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「んん……むにゃ……ん……?」

 ぎゅっと抱きしめていた感触がいつの間にか無くなっていて、朝を迎えたのかなとまどろみの中で無意識に思って重いまぶたをゆっくりと開く。

 しかしまだ室内はぼんやりと薄暗くて、夜が明けはじめてはいるみたいだけど太陽はまだ顔を見せていない……そんな時間帯のようだった。

 そんな中に、

「きれいな髪……」

 ――窓際に佇む、黒く艶やかな黒髪。
 ――同じ女性の私から見ても美しいって感じる横顔。

 寝ぼけまなこな今の私でも、自然と目が釘付けになる。

「あ、ごめん起こしちゃったか?」

 私の視線を感じたのか、澪先輩がこちらを向く。

「どうしたんですかぁ……こんな朝早くからぁ……あっ」

 むくりとベッドから起きて窓際にいる先輩に近寄ろうとした所、足がもつれて転びそうになる。
 しかし、

「おっと……」
「むぎゅっ」

 あわやという所で先輩に支えられ、事なきをえた。

「大丈夫、梓?」
「ご、ごめんなさい」
「ん、いいよ」

 危ないとこだったけど、こうして先輩の腕の中に包まれることが出来たから結果オーライ。
 やっぱり澪先輩に抱きしめられているとまるでお母さんの腕に抱かれているかのようで、すごく心地好い。

「それで、澪先輩はこんな朝早くから何を?」
「ああ、ちょっと早く目が覚めちゃってさ。それでこの時間なら陽が昇る瞬間が見れるかなって思って」

 そう聞いて部屋にある時計を一瞥すると、午前5時をちょっと過ぎたところ。
 確かにこの時間帯ならちょうど太陽が顔を出し始める時間だって、何となく思う。
 ……とはいえ、こんな早朝はいつも夢の中だから詳しくは分からないけれど。

「もうそろそろ見えると思うんだけど……あ、ほら」
「あっ……」




 ――先輩につられて外を見ると、朝の静かな町並みに太陽の上縁が少しずつ現れて町を、空を明るく照らし始めていた。

 町全体に青みがかった薄い暗闇が晴れ、徐々に橙色に染まっていく光景はとても幻想的で、綺麗で。
 夕焼けに染まった空がしだいに暮れていく時とはまた違った魅力があるんだっていうことを、この時私は初めて知った。

「綺麗ですね……」
「ああ……夜が明けて陽が昇る瞬間を見ると、これから新しい一日が始まるんだって、気が引き締まる感じがするな」
「そうですね……私もそう思います」

 先輩にもたれながら、夜が明けていく光景をしばらく一緒にじっと見つめる。

 耳を傾けているとチュンチュンと小鳥の鳴き声がしてきて、それがまるで本当に新しい一日を告げているかのように聞こえてくる。

「でも、やっぱりさ」
「? なんですか、せんぱ……」

 そこまで口にした所で先輩の顔があっという間に近づき、ぷちゅ、と唇に柔らかい感触が押し当てられた。

「ん……」

 いきなりの先輩からのキスに驚きながらも、私は目を閉じて数秒の間、その感触に身を委ねる。
 唇が離れると先輩は間近で私を優しい目で見つめながら、

「こうして梓と一緒に朝を迎えることが出来る……それが何より嬉しいんだ」

 それこそ嬉しそうに、満足げに微笑む。
 そんな先輩の笑顔がなんだかすごくかっこよく見えて、私はなけなしの自尊心をかき集めて声を張り上げた。

「そ、それはっ! 先輩が昨日私に家に泊まっていかないかって言うから……いやっ! 言ってくれたからでっ!」
「そりゃ次の日が休みで学校がないなら、夜はずっと梓と一緒にいたいから、さ」
「~~!」

 まったく動じず、先輩から正直に返されてしまってますます顔が熱くなるのが自分でも分かる。

「梓は嫌だった?」
「まさかっ! 私も先輩と一緒にこうして朝を迎えることが出来て……すごく、嬉しいです」
「ふふっ、よかった」




 すっかり赤くなってしまった自分の顔を隠すかのように、先輩の体に顔をうずめる私に対し先輩は微笑みながら私の髪を優しく撫でてくれた。
 先輩が私の髪を優しく撫でてくれる度、なんだかくすぐったいような、不思議な幸福感が胸に溢れてくる……。

「好きです、澪先輩」
「好きだよ、梓」

 どちらからともなくお互いに好意を口にして、ぎゅっと抱きしめ合う。
 お互いの想いが深く染み渡り、溶け合い、まるで一つになるように――。

 そんな私達を、下縁の先まで完全に顔を見せた太陽が、優しげな光で照らし出していた。

(FIN)