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Slapping Fight


警告:この二次創作小説は貴方が愛した女性達が別の男の下で
よがり、すがり、もだえ、謝罪の言葉を述べながら堕ちていきます。
あの子のそんなはしたない姿を見たくないのならば読むのをご控え下さい。


「んっふふぅ〜♪ふっふふうっ〜♫」
「ところで、一体何をしているのだ健太郎?」

――病院を離れて、しばらく歩いた先での大通りで。
いつもは背負っている大振りのシャベルを地面に突き刺し、
健太郎は実に上機嫌な様子で周囲に穴を掘り続けていた。

「うん、ちょっと穴掘りをね。この辺りは地盤が柔らかいから掘りやすいな〜」
「…いや。どうしてそのような事をしているのかと、聞いている」

唐突な健太郎の奇行に、バルキリーはなんら戸惑う事もなく。
しばらくは、飽きることなくその様子を眺めてはいたのだが。
やはりその理由を疑問を抱かずにはいられず、その旨を問うた。

「どうして…って言われても困るな。そこに土があるからさ、と言うべきかな?」
「…そういえば、レオもよく行く先々で穴を掘っていたが、それと同じなのか?」

――実の所、健太郎とレオの二人の理由は大きく異なる。
彼女の主であるレオは、冒険に役立つ道具を作る材料採集の為であり。
一方の健太郎の場合は、単なる強迫観念を伴う奇癖でしかないため、
合理的な理由など何一つあったものではないのだが。

バルキリーは、ふと自分の主人が同じような行為に及んでいた事を思い出し、
おそらくは同じ理由なのだろうと、勝手に納得してしまった。
どこかが決定的にずれ込んだ、二人のやり取り。

二人をよく知る者であれば、皆がその酷さに頭を抱えることだろうが。
生真面目なバルキリーと、お気楽極楽で天然を絵に書いたような青年を
問い質す常識人の存在は、残念ながらこの場にはなかった…。

「へぇ〜。レオさんも僕と同好の士なんですね。一度会ってみたいなー」
「それは……、困る……。一度…考え直しては、くれまいか?」

――綺麗な勘違いをした健太郎が、世間話でもするようにレオの名を口にする。
だが、今のバルキリーには決して思い出したくもない不貞の事実があり。
事が露見した事による、二人の会合による波乱を思って。
バルキリーはそれを思い直すように、すがるような目線で訴えた。

――出来れば健太郎との事を忘れ、全てを無かった事にしてしまいたい。
だが、その一方で心のどこかが「決して忘れたくはない」とも強く訴え。

その揺れ動く心の理由に気付き、更に胸の苦しみを増させる事になり。
バルキリーは一人、ただ打ち明けられぬ想いに悶々としてた。
ところが、その一方の当事者はと言えば…。

「えっ、どうして?」

そもそも、そこに想像が至らないのか?
バルキリーの懇願を、心の底から理解出来ない様子で尋ねるのみであった。

「どうして、と言われても…。
 健太郎はレオと顔を合わせ辛いとか、そうは思わないのか?」

バルキリーは戸惑う。
己が感じている、後ろめたさというものが健太郎にはないのかと。
あるいは、私との事など本当にどうでも良い事なのだろうかと?
そう考えるとひどい悲しさと、寂しさを胸に抱き――。

――頭を振り、邪念をも振り払う。

いや、違う。
あれはあくまでも人助けに過ぎない。元より、自分から言い出したのだ。
だからこそ、邪な想いや後ろめたさを抱く事自体が誤まりであり。
むしろレオや健太郎の彼女と出会い、これまでの経緯を堂々と話して
心より謝罪すべき事なのだろう解釈し、疼く胸の痛みを押さえ込んだ。

「すまない、健太郎。私はもう少しで不誠実を積み重ねるところだった
 そうだな。その時は私がレオを紹介しよう。それで充分に語り合おう」

――それが、自分がすべきことなのだから。
バルキリーは健太郎を余所に、決意を新たにしていた。

ただ、バルキリーは知らない。健太郎が元々浮気性であるという事を。
彼女の美樹が極めて嫉妬深く、度し難い性格の少女であるという事を。
その決意が、新たな悲喜劇の扉を開きかねないとも知らずに…。

「よくわからないけど、お姉さんの言う通りだと思うよ?
 僕だって、言われないとよく分からない事が多いからね」

不意に健太郎と視線が合う。…顔が、酷く近い。
その輝く赤い瞳に、バルキリーはこれまでの葛藤を
全て見透かされたような気分を抱き。

「…ごほん。それで、レオはそうやって色々なアイテムを掘り出してきたんだ。それは…」
「…これ、知っているの?」

やがて、その気恥かしさに耐えられなくなり、口を開きながら視線を逸らせる。
――今は、何も考えたくはない。この葛藤も、高鳴り続ける動悸の原因も。

「…ああ、男の子モンスターの骨と牙だ。あと、その皮も埋まっている。
 使えそうなものがかなりあるな。これなら濃縮エキスでも作れそうだ」

掘り出したものを見て、短く説明を入れながらも。
バルキリーはこの多くの骨や皮が散乱する光景に、かすかな違和感を覚えていた。

本来、このような事はそうそうあるものではない。
確かに倒されたモンスターの死体が土に埋められ、白骨化する事はあるだろうが、
ここは死体を埋めるのに適した広場でもない上に、何より骨や皮が真新し過ぎる。
――これもまた、あのハニーキングの悪趣味なお遊びの一環なのだろうか?

「…使えそうって、何に使えるの?」
「ああ、それらは仲間のクスシに調合してもられば、特別なエキスになる。
 人間の男が女の子モンスターと安全に…。あっ…!あ、あっあああ…!

