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SS57すれ違う

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yuiritsu

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SS57

すれ違う



田井中律がいなくなってから一年と言う月日が流れた。


「憂、今日は帰らないから」

「うん。律さんによろしくね」

唯は妹の憂に見送られて家を出た。


一年と少し前、唯は律自身から心の準備をしろと告げられていた。

「ちゃんと年に1回は会いに来いよ。お供え物は私が食べるまで手ですなよ?」

「うん…」

冗談っぽく笑う律の傍らで、唯も少しだけ笑った。

律が明るくふるまうので、周りの人達も奇跡が起きるんじゃないか?なんて思うほど前向きで居られた。


『なぁ、唯。来年の夏は旅行しようぜ。お前どこ行きたい?やっぱ夏だから海かな』

律が旅立つ直前に交わされた約束。この約束が守られる事はない。。





「お姉ちゃん…一日くらい会社休んでも…」

律とお別れをしても唯は変わらなかった。

憂に起こされなくても定時に起きて会社に行き、夜になったら帰ってきて早目に眠る。

生活だけを見ればむしろ以前より良くなったのかもしれない。



「憂、明日は会社休むからご飯いらない」

「うん。そうだね」

律が亡くなってから一年になる前日、初めて唯が会社を休むと口にした。

憂は何も聞かなかった。無理して誤魔化せるほど姉と最愛の人との絆は細くないことを知っていたから…


「今年の夏は海に行くって約束してるから、明日行ってくることにするよ」

誰とは言わなかったが、唯の表情を見ればその相手が律の事だと理解できた。

「どこの海に行くの?」

「昔合宿で行ったムギちゃんの別荘があるところ」

「気を付けてね」


――――――――――――


「………」

高校生の時の事を思い出しながら電車に揺られる。

「見てりっちゃん。海だよ」

そこに律の姿はないけど、思い切り窓を開けて身を乗り出してみる。

『海だ―!!』

聞こえるはずの音が消えて、聞こえないはずの無い律の声がした。

唯は手に持っていた携帯電話を窓の外に投げ捨てる。

ゆっくりと視界から消えていく携帯は、誰かからの着信を知らせるために光り輝いていた。


――――ごめん、憂――――

「”もう”帰らないんだ」


『ほら、泳ぐぞ唯!早くしないと置いてくぞ』

唯は誘われるままに瞳を閉じて前に進んだ。



end

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