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***SS56 ***ゲーム 「別れてほしいんだ」 その一言で、私はこれまでの偽りを清算した。 高校生の時は澪ちゃんに勝てる気がしなかったし、何もかもを捨ててまでりっちゃんを選べる強さも無かった。 りっちゃんの事を諦めて、からっぽの日々を過ごす私に転機が訪れたのは二年生になってからだった。 あずにゃんが入部してきてくれた。小さくて、それでも私を引っ張っていってくれる元気や強さがりっちゃんと重なった。 私は部員の中で一番あずにゃんを大切にした。りっちゃんの傍に澪ちゃんが居ても、あずにゃんが居てくれたから痛みは感じなかった。 高校を卒業して、あずにゃんと恋人として付き合うようになって… 私は、りっちゃんの事は思い出にして、あずにゃんとずっと一緒に生きて行くんだなと思っていた。 でも、私が人生と言う名のゲームの最終章を選ぼうとした時、突然別の世界のお話が目の前に現れた。 『澪も梓も潰れちまったか。私はまだまだ飲めるぞ!唯、家で三次会やろうぜ?」 みんなで集まってお酒を飲んだ帰り、りっちゃんに誘われた。 澪ちゃんとあずにゃんはムギちゃんが面倒を見てくれるとのことで、私は二つ返事でりっちゃんの部屋に向かった。 どれだけ飲んでもなんともない私と違って、りっちゃんはお酒が無くなる頃にはうっすら頬を上気させて上機嫌だった。 「良いよね?」 酔ったふりをしてりっちゃんを抱こうと思った 後になってこんな事を言っても言い訳にしかならないけど、りっちゃんが少しでも抵抗してくれたら冗談で済ませるつもりだったんだよ。 だけど、両腕を押さえつけたらりっちゃんはまったく抵抗してくれなかった。 自分を止める術をなくした私は…叶うはずのなかった欲望の全てをりっちゃんにぶつけた。 たった一度の私の愚行が運命を大きく狂わせた。 「唯先輩、昨日うなされてませんでした?」 「え、覚えてないけど…私うなされてた?」 一度りっちゃんを知ってしまった心は正直で、毎夜りっちゃんを夢の中で抱いた。 「覚えてないんですか。仕事で悩みでもあるのかと心配したんですよ?」 「そんなことないよ。順調に新人研修も終わりました」 大学生のあずにゃんと新社会人の私はすれ違うことが多くて、あずにゃんは私の異変には気が付かなかった。 私は。あずにゃんが忙しい日はりっちゃんのマンションに通うようになった。 どんなに仕事が大変でも、りっちゃんの顔を見た日はぐっすりと寝られて次の日も元気で出勤できた。 戸惑うりっちゃんを強引に押しきって、半同棲のような日々を過ごす内にあずにゃんの事を考えなくり… 毎日りっちゃんと一緒に居たいと思うようになった。 都合の良い毎日を過ごしていた私に天罰が下ったのは誕生日の日の夜の事。 「唯先輩、今日空いてますよね?私は夕方から空いてるんで待ち合わせして出かけましょうよ」 「あ、ごめん。今日仕事遅くなりそうなんだ…明日じゃダメかな?」 自分の誕生日を忘れる程バカじゃないけど、あえて忘れてるフリをしてあずにゃんの申し出を断った。特別な日は特別な人と過ごしたい。今日は誕生日なんだから、あの日みたいな事が起こるかもしれない。 何の根拠もないのに、私は舞い上がっていた。 『しばらく来るな!もし来たら引っ越すし、携帯も換えるからな!早く帰って梓に連絡しろ』 初めてりっちゃんに拒まれて、餌を貰う気満々の犬みたいだった私は、何度も何度もドアをノックしてりっちゃんの名前を呼び続けた。 抜け殻みたいに帰宅した私を迎えてくれたのはあずにゃんと憂で。 「お姉ちゃんお誕生日おめでとう。台所借りてるよ?」 「お仕事お疲れ様です。合鍵ってこういう時に使うためにありますよね!」 私を祝うために作られた普段より数段豪華な憂の料理は砂の味がした。 