だが、その効用は「安全にエッチする為のもの」であり。
説明しようにも、先程の情事を否応なく連想してしまい。
その顔に紅が差し、声が無様に裏返る。

「…どうしたの、お姉さん?途中で止められるとわからないんだけど?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

もっと詳しく教えて欲しいんだけどな?と、
子供のように好奇心旺盛な目を輝かせる健太郎。
――知っていて、わざとやっているのか?
それとも、本当に気付いていないのか?


「…さ、ささ察しろばっ、馬鹿者!あ、ああ!教えてやるとも!
 人間の男が!女の子モンスターと!安全に性行為をする為に!必要な薬なんだ!!
 そうすればな!先程お前が私にしたような事故もなくなる!
 レオはな!それを使って!毎晩違う女の子モンスターと!そういう事をしていたんだ!
 だから薬の効果は保証する!どうだ!これで理解出来たか?!」

バルキリーはぜいぜいと荒い息を吐きながら、自棄気味に大声で答えた。
――顔ばかりではなく、耳までもが赤い。
全身が燃え上がるような感覚。心拍は激しく、吐く息も熱い。
想像すまいと考えるほど、その心は真逆へと暴走してしまい。
バルキリーは、込み上げる羞恥に悶えていた。

(そういえばレオがそうだったから、逆に私がもう少しはそうしても…。
 いや、レオは皆の同意を得ていた。だが、私は違う!違うのだ!!
 それに、第一健太郎にも…。ああっ、そもそも一体何を考えているのだ!!)

妄想が更なる邪念を呼び、悪循環に陥り。
身体の芯が疼き出す。極めて本能的な、邪な欲望に。
バルキリーは、怒りで衝動を打ち消そうと躍起になっていたのだが。

「あ…、そうだったんですか?説明してくれて、ありがとう。
 もし今度そういう機会があれば、きちんと準備しますから。
 そういうのって、やっぱり大事ですからね?」

――だが、健太郎は知ってか知らずか。
ご丁寧にも笑顔で「次の機会」などと口走り、バルキリーの平常心に止めを刺す。


  …んんっ……あっ、はあっ!!いいっ!!もっと…、もっとお!!
  お、ねがいっ!もっと、はげし、くっ…。んっ、あっあああっ!!


彼女の脳内を、先程自らが上げたはしたない嬌声が木霊し始める。
その忍耐は限界にまで達し…。

「…こっ!……こっ…、こっ!……こ、ここここっ…!」
「こ?」

こけこっこー?と口ずさむ、健太郎のお気楽さに。

「今度などあるか、馬鹿者ーーーーーーー!!!!」
「わー、お姉さん!しっかりして!気を確かに!!」

――堪えてた怒りが、ついに暴発する。
触れるもの全てを粉砕せずにはいられぬ、破壊の嵐が巻き起こる。
それは、さながらに生ける台風であり。

唐突に涙目で暴れ出したバルキリーをなだめるべく、
健太郎はその台風の目――即ち彼女の懐に飛び込み、
腰にしがみついて取り押さえようとするも。
――勢い余って、バルキリーは健太郎が掘った穴の一つにつまずき押し倒され。

「あたっ…」
「……っ!」

そして、健太郎の顔がワイシャツから露出した肌に埋まり。
あまつさえ、唇が肌の窪地へと触れてしまい。
バルキリーはその感触に痺れ、途端に腰砕けとなる。
まるで、それを以前から待ち望んでいたかのように。

「ど、ど、どどどこをお抑えて、かかかおか顔をう埋めてるのだば、馬鹿者っ!」

戦乙女は大声を上げ、健太郎を振り払おうとする。
これ以上触れられていると、正気でなくなりそうだから。

だが、健太郎はそんなバルキリーの内心などどこ吹く風といった風情で。
その動きを止め、彼女の腹部の一点に興味深く視線を注いでいた。
その輝く瞳は、貴重な昆虫を発見した純粋な子供のようでもあり。
だからこそ、捕らえられた己が何をされるか知れたものではなく。
その視線に多大な恐怖と、僅かながらの邪な期待を覚え。

「…やっぱり、付いてないんですね?」
「…え?」

その意味を反芻する前に。
彼の手がその窪地に触れ、優しく撫でられ。

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

その身体に甘美な電流が駆け抜け――、
バルキリーは声にならない声を上げた。

       | `ラ´゙'''´ ''"'´  .|  |:.r'`V'''" ̄`゙ヽ、  ゙'i,  |.   ' /
       ゙'i,         .j  |./ ∧、, ゙̄ヽ、. \ ゙l. |\ ./ <キンクリさせないで……。
        ゙i,. r、,,,.、,_   / ノメ、 .j |ヾヽ,゙'ー---‐'ヾ-、,‐'    …お願い、やめて……
         .゙i,ヾ'-'ニワ.  / ./ノ .V j゙ |'i,. ヽ;-‐-、,_::::__ ::..> 
        /:::l,〈`   //‐'´ ./.ヽ/ .j.ノ  .:ヾ、;:) ゙'i    `ヽ、


「…しげしげと見つめるな!そして触るな!!恥ずかしいだろう!!」
「だって、お姉さんから聞いたとおりになっていたから。
 やっぱり、種族が違うと僕達と変わるみたいですね。お姉さんのここ」

抗議を上げるが、それには力は篭らない。

健太郎に、おそらく他意というものはないのだろう。
だが、そこまで無自覚に辱められると、反応に困る。
何より、それに抵抗できないどころか続きを望んでいる
自分があまりにも悲しく、そして情けなくなり――。

「ししししし知るかっ、馬鹿!!うっ、ううううう生まれつきなんだ!
 そっ、そそそれに、わ、わわた私のなどあ、ああの時見ただろうに!!
 なぜそこでな、なななめ舐め回すようにそ、そこを、みっ見るんだ!!」
「いえ、だって知らなかったですから、そこまで確認しなかったですし…」

――抜ける。抜ける。全ての力が抜けていく。
囁かれる言葉だけで、心の芯まで蕩けてしまう。
心に先んじて身体がそれを求め、馴染もうとはしたなく待ち望む。
嫌だ、嫌なんだ…。もうこれ以上、気持ち良くなってしまうのは…。

