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 秋晴れの空が窓の外に広がっているお昼休み。
 暖かな陽射しが入る校舎の中を、私はゆっくりと歩いていました。

 ――と、

「あら? 梓ちゃん?」

 廊下の角っこにいる、小さい体ながら黒く艶やかな長いツインテール。
 遠目からでも一目で分かりました。

「……ですね、……朝……頃に……しょう。
 細……事は……後、部…が終わっ……ら決め……ょうか。
 じゃあ放……、…活で」

 梓ちゃんはどうやら携帯で誰かと話しているみたいだけど……?
 電話が終わった所で、近づいて声をかけます。

「楽しみだなぁ……えへへ」
「こんにちは、梓ちゃん」
「ひゃっ!」

 声をかけると梓ちゃんは猫のようにびくっ、と驚きながらこちらに振り向きました。

「ム、ムギ先輩、こんにちは」
「梓ちゃん、いま電話で誰かと話していたみたいだけど……何かいいことでもあった? 何だかごきげんみたいね」
「え!? そ、そうですね、いいコトというか、いい予定が入ったというか……」
「いいコトではなく、いい予定?」

 いったいどんな予定が入ったのか、ちょっと聞いてみたい所ですが、

「す、すいません次の授業、移動教室なので早く教室に戻って移動しないと」
「あ……ごめんなさいね」
「はいっ、では放課後、部活でっ」

 そうして梓ちゃんは足早に自分の教室に戻っていきました。
 梓ちゃんがごきげんだったのは気になる所ですけど……私もそろそろ教室に戻らないと。




「よーし、じゃあ恨みっこなしの一発勝負だ、いくぞ!」
「ズルはするなよ」
「負っけないよー!」
「じゃあ、せーの」

 ――じゃーんけーん、ぽん!

「ま、負けた……! 我が全霊の拳がっ……」
「いや、別に普通のグーだったろ」
「わたしも気合い入れていったけど負けちゃった……」
「どんまいよ、唯ちゃん」




 私と澪ちゃんはパー、唯ちゃんとりっちゃんはグーで勝負あり。
 放課後、今日の教室の掃除当番のごみ捨ては唯ちゃんとりっちゃんに決定しました。

「負けちったのはしょうがない、ケーキを食べるため地獄の底から舞い戻ってやるぜ!」
「おいおい、別に下にあるごみ捨て場にごみを捨ててくるだけだろ」
「ではっ、わたしもりっちゃん隊員に続いていってきます!」
「二人とも気をつけてね」

 二人が元気に教室を出てごみ捨てに向かっていくのを、私は微笑ましく見送りました。

「じゃあ私達は先に部室に行くか、ムギ」
「ええ」

 二人を見送ると、私と澪ちゃんは一足先に部室に向かいます。

「~~♪」

 部室に向かう間、澪ちゃんは鼻歌を交じえながらニコニコと微笑んでいます。
 そういえば澪ちゃん、午後になってから何だかごきげんみたい……。

「澪ちゃん、何かいいコトでもあった?」
「え、どうして?」
「だって午後になってからニコニコしてるんですもの」
「う、うーん、いいコトというか楽しみな予定が出来たというかな……」

 なるほど。
 これはもしかして、もしかすると……。

「もしかして明日の休日、梓ちゃんとデートの予定とか?」
「え!? ど、どうして分かったんだ?」

 どうやら、図星だったみたいです。

「昼休みに梓ちゃんが携帯で誰かと話してるのを見かけたんだけど、その誰かと約束をして電話が終わった後にすごくごきげんだったから。
 澪ちゃんも午後になってから同じようにごきげんみたいだし、もしかしたらって思って」
「そ、そうか……私は部室から梓に電話してたんだけど、梓の方でムギに見られてたとは思わなかったな……」

 気恥ずかしさを隠すかのように、軽く頬をかく澪ちゃん。




 そう話している間に、私達は部室の前に到着しました。

「でも本当に梓ちゃんも澪ちゃんも、お互いのこと大好きみたいね。
 微笑ましいわ♪」
「なっ」

 部室に入ろうとする澪ちゃんに私は後ろからそう言うと、澪ちゃんはバッと振り向きながらぼふっ、とさらに顔を赤面させます。

「う……うん。
 私も梓のことはすごく……大事だよ」

 顔を赤く染めながらも、澪ちゃんは私が言ったことに対し否定はしませんでした。

「梓は私とは違って強い子だけど、一人で抱え込んで苦しんじゃう所があるからさ。
 私が傍についていてあげたいんだ」
「澪ちゃん」
「今の私に出来ることなんてろくに無いかもしれないけど、梓の傍についていてあげることなら出来るから」

 真剣な表情で、そう私に話す澪ちゃん。
 その瞳からは何か、今までにない強い決意と意志を私は感じ取りました。

「梓ちゃんにとって、澪ちゃんが傍にいてくれるだけでも梓ちゃんはきっと幸せだと思うわ」
「いや……それでも、さ。
 私はずっと梓を守るって決めたんだ。
 そのためには少しずつでも、まず私が頑張らないと」

 ずっと守る、という澪ちゃんのその言葉。
 明確に好意を口に出さずともそれだけで、澪ちゃんがどれだけ梓ちゃんを大切に想っているかが私でもすごく伝わってきます。

 ――と、その時、

「澪せんぱーい! ムギせんぱーい!」
「梓っ」

 柔らかな笑みを浮かべながら、階下から梓ちゃんが元気よく駆け上がってきました。

「どうしたんですか? 部室の前で」
「ん、いやなんでもないよ。な、ムギ」
「ええ、なんでもないわ」
「?」

 ごまかす私達に、梓ちゃんはきょとんと瞬きをするばかりです。




「唯ちゃんとりっちゃんもすぐ来ますから、私もすぐにお茶の準備にしますね」

 そう言いながら私は先に部室の中に入り、

「さ、入ろう梓」
「は、はい!」

 続いて入ってくる二人に目をやると。
 澪ちゃんが梓ちゃんに手を差し出し、梓ちゃんは差し出した澪ちゃんの手をそっと握りながら、二人は部室に入ってきていました。


 ――さなぎを破り、蝶が空に羽ばたくように。
 梓ちゃんのために力を蓄え、きっと澪ちゃんは羽ばたけると私は信じています。

 そして願わくば。
 二人の明日が、未来が、行く先が。

 穏やかで、幸せになりますよう……いや。

 二人なら、きっと――

(FIN)