りっちゃんに迷惑をかけていたのに、自分の事ばっかり考えて有頂天になっていた自分が憎くて… 私はあずにゃんが眠ったのを確認してから涙を流した。 12月になって、辺りはクリスマスカラーに染まり始めたけど、私の目に映る景色は灰色でくすんでいた。 りっちゃんにメールを送ったけど返信は無くて、代わりにあずにゃんから 『最近唯先輩は変です。私と居る時もどこか上の空で…』 なんてメールが届いた。 もう、適当にあずにゃんの相手をして、以前のような関係を維持する気力は私に無かった。 「別れてほしいんだ」 クリスマスの夜、私はあずにゃんにそう告げた。 「……唯先輩、私ケーキ切りますね。上のチョコのやつ欲しいですよね?」 「あずにゃん、私の都合で悪いけど…別れよう」 一瞬だけ顔を歪めたあずにゃんにもう一度言う。 「悪い冗談はやめてくださいよ…突然なんなんですか唯先輩」 普段は甲高い声で私に不満を言うのに、あずにゃんの声は低くて小さかった。 「ずっと、あずにゃんのこと騙してた。あずにゃんの事は好きだったけど…ずっと一番じゃなかった」 「その…一番の人は誰なんですか!澪先輩?ムギ先輩なんですか?まさか…憂…」 「誰かなんてどうでもいいよ。とにかく、私達はもう終わり…」 最後まで言う前に、あずにゃんは果物ナイフを自らに向けて突き刺そうとした。 「離してください…私なんてどうなっても良いんでしょ!?」 「そうじゃないよ。ただ別れてほしいだけ、普通の先輩後輩に戻りたいだけだよ」 刃の部分を掴んであずにゃんから果物ナイフをとりあげると、鈍い痛みと共にじんわりと掌が温かくなってきた。 「もしもし、憂?悪いんだけど今から来てくれない?あずにゃんがちょっとね…たいしたことじゃないけど、私じゃどうにもできなくて…」 「嫌です…嫌です…」 「お姉ちゃん!梓ちゃんがどうしたの…」 「唯、梓と喧嘩でもしたのか?」 憂は慌てて駆けつけてくれたけど、途中で澪ちゃんまで連れてきたのには驚いた。 ―――他の人が好きだからあずにゃんと別れる――― 二人に素直に話したらいきなりビンタされて、憂にまで泣かれるし、澪ちゃんには訳のわからない恋愛論みたいなものを語られた。 私を散々に批判した後、憂と澪ちゃんはあずにゃんを連れて帰って行った。独りになった私が携帯を開いたら、クリスマスが終わるまで一時間をきっていた。 「りっちゃんに会いたい」 あずにゃんとの事が全て片が付いたとは言えないけれど、もう私の心の中にはそれだけしか無かった。 りっちゃんの住むマンションに向かいながら考える。もし、ゲームみたいに何度でも人生がやり直せるとしたら…私はどうするんだろうか? 同じことだよね。何度やり直したって、私は結局あずにゃんを傷つけて…沢山の大切な人達を裏切って…それでもりっちゃんが大好きで… きっとまたこの路を歩くことだろう。いや、自ら願ったっていい!私は何度でもこの路を歩きたい。りっちゃんが大好きだから。 ――――――――――― 「りっちゃん。このお鍋どうしようか?」 「台所は私が後でやるよ。唯は怪我してるんだから無茶しないでくれ」 年が明けてからすぐに、私とりっちゃんは住み慣れた町を離れた。 私は両親にこっぴどく叱られた上に出入り禁止なんて言われたけど、りっちゃんのお父さんとお母さんは私達の事を認めてくれた。 あずにゃんや憂、そして澪ちゃんには何も言わなかった。もう二度と会うつもりもないし、向こうも私の顔なんて見たくないだろうからちょうど良いのかもしれない。 でも、意外なことにムギちゃんからは連絡がきて… 『私、一度お昼のドラマみたいな恋愛の傍観者になってみたかったの!』 なんて言ってくれた。 知らない土地でゼロからのスタート きっと沢山りっちゃんに苦労をかけてしまうだろう… だから、私の全部をりっちゃんのためだけに使いきって――― この選択が間違いじゃなかったことを証明したいと思う。 end
