膝枕

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mioazu

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「こんにちは」

放課後。
私は、纏わりついて離れない眠気を振り払うように、元気に部室のドアを開ける。
だが、そこには誰も居らず、がらんとした空間が空しく広がっていた。

「あれ?みなさん、まだなんだ」

私の、いささか拍子抜けした呟きが、無人の部室に大きく響く。
仕方がないので、個人練習でもしようとムッタンをケースから出し、ストラップを肩にかけた時、

「あっ」

私は思わずふらつき、ムッタンのヘッドを派手に床に叩き付けそうになってしまった。

(危ない危ない)

私は、冷や汗を拭きながら、体制を立て直した。




(いくらなんでも夕べはやりすぎたな)

私は、夕べ、ほとんど寝ていなかった。
というのも、今度やる極を練習していて、かっこいいフレーズを思いついたのだが、それがうまく弾けず、できるまで練習し続けてしまったのだ。
授業中はなんとか耐えたものの、眠気はピークに差し掛かっていた。
すぐ、部活に入れば乗り切れると思ったが、先輩方がまだだったため、気合が抜けてしまったようだ。
私は、さすがにこの状態では練習になんてならないと思い、先輩方がみえるまで、仮眠を取ろうと思い直した。

「よいしょ」

私は、慎重にムッタンをケースにしまい、かばんを枕に、ソファに横になる。
とたんに、こらえていた眠気が押し寄せ、私の意識を奪っていった。




―――

「あーずにゃーん、こっちおいでよぉ!
あったかあったかだよぉ!」

気づくと、ほの暗い空間の中、唯先輩が、床の上でごろごろしながら、私のことを手招きしていた。

「そうだ、来いよぉ!
プッニプニできもちいぞぉ」

その床は弾力があるらしく、唯先輩の隣で、律先輩は、楽しそうにピョンピョンは寝ている。

「梓ちゃん、すっごくすべすべしてて、いい匂いがするのぉ」

逆の隣では、ムギ先輩が床に頬をこすりつけ、恍惚とした表情を浮かべていた。

「お前ら、いいかげんにしろ!
ここは梓だけの場所なんだからな」

その言葉と同時に、空から巨大な手が下りてきて、唯先輩達をつまみ上げる。
私が、驚いて顔を上げると、そこには巨大な澪先輩の笑顔があった。




「え?澪先輩」
「ほら、梓、おいで」

巨大な澪先輩は、ポンポンと太ももを叩き、私を呼ぶ。

「そ、それじゃぁおじゃまします」

私は恐る恐る太ももに上り、そこに寝そべった。
その澪先輩の太ももは、唯先輩が言うようにあったかで、律先輩の言うようにプニプニで、
ムギ先輩の言うように、すべすべでいい匂いがした。
私は、思わずほっぺをすりすりとこすり付ける。

「ふにゃぁ」

私は、無我夢中で、澪先輩の太もものベッドを堪能した。




―――

「ちょ、ちょっと梓」
「ふにゃ?」

私は、急激に頭を揺らされ、目が覚めた。
驚いて顔を上げると、耳まで真っ赤にした、澪先輩の顔があった。

「ふぇ?」

私は、思いもよらない近さにある澪先輩の顔に、間抜けな声を挙げる。

なんで、澪先輩がこんなに近くにいるんだろう?
ぼんやりと考えながら、何か違和感を感じる。
あ、そうか。寝た時よりも枕がやわらかいんだ。
え?枕がやわらかい?

それに気付き、あわてて枕に触れると、すべすべぷにぷにした感触があった。

「あ、梓、ちょっ、そんなところ」

驚いて、視覚でも確認すると、私の頭の下には、スカートがまくれ上がり、あわやという状態の、澪先輩の白い太ももがあった。
真っ赤な澪先輩の顔が、さらに真っ赤になる。




「え?これって、澪先輩?」
「あ……あの、梓、かばんを枕にしてたから
……硬いと、首痛くなっちゃうかと思って」
「…………」
「でも、梓が、急にあんなことするからびっくりしちゃって……」
「…………」
「ご、ごめんな起こしちゃって……」

えっと、つまり、かばんを枕に寝てる私を見て、澪先輩が膝枕してくれたってこと?
そ、そして、私は夢の中と同じように、澪先輩の太ももをすりすりして経ってこと???