「こ、こらっ!息が当たって、ひゃん?!は、ああっ…。
 い、いやぁ、やめてっ…、んっ、お願い…だから……」

       | `ラ´゙'''´ ''"'´  .|  |:.r'`V'''" ̄`゙ヽ、  ゙'i,  |.   ' /
       ゙'i,         .j  |./ ∧、, ゙̄ヽ、. \ ゙l. |\ ./ <そろそろ秒読みか……。
        ゙i,. r、,,,.、,_   / ノメ、 .j |ヾヽ,゙'ー---‐'ヾ-、,‐'    過労死しそう……
         .゙i,ヾ'-'ニワ.  / ./ノ .V j゙ |'i,. ヽ;-‐-、,_::::__ ::..> 
        /:::l,〈`   //‐'´ ./.ヽ/ .j.ノ  .:ヾ、;:) ゙'i    `ヽ、

声がか細く、そして萎れ出す。本能が理性を蹂躙し続ける。
少しでも気を緩めれば、次の瞬間にも健太郎を抱きしめ、
衝動の赴くままに求めてしまいそうな程に。

だが、その心だけはたとえ一瞬でも長く抵抗を続けようと、
この甘美な責め苦に歯を食いしばって耐えていた、その窮状に。
――救いの主は、今現れた。

       | `ラ´゙'''´ ''"'´  .|  |:.r'`V'''" ̄`゙ヽ、  ゙'i,  |.   ' /
       ゙'i,         .j  |./ ∧、, ゙̄ヽ、. \ ゙l. |\ ./ <こちらも、助かったぜ……
        ゙i,. r、,,,.、,_   / ノメ、 .j |ヾヽ,゙'ー---‐'ヾ-、,‐'    
         .゙i,ヾ'-'ニワ.  / ./ノ .V j゙ |'i,. ヽ;-‐-、,_::::__ ::..> 
        /:::l,〈`   //‐'´ ./.ヽ/ .j.ノ  .:ヾ、;:) ゙'i    `ヽ、

何者かの朗々とした声が、サカイの路上に響き渡る。

「漂う微かな魔血魂の気配を辿り、こちらに赴いてみたのですが…。
 騒がしいですね、一体何事ですか?」

三人の視線が交差し――。


「「「…………………………」」」

――白けた空間が、三人を支配した。

健太郎達には聞き覚えのある、気品と優雅さを感じさせる声。
仕立ての良い正装に身を包んだ、黄色い長身のモンスターがそこにいた。

それは世界と人類に混沌を広めるために存在する、
絶対存在「魔王」の血を取り込んだ二十四柱の魔の化身「魔人」がうち一つ。
元の種族は男の子モンスターの「まねした」。
一度見た相手の姿を模倣する他、相手の心を読み最も恐れる存在へと変じる異能を持つ。
だが卑怯を厭い、敵に対しても紳士的な対応を忘れぬがゆえ「魔人紳士」とも称される。
――その名を、魔人ジークという。

それは、目の前で行われていた不可解な行為への疑問に、その首をかしげていた。

「…貴方達、今度は一体そんな所で何をしているのです?」

彼の視界には、女の子モンスターに組み付いていた人間の男がいた。
男は上着を脱ぎ与えた姿で、女の腹部にその顔を埋め。
女はほぼワイシャツのみの姿で、羞恥にその顔を紅潮させていた。
――ここから連想させる行為など、たった一つしかない。

「えーっとですね。女の子モンスターと人間の身体の違いというものを…」
「健太郎は黙ってくれ!こっ、これは……、何も…、ないんだ!!
 どうか……、気にしないで、欲しい…」

ジークは一度目を瞑り、大きなため息を吐くと。
やがて、心より憐れむ視線を戦乙女へと向けた。

「…なるほど、どうやら止むに止まれぬ事情がお有りのようですね。察するに…」
「ええ、そうなんですよー。是非、今度もまた助けていただければと」

そして、続いて健太郎へと視線を向けた。
ただし、その眼差しは戦乙女へ向けたような、優しいものでは決してなく。
むしろ穢らわしき汚物を見るかのごとき、嫌悪感に満ちあふれていた。

「…貴方、最低の鬼畜ですね?」

「えっ?」健太郎は驚く。ジークが己を鬼畜と呼ぶ事に。
「えっ?」戦乙女は驚く。ジークが抱いた、その結論に。
「えっ?」ジークは驚く。二人がなお、置かれた状況にシラを切ることに。

「…………ち、違うんだ!信じて欲しい!私は、その、そそそのようなっ!」

いち早く正気を取り戻し、置かれた状況を理解したのはバルキリー。
慌てて立ち上がり、手足を振り回して身の潔白を証明しようとするも。
それは誰が見ても「動揺」に手足が生えたかのような狼狽ぶりであり。
平静とは程遠い状態の彼女に、黄色い紳士は優しく労わる。

「いいえ、語られずとも結構です。その心中、深くお察ししたします。
 哀れな戦乙女よ。このような場でなければ、貴女をオーロラのように
 我が使徒として手厚く保護する所ではあったのですが……」
「…え?お姉さんを助けて頂けるんですか?」

一方、未だに状況を飲み込めていないのは健太郎。
それを紳士は一喝する。

「黙らっしゃい!不覚を取り弱ったバルキリーを良い事に、
 今の今まで所構わず辱め続けていたのですね貴方は!!
 元より人間など下衆で恥知らずな種族だと感じていましたが、
 まさかここまで下劣だとは…」