***SS56 ***ゲーム 「別れてほしいんだ」 その一言で、私はこれまでの偽りを清算した。 高校生の時は澪ちゃんに勝てる気がしなかったし、何もかもを捨ててまでりっちゃんを選べる強さも無かった。 りっちゃんの事を諦めて、からっぽの日々を過ごす私に転機が訪れたのは二年生になってからだった。 あずにゃんが入部してきてくれた。小さくて、それでも私を引っ張っていってくれる元気や強さがりっちゃんと重なった。 私は部員の中で一番あずにゃんを大切にした。りっちゃんの傍に澪ちゃんが居ても、あずにゃんが居てくれたから痛みは感じなかった。 高校を卒業して、あずにゃんと恋人として付き合うようになって… 私は、りっちゃんの事は思い出にして、あずにゃんとずっと一緒に生きて行くんだなと思っていた。 でも、私が人生と言う名のゲームの最終章を選ぼうとした時、突然別の世界のお話が目の前に現れた。 『澪も梓も潰れちまったか。私はまだまだ飲めるぞ!唯、家で三次会やろうぜ?」 みんなで集まってお酒を飲んだ帰り、りっちゃんに誘われた。 澪ちゃんとあずにゃんはムギちゃんが面倒を見てくれるとのことで、私は二つ返事でりっちゃんの部屋に向かった。 どれだけ飲んでもなんともない私と違って、りっちゃんはお酒が無くなる頃にはうっすら頬を上気させて上機嫌だった。 「良いよね?」 酔ったふりをしてりっちゃんを抱こうと思った 後になってこんな事を言っても言い訳にしかならないけど、りっちゃんが少しでも抵抗してくれたら冗談で済ませるつもりだったんだよ。 だけど、両腕を押さえつけたらりっちゃんはまったく抵抗してくれなかった。 自分を止める術をなくした私は…叶うはずのなかった欲望の全てをりっちゃんにぶつけた。 たった一度の私の愚行が運命を大きく狂わせた。 「唯先輩、昨日うなされてませんでした?」 「え、覚えてないけど…私うなされてた?」 一度りっちゃんを知ってしまった心は正直で、毎夜りっちゃんを夢の中で抱いた。 「覚えてないんですか。仕事で悩みでもあるのかと心配したんですよ?」 「そんなことないよ。順調に新人研修も終わりました」 大学生のあずにゃんと新社会人の私はすれ違うことが多くて、あずにゃんは私の異変には気が付かなかった。 私は。あずにゃんが忙しい日はりっちゃんのマンションに通うようになった。 どんなに仕事が大変でも、りっちゃんの顔を見た日はぐっすりと寝られて次の日も元気で出勤できた。 戸惑うりっちゃんを強引に押しきって、半同棲のような日々を過ごす内にあずにゃんの事を考えなくり… 毎日りっちゃんと一緒に居たいと思うようになった。 都合の良い毎日を過ごしていた私に天罰が下ったのは誕生日の日の夜の事。 「唯先輩、今日空いてますよね?私は夕方から空いてるんで待ち合わせして出かけましょうよ」 「あ、ごめん。今日仕事遅くなりそうなんだ…明日じゃダメかな?」 自分の誕生日を忘れる程バカじゃないけど、あえて忘れてるフリをしてあずにゃんの申し出を断った。特別な日は特別な人と過ごしたい。今日は誕生日なんだから、あの日みたいな事が起こるかもしれない。 何の根拠もないのに、私は舞い上がっていた。 『しばらく来るな!もし来たら引っ越すし、携帯も換えるからな!早く帰って梓に連絡しろ』 初めてりっちゃんに拒まれて、餌を貰う気満々の犬みたいだった私は、何度も何度もドアをノックしてりっちゃんの名前を呼び続けた。 抜け殻みたいに帰宅した私を迎えてくれたのはあずにゃんと憂で。 「お姉ちゃんお誕生日おめでとう。台所借りてるよ?」 「お仕事お疲れ様です。合鍵ってこういう時に使うためにありますよね!」 私を祝うために作られた普段より数段豪華な憂の料理は砂の味がした。 りっちゃんに迷惑をかけていたのに、自分の事ばっかり考えて有頂天になっていた自分が憎くて… 私はあずにゃんが眠ったのを確認してから涙を流した。 