誰だよ澪にあんなマンガ読ませたの

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mioazu

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「澪先輩。明日、勉強教えてくれませんか?」
「明日? いいよ。どこでやる?」
「あ、親がライブ行くので遅くまで帰ってこないので、私の家でやりませんか?」
「ああ、いいよ。じゃあ、明日……3時ぐらいからにする? あんまり長くやっても疲れちゃうし」
「そうですね」

 そう、このときは梓を押し倒そうなどとは考えていなかった。

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 とある人に勧められて借りた恋愛(?)マンガ。
 宿題も終わったし、寝るまでちょっと余裕があるから読んで見たんだけど――。

「もう12時か……」
 ふと時計を見ると、日が変わっていた。
 もうそろそろ寝ないと明日起きれない。明日のお昼過ぎから梓の家で勉強を教えることになっているしね。
 でも、あと少しで主人公(?)の女の子が告白するところまで来ているから――。
「……よし、4巻読み終わったら寝よう」
 もうちょっとだけ読み進めることにした。

 残りのページも三分の一を切って、物語も終盤。
 その女の子が思い人に、“友達と恋人の違いについて”友人の女の子に相談しているシーンで。
 びっくりする台詞が目に飛び込んできた。

 相談相手の女の子の言葉。

 『ぶっちゃけ、その相手とやりたい?』

 “友達”と“恋人”の違い?
 “先輩後輩”と、“恋人”の違い?

「――!」

 真っ赤になって反射的にマンガを閉じた。
 あーもう、寝よう寝よう!

 電気を消し、ベッドに入り、寝ようかと思って目を閉じた。
 だけど、さっきの台詞が忘れられない。

 友達と恋人の違い。
 先輩と後輩関係と、恋人の違い?

 私の想いは相手に打ち明けて、受け入れられて、今や恋人ではあるけど……。

   脳裏に浮かぶ、愛すべきの後輩の弾けるような笑顔。

   流れるような、艶やかな黒髪。
   小動物のように愛くるしい瞳。
   小さくも桃のように甘く、みずみずしい唇。

   私の腕の中にすっぽりと収まる感触。

「――!」
「な、なにを考えてるんだ私は! 早く寝よう!」

 そう自分に言い聞かせて布団を頭から被った。


   お茶を飲んでいるときのあどけない笑顔。
   ムスタングを肩に掛けてるときの真剣な顔。
   甘い物をほおばってるときの蕩けた笑顔。

   ビーチバレーを楽しんでるときの弾けた笑顔。

 ――私だけに見せてくれる、甘えるときの、顔。
   キスをするときの――。

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 昼過ぎ。お昼ご飯を食べた後、梓の家に向かう。

 ――で、気がつけば、梓の家に着いた。

 はっ!となり、今までの行動を冷静に振り返る。
 絶対、挙動不審者だった。
 突然真っ赤になったり、妄想を振り払うために顔を横に振ったり、独り言がぼそぼそ漏れたり――。
 ああ、補導されなくて良かった。

 インターホンを押すのを躊躇う。
 極力意識しないようにして、無心でインターフォンを押す。
 ピンポーン。

『はい』
「澪です」
『澪先輩! いま開けますね!』
 ぶつっ。ノイズが入り、インターフォンが切れる。

「澪先輩!」
 インターフォンが切れて玄関の鍵が開いて、梓が飛び出てきた。
 そんな、満面の笑みで迎えないでくれ。

 理性が、焼き切れそう。

  :
  :

「ここはこうで――」
 梓の部屋に上がり、軽い雑談の後に勉強を教えることになった。
「このベクトルAとBの内積を取って――」
 でも、昨日のことが頭から離れられなくて梓の顔を見ることが出来ないから。
「二つのベクトルとの角度がθだから――」
 教科書とノートをひたすら見ながら説明をする。
「澪…先輩?」
「へっ!?」
 説明の途中に名前を呼ばれて声が裏返った。
「なんか調子悪いんですか?」
「そそそんなことないよ」
 ああ、私は嘘が苦手だ。自分でもはっきり分かるぐらい慌ててる。
「? そうですか」
 梓は腑に落ちないという表情であったが、とりあえず勉強に戻った。
 表情に出さないように、心の中で安堵のため息を吐いた。
「で――」

 人間の集中力が持つのは1時間程度だというが、梓はそれ以上の集中力を発揮している。
 教えている私でもびっくりするぐらい。

 2時間ぐらい連続で勉強した後に、休憩を挟む。
「梓、そろそろ休憩しよう」
「え、あ、はい。そうですね」
 時計を軽く見やり、シャーペンを置く。
「あ、飲み物取ってきますね。お茶しかないですけど、お茶で良いですか?」
「ああ、いいよ」
 てとてと、という擬態語を充てたくなるかわいらしい歩き方で、部屋を出て行った。

 そのあとも、
「勉強、始めましょう」
「そ、そうだな」

 なかなか、
「先輩、夕飯にしませんか?」
「そうだな」

 間が
「お風呂入ります?」
「あ、ああ、先に頂くよ」

 取れなかった。


 今日の梓はとてもかわいかった。
 たぶんリップクリームだろうけど、グロスを薄く重ねたかのようにつやつやして、服もキャミソールで鎖骨が――

 か、考えるのを止めよう。

 でも、止まらない。
 考えることをやめようと思ったからなのか、頭の中に梓のことしか――。

 お風呂から上がってきた梓は、ややしっとりと濡れる流れるような黒髪を降ろし、ピンク色のパジャマを着ていた。
 どくん。

 私の、心臓が、跳ねた。


 うつむき加減な私に(本当は梓の顔を直視できないだけなんだけど)不安になったのか、
「澪先輩、今日どうしたんですか?」
 と言って、梓が私の顔をのぞき込む。
「調子が悪いならそう言ってください。澪先輩に体調崩されたら――」
「梓」
 話を折ってしまった。
 でも、もう我慢の限界だ。

 言ってしまおう。

「はい?」
「本当は私、体調が悪い訳じゃないんだ……。本当は、ずっと、梓のことばっかり考えていたんだ。
 梓の顔も見れないぐらい。

 その――襲って……いい?」

 いつもの私とは思えないぐらいストレートだとは思う。でも、梓には効果覿面だったみたい。
 『さーっ』と血液が流れる音が聞こえるぐらい、梓の顔が瞬間で真っ赤になった。

「あ、あの……やさしく……してください……」
 梓、指同士をすりあわせたり、うつむき加減で言われたら――。

 我慢できない、だろ?

 返答の代わりに、梓の唇を奪う。
 右腕を首に回して左腕を背中に回し、梓を私の体で包み込むようにして完全に掌握する。

「んっ……」
 とたんに梓の体から力が抜けて、私の体に寄りかかってきた。
 私も蕩けてしまいそう。

 もっとかわいい姿、見せて。
 私だけしか知らない、梓を。

 梓にしか知らない――梓以外には知られたくない、梓だけの澪を見せるから。
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