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昨夜の夢の内容が最悪だったこと。

寝ぼけて家具の端っこに右足の小指をぶつけてしまったこと。
髪の寝癖がなかなか直らずイライラしてしまったこと。
今朝のテレビの占いで運勢が最悪だったこと。
右の人差し指の爪が欠けてしまったこと。
一時間目がリーディングの授業なこと。

外に出てみたら、どんよりとした曇り空だったこと。

不意に後ろから自転車のベルで思いっきりアオられたこと。
太った黒猫が道を横切るのを目撃してしまったこと。
張り替えようと思ってた弦を家に忘れてきたこと。
強い風で落ち葉まみれになってしまったこと。

「サイアク」

背中のムスタングがいつもより重たく感じる。

暗い灰色に染め上げられた世界。
落胆で乾ききった心を抱く。
全てが私に牙を剥く。

たとえそんな、うすら寒い朝だったとしても。

「おはよう、梓」

背後から聞こえる、声。
私に投げかけられる、声。
それは私の恋焦がれる、声。

何気ない、たったのひとことで。

視界が色づく。
心が舞い上がる。
ムスタングまでが軽くなる。

たったのひとことで、世界が変わる。

それは私だけの秘密。
この世で最強の魔法の言葉。
それさえあれば、こんなサイアクな一日だって、必ず乗り切れる。

百万分の一でもかまわない。そんな力がこもっていて欲しい。
そんな願いを精いっぱいに込めながら、私は振り返って声の主にあいさつを返す。

「おはようございます、澪先輩っ!」

先輩の顔にも、天使の笑みが浮かんだ。

(おしまい)