秋山梓にしたいかな・・・」
「み、澪先輩っ!」
ちなみに私はどちらかと言うと秋山梓になりたいな・・・と思ったのは、内緒です。
(FIN)