「えー?!それは違いますよー。第一、お姉さんの方から僕に…」
「ばっ?!いいから健太郎は黙ってくれ!頼む、お願いだから…」

馬鹿正直に病院での出来事を暴露しようとする健太郎。
その口を慌てて塞ぐバルキリーに、ジークは違和感を感じるどころか、
むしろ彼女への哀れみのみを増させ。

「しかも随分とバルキリーは錯乱しているご様子。無理もありません。
 人間風情に恥辱の限りを受け、身も心も奪われてしまいましたか…。
 誉高きバルキリーとの再戦、今度は是非万全な状態で手合わせしたかったのですが、
 それもまた難しいご様子」

「ならば、この一時のみは貴女の為…。
 この魔人ジークめが不埒者を成敗いたしましょう」

魔人紳士は己の剣を正面で構えて、彼女に騎士の礼儀を取った。
狙いは人間の強姦魔。それにただ正義の裁きを下すのみである。

「…いや、それは違うぞ」

だが、戦乙女は魔人の礼に異を唱えた。
これまでの狼狽ぶりが嘘のように、至極冷静に。

「ほう?そう言われますと。あと貴方、バルキリーのお尻に隠れない」
「ひゃん?!あ、馬鹿者…」

…黄色い悲鳴を上げたのは、ほんの一時のみ。
バルキリーはその名に恥じぬ、誇り高き戦人の顔を取り戻していた。

「私は挑まれた戦いは、たとえ自分がどうであろうと受けて立つ主義だ。
 貴様も男の子モンスターであるならば、我々バルキリーという種族が
 常にどのような環境に置かれているかは知っていよう?」

 ――バルキリー――

女の子モンスターの中では最強の一角と見倣され、逆にその比類なき強さが故に。
男の子モンスターの中では彼女達を組みしだき、子を産ませるのが勲章とされている。
故にこそ常に貞操を狙われ、その中には手段を選ばず襲いかかる卑怯者も存在する。
そういった、常に心身の危機の中をバルキリー達は生き続けているのだ。
その現実を、元種族が男の子モンスターの魔人であるジークが知らぬはずがない。

「この程度の苦境など、我々にとっては今更どうということはない。
 とうに慣れ飽きた日常だ。故に遠慮や気遣いなど無用。それにな…」

そして、戦乙女は口にする。
己が大事に思う存在への侮辱を、決して看過などしない。

「…“私の健太郎”を、これ以上侮辱するな。
 貴様こそ彼への無礼、覚悟してもらおうか?」

そう言い放ち、バルキリーは静かに構えを取った。
それは本人ですら気付かぬ内に漏れた、戦乙女の本心であった。

「ほう。自らを辱めた相手すら庇おうとは。貴女は、その魂こそが美しい。
 むしろ貴方に情けをかけるという行為自体が、非礼と仰られるのですか。
 …宜しいのですね?」

ジークの視線に、無言で頷くバルキリー。
魔人はその心意気に胸を打つ。

――ならば、眼前の戦乙女への礼は剣で以て答えるべき。
ジークは緩やかに、彼女へその剣先を向けた。

「私はその男や他の男の子モンスターのように、貴女を穢す野暮は致しませんよ。
 ただ心より敬意に値する戦人と見倣すが故に、そのお命のみを頂戴いたします。
 さて、お覚悟を」

魔人ジークは、優雅に告げて構えを取る。
そして彼が最も得意とする、変身の技を以て対峙する。

「では、参りましょうか?バルキリーよ。あなたが今最も恐れているものは……」
「そう、これだ」

ぽんっ
小気味良い音と共に、白煙を上げて魔人が変身を遂げる。

「「「…………………………」」」

――再び、白けた空間が三人を支配した…。

そこには、三人にとって酷く見覚えのある青少年がいた。
髪の毛は茶色く、瞳は毒々しく輝く赤。
中肉中背だが、引き締まった無駄のない体躯。
愛嬌のある、童顔気味の整った顔立ち。
上はシャツのみで、背には大振りのシャベルを背負い…。
――有り体に言えば、それは小川健太郎そのものであった。

ただし、内面の違いがその顔にも現れるのか?
その顔は本人よりも凛々しく、隙のない美形に見せているのだが。

「…え?!ち、違うっ!!そんな事…、有り得るはずが…っ!!」
「ええっと…、その…。もしかして…、僕が怖いの?お姉さん…」

恐怖の原因が一体どこにあるのかを察し、驚愕と狼狽を隠せぬバルキリーに。
恐怖される理由がまるで理解出来ず、しきりに首をかしげる健太郎。
恐怖する対象が先程と変わり果てている事に、疑問符が脳内を駆け巡るジーク。
…三人は、その理由は違えども混乱の極地にあった。

「なるほど、その鬼畜に陵辱され続けた恐怖という訳ですか。
 この男の姿を取るのは、極めて屈辱的ではあるのですが…。
 しかし、この身体…。嫌に軽い上に、変身前よりも力が漲ります。
 まるで、人間のそれではない。そして、何よりこの気配は……魔血魂っ?!
 …まさか、貴方魔人だったですかっ?!」

魔人ジークは変貌した身体の、その比類なき強度を以て理解する。
よりにもよって、眼前の強姦魔が己と等しき魔人であるという事に。
――だが、その当人にその自覚はない。まるでない。

「えっ、魔人?どこどこ?」とキョロキョロと周りを探す健太郎。
「貴方ですよ、貴方…」彼の勘違いを、ジークは投げ遣りに諭す。

魔人紳士は、大きな溜息を吐いた。
おそらくは、元人間のこの男――。
なんらかの奇跡的な偶然で魔血魂を見つけ、
拾い食いでもして生まれた魔人の類なのだろう。
一体いつから、魔人にはこのような奇人変人が混ざり始めたのだろうかと?
ジークはこんな男と己が同格であるのかと悩み、酷い偏頭痛を覚え始めた。

「いや、まあそんなこと言われても…。僕は美樹ちゃんの彼氏としか…」
「!しかも貴方。仲を誓った女性がありながら、バルキリーを辱め続けたのですか!
 そもそも、貴方が私と同じ魔人である事自体が恥辱でしかありません!!
 やはり貴方から!真っ先に!成敗して差し上げましょう!!」