私は、事の顛末を理解すると、跳ね起きた。

「す、すみません、なんか私変なことしちゃったみたいで」

うわっ、すごく顔が熱い。
きっと、澪先輩に負けないぐらい、真っ赤になっているんだろう。
って言うか、恥ずかしすぎて澪先輩の顔なんか見れないよぉ。




「い、いや……ちょっと驚いちゃっただけだし」

澪先輩は、スカートを整えながら続ける。

「元はといえば、私が勝手に膝枕したのが原因なんだし」
「でも……」
「いいって」

澪先輩は、まだ顔が真っ赤だったけれど、優しく微笑んで頭をなでてくれた。

「で、梓……もう、い、いいのか?」

澪先輩が、躊躇いがちに尋ねる。

「……え?」
「もう……眠くはない?」
「…………」
「もし……まだ、眠いなら……みんなが来るまで、ね、寝てもいいんだぞ……」

最後はほとんど聞こえないぐらいの声になる。

「あの……じ、じゃぁ」

私は、さっきの事で、眠気などすっかりどこかへ飛んでいってしまっていたが、澪先輩のご好意に甘えることにした。




「って言うか、さっきからいるけどな」

「ひぃー!!!」
「にゃ!!!」

突然の声に、私と澪先輩の叫び声が響く。

「い、いいいいいつからいたんだよぉぉぉ!律ぅぅぅ!」
「えぇっと、澪があずにゃんいい子いい子って言って、頭なでてる辺りかな」
「そ、そんなことは言っていない!」

な、なんと言うことでしょう!
あれを見られてしまったとは。




「二人ともお互いしか目に入ってないんだもんなぁ」
「うふふ、二人とも、すごくかわいかったわ」
「まぁドアの外には、もっと前からいたんだけどねぇ」

満面の笑みで更なる爆弾発言をした唯先輩に、澪先輩は恐る恐る問いかける。

「い、いつから、いたんだ?」
「えっとねぇ、澪ちゃんが、あずにゃんに膝枕しようとしてたところぐらいかな?」
「あの澪はキモかったよなあ、にやにやしちゃって」
「そんなことないわ、すっごく優しい顔だったもの」

(澪先輩……」

ムギ先輩の言葉に感激した私は、澪先輩を振り返る。




「…………」

だが、澪先輩は、頭から湯気を出して、固まってしまっていた。

「これじゃ、今日は練習無理そうね」
「そだねぇ」
「じゃぁ、今日はもう帰るか」

ムギ先輩の言葉に同意すると、唯先輩と律先輩は、荷物をまとめだした。

「ちょ、ちょっとみなさん!」
「じゃぁ梓、澪のことは頼んだぞ~」
「またね、あずにゃん」
「うふふ」

唯先輩達3人は、本当に楽しそうに笑いながら、戸惑う私と、固まる澪先輩を残し、帰っていってしまった。




「あの……澪先輩?」

私は、恐る恐る声をかけてみるけど、澪先輩の反応はない。

「えっと……そんな不自然な格好でいると、体痛くなっちゃいますよね……」

私は、そっと澪先輩の体を倒し、私の膝に頭を乗せた。

「えへへ、なんか幸せだな」

私は、澪先輩の横顔を見下ろしながら呟く。
私を膝枕してくれた時の澪先輩も、今の私と同じこと思ってくれてたのかな?
そうだったらいいな。
そんなことを思いながら、私は、澪先輩が気がつくまで、澪先輩のきれいな横顔を見つめていた。
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