返してあげたいこと

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mioazu

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「梓」
「ふぁい?」
「大好きだよ」
「ぶふっ!?」

 ――げほっ、けほっ、こほっ。
 澪先輩のいきなりのど真ん中直球、ストレートな愛情表現に喉を通り食道を通過しようとしていたコーヒーが気管に入ってしまい激しくむせて。

「わわっ!? 大丈夫か梓!」

 先輩が慌てて近くに置いてあったティッシュ箱を持ってきて、私の背中をゆっくりとさすりながら口元をティッシュで拭いてくれた。
 ティッシュ越しに口元に感じる先輩の指が、ほんのりあったかい。

「けほっけほっ、はあっ……びっくりしました……」
「ご、ごめんな」

 何とか呼吸が整うと、先輩は新たにティッシュを何枚か取り、今度は私がコーヒーを吹き出して少しばかり……いや結構な惨状となったテーブルを拭き始めた。

「あっ、自分で拭きますっ」
「いいよ、私のせいでむせちゃったんだから。梓は座ってて」

 ――今日は部活を終えていつも通り家路に着こうとした所、かなりの雨が降ってきていて。
 あいにく傘を持ってきていなかったのだが、澪先輩が折りたたみ傘を持ってきていて「よかったら一緒に入って」と先輩の提案もあって傘に入れていただけただけでなく、わざわざ私の家まで一緒について送ってくれた。

 ちょうど家に着いた時点で雨の強さが増してきたこともあり、雨宿りとお礼も兼ねて先輩に家の中に入っていただき今現在、音楽をかけながら一緒にソファに座ってコーヒーを飲みながら談笑していた所、半ば唐突に――。

「そ、それで、さっきのは聞き間違いというか、何かの空耳というものでしょうか……?」
「む、梓は私の言葉を疑うのか?」
「そ、そんなことしませんっ!」

 思わず私はぶんぶん、という音が出るくらい大げさに首を横に振る。
 今の言葉だけは決して聞き間違いとか、かけてた音楽に混じって空耳で聞こえたわけではないって、そう信じたい。

「例え世界が澪先輩を疑っていても、私は澪先輩を信じています!」
「それはそれでどうかとも思うけど……まあ聞いてくれ」




 ああもう、かっこよさそうに聞こえて何ともバカっぽいこと自分は言ってるなあ……と思いながらテーブルを拭き終え、改めて私の横に座った先輩の話に耳を傾ける。

「ちょっと考えてたんだ。
 最近、梓はよく私のことを好きだって言ってくれるけど、私は梓の言葉にちゃんと応えられてるかなって。返せてるのかなって」
「そんなっ、私が勝手に言ってるだけなので……」

 ――確かに、恋人になってからも澪先輩から私に対して直接的な愛情表現はこれといってなかった。

 けれど澪先輩の性格上そう言葉には出さないというか、出来ないというのは知っていたし。
 何より私を大事に想ってくれてるのはいつも感じているので気にしてはいないのだけど……。

「うん、分かってはいるんだ。ただ口にすればいいってわけでもないって。
 けどさ、」

 そこまで口に出た所で、がしっと先輩に肩を掴まれ、横に振り向かされる。

「澪先輩……?」
「やっぱり、いつももらいっぱなしじゃダメだって思うんだ。
 梓からもらったらそれと同じ分……いやそれ以上にして梓に返したいって。今は無理でも、少しずつさ。
 だから――」

 そっと先輩の左手が私の頬に触れ、優しい瞳が私をじっと見つめる。
 先輩の瞳に吸い込まれたかのように私の瞳が先輩に、釘付けになる。

「好きだよ、梓。愛してる……」

 これ以上なく甘い言葉が聞こえながら、先輩が瞳を閉じ、そのままゆっくりと顔が近づき……。

「んっ……」

 ――唇に触れる感触は思った以上に柔らかくて、とっても甘くて。

 先輩の甘い感触をもっとじっくりと感じていたかったけど、数秒と経たない内に離れてしまう。

「さてと、どうやら雨も止んできたみたいだし……そろそろ帰るよ」

 キスをされて、ぼーっとしてる私を尻目に、先輩は何事もなかったかのように帰り支度をして、スッと立ち上がる。




「ごちそうさま、梓。また明日、学校でな」
「あ……はい」

 柔らかな笑顔を向けながら部屋を出ていく先輩に、私は何とか返事をするだけで手一杯で。
 外に目をやると確かに雨は止み、雲も薄くなったようで室内は茜色に染まっている。

「……もう、ごちそうさまって……何に向けてですか……」

 先輩が帰ってからしばらくして、ようやく我に返った私はぽつりとそんなことをつぶやいて。

 ――胸中では、普段余りはっきりとした好意を口には出さない澪先輩だからこそ。

 時に正面からはっきり言われるとすごくどきどきして、心に響くものがあるということを、私は強く感じていた――

(FIN)
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