凛々しい“健太郎もどき”は日本刀を正眼に構える。
外見は同じでも中身が違うのか、彼には魔人に相応しき威厳と風格があった。
一方、まるで緊張していない緩みきった顔をしているのは、本物の健太郎。
同じ顔をしていても、その違いは一目瞭然である。

「…健太郎は私が守る。そうはさせんぞ?」

その宣告に、バルキリーは立ちふさがる。
だが…。

「あ、でもやっぱり、僕が代わりに戦うよお姉さん。
 …ちょっと、怖いけど。」

この場で最も緊迫感に欠けた青年は、戦乙女の前に立つと。
日本刀を引き抜き、剣を肩に担ぐように構えた。
それは八双を崩した、だが移動しながらの攻撃を念頭に置いた我流の構え。
そしてその貌にはいつの間にか緩みは消え、それなりに引き締まっていた。

「…いいのか健太郎?無理をするな?」
「…いや、さっき黄色い人の言葉で、美樹ちゃんの事で思い出したんだ。
 仮に女の子の方が凄く強くって、絶対に傷付くことがないって場合でも。
 やっぱりこう男の子ってのは女の子の前に出なければいけないんだって。
 そうでなきゃ、格好悪いから」
「…それに、お姉さんには借りがいっぱいあるから、ここで返さないとね?」

――ここにきて初めて、凛々しい貌を見せる健太郎に。
バルキリーは「私の獲物を、取らないで欲しい…」と抗議をするものの。
それはあまりにもか細く、消え入りそうな小声と化していた。
まるで、恋に恥じらう乙女のように…。

その生粋の戦闘種族にはありえぬ、あまりにも珍しい光景に。
ジークは目を丸くしていたものの、やがて正気に帰り――。

「ほう、貴方にもまだ少しは男気というものが残っていたらしいですね?
 よろしい。それに免じて、せめて苦しまぬよう殺して差し上げますよ?
 さあどこからでもかかってらっ『わかった僕かごくーっ!!』」

――だがその口上の途中で、一つの暴風が魔人紳士へと踊りかかり。

「ぎぃぃぃぃぃいぃぃあああああぁぁぁあぁ!!!」

健太郎はジークの眼前に踏み込み、容赦なく全力で袈裟に斬り付けた。
深々とその白刃が胸に食い込み、魔人紳士は堪らずに片膝を落とす。

「……こ、このぉ、ひ、卑劣漢があああぁぁぁあああっ!!」
「え、でもどこからでもかかってって言いましたし…」
「あ、それは私も確かに耳にした」

胸から夥しい血を流し、憤怒の形相で抗議の声を上げるジークに。
健太郎は心底「理解出来ない」といったした顔で律儀にそれに答え。
戦闘種族であるバルキリーも、至極あっさりとそれに同意していた。

「宣戦布告を遮り不意打ち等、やはり貴方は卑怯卑劣な人間でしたか!
 この外道!たとえ神が許しても、この私が許しませんよおおおおぉぉっ!!」

もはや紳士的な会話など無意味と理解したか。
ジークは手負いの野獣めいた勢いで、本物の健太郎へと踏み込むも…。

「わっ…!わわわ…!」

正眼に構えていた健太郎が、たたらを踏むように一歩退く。
魔人紳士の狙いは、健太郎がこちらを追い払うように動かす日本刀の、
その先にある邪魔な両腕。まずはそこから切り落とす。
振り下ろされた憤怒の一撃に対し、健太郎の刀が動く。
あたかも、下から掬い上げるように。
二人の剣の動きは、上下対称となり。

「って、ちょっ、くぬ…」

だが、健太郎に込められた力は、手の平を除き微少。
そして気の抜けた健太郎の刀は当然の事ながら、弾かれ。
ジークの一撃と等しき勢いで、それは円弧を描き一回転して――。

「っと、えいっ!」

――――斬。

どさり、と音を立てて。
健太郎もどきの右手首が、
彼の狙いとあべこべに地面へと転げ落ちる。

「ぐぁぁぁああああぁぁあああああああ!!!!」
「凄い…!」

――それは、単純に相手の力をそのままに利用した、合理的な剣の術であった。
偶然か?本能か?あるいは修練の賜物なのか?

いずれにせよ、たった一つだけ言えることがあった。
生粋の戦闘種族であるバルキリーをして驚愕させるほどに、
小川健太郎は剣の術において実力者だと言うことなのだ。
そのどうしようもない凄みの欠如と、中身の小市民性はさておくとして。

「ぬぐぐぐぐ…一度ならず二度までも…。
 この太刀筋、決してまぐれだけでは有り得ない。
 あなた、並の剣士ではありませんね?」

「どうかなー?僕のは我流ですし、ランスさんとか僕より凄い人は結構いますけど。
 それに、使徒の戯骸さんにも散々丸焦げにされて鍛えられましたし…」

落とされた手首を拾い、必死に繋ぎ合わせる健太郎もどき。
魔人だからこそもっているような重体で、貌は貧血で青白い。
弱った敵にはいち早く止めをさせば良いものの、
こういう時は調子を合わせてか、律儀に見守り返答する健太郎。
そして、健太郎のする事には全て同意してしまうバルキリー。

「これは、ひどい」としか言い様がない生温かい空気が、そこには流れていた。
だが…。

「なんじゃそりゃああああああああ!!!!一体、いつの!!どこの世界に!!
 使徒(しようにん)に良い様に嬲られる魔人(しゅじん)がいるのですか!!
 しかも貴方、あのランスの知り合いですか!道理で卑怯千万という訳ですね!!」

魔人紳士は気炎を上げる。健太郎の、色んな意味でのどうしようもなさに。
魔人とは、魔王という存在を除けば世界の頂点に立つ存在であり。
使徒とは、魔人の下僕として作られる、言わば「魔人の子供」に相当する存在。
主が違うからといって、従僕にいたぶられる者など恥晒しでしかない。