12月になって、辺りはクリスマスカラーに染まり始めたけど、私の目に映る景色は灰色でくすんでいた。 りっちゃんにメールを送ったけど返信は無くて、代わりにあずにゃんから 『最近唯先輩は変です。私と居る時もどこか上の空で…』 なんてメールが届いた。 もう、適当にあずにゃんの相手をして、以前のような関係を維持する気力は私に無かった。 「別れてほしいんだ」 クリスマスの夜、私はあずにゃんにそう告げた。 「……唯先輩、私ケーキ切りますね。上のチョコのやつ欲しいですよね?」 「あずにゃん、私の都合で悪いけど…別れよう」 一瞬だけ顔を歪めたあずにゃんにもう一度言う。 「悪い冗談はやめてくださいよ…突然なんなんですか唯先輩」 普段は甲高い声で私に不満を言うのに、あずにゃんの声は低くて小さかった。 「ずっと、あずにゃんのこと騙してた。あずにゃんの事は好きだったけど…ずっと一番じゃなかった」 「その…一番の人は誰なんですか!澪先輩?ムギ先輩なんですか?まさか…憂…」 「誰かなんてどうでもいいよ。とにかく、私達はもう終わり…」 最後まで言う前に、あずにゃんは果物ナイフを自らに向けて突き刺そうとした。 「離してください…私なんてどうなっても良いんでしょ!?」 「そうじゃないよ。ただ別れてほしいだけ、普通の先輩後輩に戻りたいだけだよ」 刃の部分を掴んであずにゃんから果物ナイフをとりあげると、鈍い痛みと共にじんわりと掌が温かくなってきた。 「もしもし、憂?悪いんだけど今から来てくれない?あずにゃんがちょっとね…たいしたことじゃないけど、私じゃどうにもできなくて…」 「嫌です…嫌です…」 「お姉ちゃん!梓ちゃんがどうしたの…」 「唯、梓と喧嘩でもしたのか?」 憂は慌てて駆けつけてくれたけど、途中で澪ちゃんまで連れてきたのには驚いた。 ―――他の人が好きだからあずにゃんと別れる――― 二人に素直に話したらいきなりビンタされて、憂にまで泣かれるし、澪ちゃんには訳のわからない恋愛論みたいなものを語られた。 私を散々に批判した後、憂と澪ちゃんはあずにゃんを連れて帰って行った。独りになった私が携帯を開いたら、クリスマスが終わるまで一時間をきっていた。 「りっちゃんに会いたい」 あずにゃんとの事が全て片が付いたとは言えないけれど、もう私の心の中にはそれだけしか無かった。 りっちゃんの住むマンションに向かいながら考える。もし、ゲームみたいに何度でも人生がやり直せるとしたら…私はどうするんだろうか? 同じことだよね。何度やり直したって、私は結局あずにゃんを傷つけて…沢山の大切な人達を裏切って…それでもりっちゃんが大好きで… きっとまたこの路を歩くことだろう。いや、自ら願ったっていい!私は何度でもこの路を歩きたい。りっちゃんが大好きだから。 ――――――――――― 「りっちゃん。このお鍋どうしようか?」 「台所は私が後でやるよ。唯は怪我してるんだから無茶しないでくれ」 年が明けてからすぐに、私とりっちゃんは住み慣れた町を離れた。 私は両親にこっぴどく叱られた上に出入り禁止なんて言われたけど、りっちゃんのお父さんとお母さんは私達の事を認めてくれた。 あずにゃんや憂、そして澪ちゃんには何も言わなかった。もう二度と会うつもりもないし、向こうも私の顔なんて見たくないだろうからちょうど良いのかもしれない。 でも、意外なことにムギちゃんからは連絡がきて… 『私、一度お昼のドラマみたいな恋愛の傍観者になってみたかったの!』 なんて言ってくれた。 知らない土地でゼロからのスタート きっと沢山りっちゃんに苦労をかけてしまうだろう… だから、私の全部をりっちゃんのためだけに使いきって――― この選択が間違いじゃなかったことを証明したいと思う。 end

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