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3学期、夕闇、曇り空、木枯らし。おそらく気温は一けた台。下手をすると氷点下かも。
遠くの灰色の山並みには転々と白いモノが混じってる。
きっとさっきまで降ってた雨が、あの辺りでは雪になったのだろう。

冬用制服。
学校指定コート。
お気に入りのマフラー。
さらに手ぶくろという完全装備。

それでも足元から、じんじん寒さがはい上がってくる。
さっさと自宅に帰りついて、暖かい紅茶でも飲みたいとこだよね、普段なら。

でも実を言うと、今の私はすっごくぽかぽかしてるのだ。
だってすぐ右隣に、澪先輩が並んで歩いてくれてるから。

寒さなんて全然平気。
暗いのなんて全然平気。
木枯らしだって全然平気。
小腹が空いてるのも我慢できる。

こうして澪先輩のそばにいられることに比べたら、なんてことない。

「ん、どうかしたか?」

ふと澪先輩と目があってしまった。無意識のうちに先輩の横顔に見とれてしまっていたらしい。
あわてて目を逸らすと、少し先のコンビニの灯かりが目に入った。

「あ、いやその……あそこで何か買っていきませんか?」
「買うって、何を?」
「ええと、たとえば……肉まんとか」
「あ、いいね、それ」
「ですよね。寒い日にはやっぱ肉まんですよねっ」

よかった。訝しげだった先輩の表情がようやくほぐれた。そう思った瞬間、先輩が左手をポンと私の頭の上にのせる。

「ホント、梓はカワイイな」

 ──ドッキン

たったそれだけのことなのに、まるで全身の血液が沸騰しそうになる。
澪先輩のおかげで、もうぽかぽかがアツアツになってしまう。

白くて細くて長い指。
静かに深い音色を奏でる手。
私のことをこんなにも温かくしてくれる手。

きっと澪先輩の左手は誰にもできない魔法を使えるに違いないのだ。

今の私はこうして澪先輩の左側を歩いたり、ステージでギターを弾いてるだけ。
でもいつかの日か私は、そんな澪先輩の左腕と呼ばれるように、なりたい。

 (おしまい)