しかも、過去ジークに苦渋を飲ませた卑怯卑劣な下品男が、他ならぬランスである。
――健太郎の存在、もはや全てが捨ててはおけぬ。

「この魔人の面汚しめがあああああっ!!恥を知りなさいっ!!
 ん…、待ちなさい貴方。美樹ちゃんの彼氏…健太郎…そして元人間…。まさか?!」

――捨ててはおけぬ、のだが。

「え?どうしたの黄色い人…」
「…貴方。現魔王リトルプリンセスの愛人にして近衛、小川健太郎ですかっ!!」

「うん、そうだけど?」
「健太郎、実は凄い有名人なのか?」

これまでの健太郎の言葉から、ジークは彼の正体を理解した。
なるほど、これなら魔人らしくなさも納得ができようものだ。

おそらく、リトルプリンセスは直接その血を愛人に与え魔人にしたのだろう。
その溢れる程の力に自覚を持たぬ魔王に、やはり一切の自覚無き魔人。
ある意味、これはお似合いの組み合わせと言えるのかも知れない。

――全てが、狂っている…。

ジークはその息を肺の底から絞り上げ、憤怒の念と共に深く吐き出した。

「なるほど、これで貴方が魔人である理由も理解できました。
 そして、ならばこそ我が勝利は確定したようなものです」
「…えっ?」

気を落ち着けた魔人は、己の勝利を高らかに宣言する。
曲がりなりにも眼前の魔人である存在が心から恐怖するものなど、
たった一つしかないであろうから。
そして、それを一人で倒せる存在など、この世にはいないだろうから。

「では、元人間の剣士小川健太郎よ。
 お前の恐怖するものは……当然これだっ!!」

ぽんっ
小気味良い音と共に、白煙を上げて魔人が変身を遂げる。

「わーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
「あっ…」

そこには、一人の美少女がいた。
薄桃色の長髪に、まだあどけなさを残す顔。
白いブラウスに、赤いスカートとネクタイといった簡素な出で立ち。
まだ女性として発育を遂げる前の未熟な肢体が、清楚な印象を与えるものの。
だがその瞳だけは健太郎のそれよりも更に赤く、禍々しいものを湛えており――。
――有り体に言えば、それは“来水美樹”の姿であった。

「ごめんなさい美樹ちゃんごめんなさい美樹ちゃんごめんなさい美樹ちゃん!!
 美樹ちゃんが幼稚体型でお姉さんがグラマーだからなびいたとか実はもっとしたいとか
 そんなことはありませんから浮気しないから消し飛ばさないで許して美樹ちゃん!!!」
「うっ…ば、馬鹿者っ!落ち着け、健太郎…。あれは奴の変身だ。決して本人ではない!」

錯乱の余り土下座して謝罪だか火に油を注ぐのか分からない妄言を繰り返す健太郎に、
浮気相手の彼女の姿という事もあり、動揺を隠せぬバルキリー。

「流石、不完全とはいえ現魔王…。
 気を抜けばこちらの身が爆ぜそうな程の魔力、
 やはり長時間の変身は厳しいですね?
 ならば、早々に決着をお付け致しましょう」

ジークは二人に右の掌を向けた。
身体に漲る膨大な魔力を、掌一つに収束させる。
みちり、みちりと右袖が不自然に膨れ上がり。
繋げたばかりの右腕の継ぎ目から、血を流す。

苦悶の表情を浮かべ、額に汗をかき続けるのは、
膨大な力への負担と、痛みを堪えて何かを為す証左であり。
尋常ではない身体への負担を無視して、その手に創造したものは――。

全てを焼き尽くす破壊の光球。
その名も『消えちゃえボム』

――ジークは、変身した魔王の奥義を模倣した。

「消えてしまいなさい。何もかも…」
「えっ?」

ジークの手から、無造作に光球が放たれる。
正確な狙いなど、付ける必要などない。
これに巻き込まれて、生きていられる存在など地上にはいないのだから。
それは二人のいる空間に着弾し――。


「うわああああああぁぁぁぁぁぁあぁぁあああ!!」


健太郎の尾を引く絶叫が木霊し――。
サカイの商店街は全てが壊され、消え失せた。
あとには瓦礫の山が残るのみである。


――――――――――――――――――――。

「流石に、塵一つ残さずに吹き飛ばされたようですね」

――ジークは、右の手首から未だに血を滴らせながらも。
満足と戦慄の混ざる視線で、その破壊跡を眺めていた。

(しかし、我々もこの本物を倒さねばならぬと考えると少々気が滅入りますね。
 せめて、この場にケイブリス様がおられれば…)

この殺し合いの参加者には、確かに来水美樹――。
かねてから血眼になって探し、殺害を企図していたリトルプリンセスがいる。
だが、ここまでの戦闘力であったとは、
変身した当のジークですら想像の埓外にあり。

(いえ、この場での対峙も致し方ありません。
 ですが、戦力補強の為一時的な共闘関係を誰かと結ぶしかないでしょう。
 この場で協力を仰げそうな者といえば、カミーラ様の使徒程度でしょうか?
 …まるで足りませんね。ますぞえは、やはり宛にならないでしょうし……)

魔人は名簿にあった他の参加者の名前を思い出しながら、
同盟相手の事を考えていたのだが。その困難に頭を抱え…。

「彼の魔血魂も、回収しておきたかったのですが…。
 この有様では、もはやそれも不可能でしょうね。
 それに、私も少々血を流しすぎました。しばらく休ませていただきましょう。
 では、さらばです。いずれ貴方がたの恋人も、お傍に送って差し上げますよ」

