SS60
スキ?
『好き』
特別な言葉じゃないと思うんだけど、私とりっちゃんの間でその言葉が使われることはない。
大人になんてならないって思ってたけど、気が付いたら私も22歳になっていた。
今の関係をどう説明すればいいのか解らないけど、多分私とりっちゃんは世間一般的に見れば恋仲というやつなのだろう。
いつも一緒に居るし、キスやそれ以上の事もする。興味本位で始めたら最後、私は戻れない所まで来てしまった。
りっちゃんはどうだろう?
りっちゃんにとっては、私との事なんて友達の延長線上での遊びにすぎないのだろうか?
ただ何となく気持ちを伝えてないし聞いてないんじゃなくて、それを知ってしまうのが怖かったから逃げていただけなのかもしれない。
『好き』
今さらだけど、りっちゃんはどんな反応をしてくれるんだろう?
『何言ってんだよ?何かあったのか?』
『やっと言ってくれたな。私も唯の事…』
頭の中で思いついたのは二通り。
私としては後者を選びたいけど、1パーセントも可能性がなさそうだ。
「好き…すき…スキ…」
「何言ってんだ唯?」
「えぇ…いや、なんでもないよ」
「ごまかすなよぉ。キスって言ってたんだろ?まぁ、平沢さんたらオサカンネ」
「………」
世の中のカップル達は何のためにパートナーに好きだと伝えるんだろ?
解らないよ。でもさ、私とりっちゃんの間にそれが無くてもね…世界中の誰にも負けないと思うんだ。
「そうだね。キスだけじゃ終わんないから…奥さんは大変だね?」
この人は誰にも渡さない。
そんな思いをこめて、りっちゃんの体を抱き寄せた。
end