――そして今悩んだ所で、時間の無駄でしかないとでも思ったのか。
やがて変身を解くと、破壊跡に背を向けその場をあとにした。


          ◇          ◇          ◇


「た、たすかったあぁぁぁぁぁ…」
「ん……ここは?天国、なのか?」

――絶対的な破壊の光球にその身を晒し。
二人は塵一つ残さず消滅した、という訳では決してなく。

むしろ五体満足な状態で、今こうして生きながらえていた。
ただし、どうなっているかと言えば――。

「ええと、違うんだけどな。僕が掘ってた穴の中なんだけど…」

――穴の中にいる。
二人は健太郎が路上で掘っていた一際深い穴の中に身を沈めていた。
ただし、それでも二人が入るには窮屈すぎるのか?
身体の至る所が密着し、お互いの顔が目の前にあるのだが。

バルキリーは羞恥のあまり、健太郎から目を逸らしていた。
一度視線を合わせれば、どうにかなってしまいそうだから。

「爆発とかそういうのは、地面の下には広がらないものだから。
 まあ、美樹ちゃん相手でこういうのには慣れちゃってますし。
 だから、とっさにお姉さんを穴に突き飛ばして…」

バルキリーの上となり、蓋となっているのは健太郎の身体。
彼の奇行と経験則が、偶然にも二人の命運を繋いだのである。

「それで、私達は助かったという訳か。そうか…、そこまで考えて穴を…。
 借りを返すつもりが、さらに借りができてしまったな。健太郎…」

だが、それをどこまでも美化して解釈してしまっているのはバルキリー。
恋の病というのものは、度し難い薔薇色の妄想をその患者に与えるものである。
…いや、誰か止めてやれよ本当に知らんぞ全く。

「えー、そんなことないですよー。って、あたたたたた……」
「どうした、健太郎?」

声を上げ、背中に手を伸ばして顔をしかめる健太郎に。
バルキリーは怪訝に思い健太郎を裏返して見ると。

「背中が、少し焦げちゃったみたいですね…」
「無理をするな!よく見せてみろ、背中を!」

健太郎の背中が、着ていたシャツごと見事に焼け焦げいた。
流石に、完全に無事という訳には行かなかったらしい。

あははー、と能天気に笑う健太郎。
彼自身は良くも悪くも無神経な所があり、正直己の傷等気にも止めてはいないのだが。
だが、バルキリーにはそれが「献身を当然と認識する、命懸けの救助行為」にすら思え。
健太郎に守られたという事実を、この上なく嬉しく思い…。

「あっ…。」

溜息とも、歓喜とも付かぬ声がその口から漏れ。
高鳴る胸が、もはや抑え切れなくなるのを感じ。
一度だけ経験のある、持て余す想いが戦乙女の心を満たす。
そう、やはりこれは…。

「こんなになってまで、私をかばい…。もう二度とこんな真似はするな!」

――バルキリーは、その両眼に涙を湛えながら。
ここに来てはじめて、健太郎に対する想いが何かを自覚した。

「馬鹿!馬鹿、馬鹿だ…。お前は……」

もう、どうにも止められそうにない。

この身を焦がし続ける、己の想いを。
その想いが突き動かす、己の行為を。

健太郎の焼け焦げた背に、そっと唇を重ねる。
自分の為に負ったその火傷が、己への想いの証明のように見え。
だが既に傷が塞がりつつあるその背を、何故か酷く残念に思い。
――傷口に、軽くその歯を立てる。

「いたっ…!」

健太郎の挙げる痛みの声も、何故か甘やかなものに聞こえ。
そして、その背から滴る血が、酷く愛おしいものに見えて。

「んっ、んん……」

――バルキリーは健太郎の焦げた背中を、丹念に舐め回した。
そして、飲んだ血を舌の上で味わい、ゆっくりと飲み下す。
まるで、子供が蜜を味わうかのように。

「ちょ…、くすぐったいですよ…。あはは……」

バルキリーは陶然となり、血を飲む行為にただ酔いしれていた。
彼女の暴走に戸惑う健太郎が、軽く抗議の声を上げるものの。
その背に当たる胸の膨らみと舌の感触に酔いしれ、
ついついその身を任せてしまう。
――だが。


     ―どくんっ―


バルキリーは“魔人の血”という剣呑過ぎる代物を、
何一つ知らずに相当な量を口にしてしまっていた。


     ―どくんっ―


そして、それが彼女の身に一体何を引き起こすかと言えば――。

「えっ……、あ、あああああぁぁ…?!」

バルキリーが、唐突に激しく痙攣を起こし始める。
全身の神経を焼き切らんがばかりに駆け抜ける、
暴力的な快楽と激痛の嵐。それが彼女を蹂躙する。

それは先程の禁断症状や情事にも勝るとも劣らぬ、
正気を犯す感覚の暴走であり――。

「ああああぁぁぁぁぁぁあああああぁあっ!」
「しっかりして!ちょっと、お姉さんっ!!」

バルキリーは悶え、健太郎の肩にすがりながらそれに耐えていた。

魔王の血は魔人という己の下僕を生み出すように、
魔人の血は使徒という己の下僕を生み出す効果を持つ。

今身に起きている事態は、魔人の下僕へと心身を変貌させる奇跡の前兆。
健太郎には己が魔人たる自覚がなく、彼女が血を飲むにただ任せてしまい。
バルキリーには魔人の血のなんたるかを、まるで知る由もなかったが故に。

偶然と呼ぶには余りにも性質の悪い冗談のように、転生の奇跡はなされ。


やがて――。


          ◇          ◇          ◇


「はあっ……、はあっ……、はあっ……」

その心身を蝕んでいた感覚の暴走は嘘のように収まり。
バルキリーはようやくの思いで、荒げた呼吸を落ち着かせていた。

――――身体が、酷く軽い。
綿毛のように、あるいは風の一部にでもなったのように。
身体に貯まる毒を残らず汗とともに排出し、全ての血肉を入れ替えたような。
これまでに一度も感じた事のない、素晴らしい爽快感。

事実、身体に残っていた痺れや痛みといった不調は全て消え失せ。
病院で脱ぎ捨てた皮膚も、ワイシャツの下から新たに生え変わっている。

一番近いものでたとえるなら、熟睡した後の目覚めに近いのだが。
これは体調が万全の状態を取り戻しただけに留まらず、
身体の細胞の一つ一つが、長い眠りから残らず目を醒まし。
それら全てが新鮮な空気を吸い、全身でそれを喜んでいるような。
――得られる快適さにおいて、雲泥の差があった。

常に力が漲り続け、五感は更に鋭敏さを増し。
だがそこに身体を苛むような負担はまるでなく。
今まさに己は「生まれ変わった」のだろうと、バルキリーは認識した。

だが一つ、その代償に何か掛け替えのないものが喪失したような。
己を縛り付けていた、そして守り抜いていた心の鎖が。
ぱきりと致命的な音を立て、断ち切られたような錯覚を感じ。

「レ、オ……?」

思わず、己と共にいた“戦友”の名前を口に紡ぐ。
だが、これまではその名を呼ぶ度に感じた、
心満たされる熱さは今はまるで感じられず。
そこに、一抹の寂しさのようなものを覚えはしたものの。

それは些細な事であり、何も問題はないのだとバルキリーは思い直した。
それに代わる、あるいはそれ以上の強固な縛鎖で、
その心は繋ぎ止められているのだから。
その鎖の持ち主は――――。

「…大丈夫、お姉さん?」

その鎖の持ち主が、不安げな貌でバルキリーを見つめる。
己の身を案じる健太郎の様子に、己の為に心を痛めてくれているのだという小さな喜びと。
不甲斐なさから健太郎の心を痛ませてしまったという、大きな悲しさを胸に抱き。

「…すまない」

ここいにる最愛の存在と、ここにはいない戦友の二人の為に。
戦乙女は、短く謝罪の言葉を述べる。

だが、その謝罪した直後に。
健太郎に対しては当然として、後の一人については何故だろうか?
――ふと、そのような事を考えてしまう。

何故かはわからないが、それはすべき事のように思えたのだから。
いや、それは恐らく気の迷いか何かなのだろう。大したものではない。

今、己が最もすべき事は健太郎を悲しませない事であり。
そして、健太郎の為に心から従僕として尽くす事であり。

「心配をかけたな、マイ・マスター。この通りだ。何も問題はない」

――それ以上に、それ以外に心を砕く事など何もないのだと。
バルキリーは己の胸に手を当てその無事を誇示し、雑念を打ち消した。

「えっ?マイ・マスターって?…まあ、いいか。
 それより移動しようよ、お姉さん。ここ、危ないから」

二人は無事を確認し合うと、健太郎の背中の治療の為その場を後にした。


彼女が忘れ、失ってしまったもの――。
それは、生命よりも大事にしてきたレオへの恋慕の念であり。
断ち切られたものは、バルキリーとレオとの従魔契約であり。

魔人の血によって上書きされ、それらが消されてしまった事に…。
彼女も、ましてや健太郎でさえも気がつく術はなかった。
記憶はそのままであるが故に。
――それは、ある意味死より重い代償と言えるものであった。

こうして、二人は身に起きた心情の変化を全く自覚する事はなく。
そして、それらは新たなる悲喜劇の材料として。
運命の歯車は、更なる狂いを生み出していく――。


【サカイ/一日目・日中】
【魔人ジーク@Ranceシリーズ】
[状態]:胸板に深い刀傷(再生中)、
    右手首が一度切断(現在接続中)、
    やや酷い貧血
[装備]:剣
[道具]:支給品一式、不明支給品×2
[思考]基本:正々堂々と優勝。
    1:まずは身体に負った深手を癒しておきたい。
    2:魔王リトルプリンセス(来水美樹)を倒すため、
      カミーラの使徒(アベルト)に接触して一時共闘を申し込む。
    3:魔人ますぞえには期待しないが、念の為接触は考えておく。
[備考]:魔人健太郎とバルキリーは、諸共に消滅したと思い込んでいます。
    これ以上酷い失血があれば、生命に関わる場合があります。
    アベルトを魔人だと思っていません(カミーラの使徒だと認識してます)

【小川健太郎@Ranceシリーズ】
[状態]:魔人、半裸、背中が血塗れ(軽度の火傷、再生中)
[装備]:日本刀
[道具]:支給品一式、ヒララレモン、
    アベルト謹製の媚薬×2(うち一本は使用済)@RanceⅥ-ゼス崩壊-
[思考]基本:美樹ちゃん捜索、取り敢えず着替えと傷の治療がしたい。
     1:お姉さん、元気になったみたいで良かった…。
     2:お姉さん、美樹ちゃんには黙っておいてくれるかな…。
     3:少し寒いから、上着を探したいな…。
     4:背中に歯型とかキスマークとか付いてたら、どうしよう?
[備考]:戦国ランス正史終了後からのスタートです。
    Tシャツが「消えちゃえボム」で焼失したため、上半身が裸です。
    魔人ジークの指摘があったものの、やはりあまり自覚がありません。
    したがって、バルキリーを己の使徒にした事にも気付いていません。

【バルキリー@GALZOOアイランド】
[状態]:使徒、健太郎への恋愛感情
[装備]:健太郎のYシャツ
[道具]:支給品一式、不明支給品×2
[思考]基本:健太郎に仕える、あとはレオ達を助ける?
     1:健太郎…。
     2:このYシャツ、やはり良い匂いだな…。
     3:レ、オ……?
[備考]:媚薬の副作用と使徒にされた事により、完全に健太郎に惚れています。
    レオとの従魔契約が健太郎の魔人の血で上書きされ消滅した事により、
    心身ともに完全に健太郎に従属しています。
    使徒へと転生したことにより、毒や病気に耐性が付き、
    ジャンキー状態からも完全に解放されました。衣装も新生しています。




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