「澪「タンデム」2」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

澪「タンデム」2」(2011/06/02 (木) 00:51:41) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

「はぁ……。あーもう、変な体力使った」 「私も」 ひとしきり笑って、目尻の涙を拭う。 「そろそろ行こっか。もっと車も増えてくるし」 「そうだな」 「……気をつけて走るから」 「うん」 微笑んでみせて、タンデムシートに乗せていたヘルメットを再び手に取る。 律は残りのお茶を一気飲みすると、自販機横のゴミ箱にポイと放り投げた。 ---------- 夏には大勢の海水浴客で賑わいそうな砂浜沿いを走ったり、 地元住民しか知らないような細い路地に迷い込んで笑ったり。 途中のランチも含めてたっぷりと時間を掛けて移動して、 灯台のある海浜公園に着く頃には15時を少し回っていた。 「ふー、着いた着いた」 「お疲れ様」 「ん、」 公園の駐車場にスクーターを停めて、散策路をのんびり歩く。 こんもりと茂った樹木のずっと上に、白く光る灯台が見えた。 「おー、灯台」 「ほんとだ、灯台だ」 「灯台だぞ、みおー」 「うん」 「他に感想はないのかッ」 「えっ…………。し、白いな」 「なんだそれ」 「急に聞かれても困る! 律はどうなんだよ」 「えっ……。んと……、と、灯台もと暗し、みたいな?」 「……」 「せめて何か言ってよ澪しゃん……」 散策路が急な上り坂になったところで、ふたり並んで立ち止まる。 一度見上げて、顔を見合わせて、多分同じ事を考えているだろうなと確信する。 「……あっ、みおー、あっちの岩場が気持ちよさそうだぞー」 「そ、そうだなー!じゃあ灯台は下から眺めるだけにしとこうかー」 わざとらしく振り返った律に棒読みで応える。 何やってんだ私らと苦笑いした律に、まったくだ、と私も笑った。 駐車場の自販機で買ったペットボトルの蓋を捻って、一口飲む。 磯の香りが少し強い岩場に並んで腰掛けて、沖を緩やかに航行するタンカーを眺める。 「……なあ、澪」 「うん?」 「楽しかった?ツーリング」 沖のタンカーに視線を向けたまま、律が私に訊ねる。 「……正直最初はちょっと怖かったけど、バイクで走るって気持ちいいな」 「うん」 「律がバイクに乗りたいって思った気持ち、ちょっと分かった」 「……」 「ずるいよ律、もっと早く誘ってくれればよかったのに」 「えっ」 「え?」 ちょっとびっくりした様子でこちらを向いた律と視線がぶつかる。 少しの間が空いて、ああ、と律がなにやら納得した顔を見せた。 「二輪免許って、取ってから1年経つまで二人乗りしちゃいけないんだぞ?」 「え、そうなの?」 「やっぱり、知らなかったか」 「うん、知らなかった……そうなんだ」 まあ知らない人のほうが多いかもな、と律が笑う。 「でも、嬉しい」 「ん?」 「澪が楽しんでくれて」 そう言うと律は再び海上に視線を移して、ペットボトルを口元に寄せた。 こくり、と動く律の喉元を見つめる。 「ずっとひとりで走ってて、綺麗な風景とか美味しいものとか見つけて、」 「うん」 「そういうの全部、澪と一緒ならもっといいだろうなって、いつも思ってた」 「……」 「二輪免許取ったの、元々ツーリングしたかったとかそういうんじゃなくてさ」 律はそこでいったん口をつぐんで、次の言葉を探すように目を泳がせた。 頭のてっぺんで結んだ髪が、海風にあおられて揺れている。 「えっと……。雑誌か何かで読んだんだ」 「何を?」 「バイクで走るのは、恋愛に似てるって」 「……!」 全く予想外の言葉に、思わず目を見開いた。 律はちらりと私に視線を向けて、少しはにかんで言葉を続ける。 「私、恋愛経験なかったし……澪の気持ちにさ、どう応えていいか分からなくて」 「……」 「でも、ちゃんと考えなきゃって思って、それで」 「それで、バイク?」 律はこくんと頷いて、 今思うとなにやってんだろうって感じだけどな、と小さく笑った。 ---------- 『えっ……、え?』 『だから……。好きなんだ、律のこと』 『……』 『びっくりするよな……。ごめん』 『いや、謝らなくてもいいけど……。えっ、いつから?』 『えと……気がついたらもう、だから……ずっと前から』 『……』 『付き合って欲しいとかじゃなくて、あ、いや、付き合えるなら嬉しいけど、』 『……』 『……とにかく、言いたかったんだ。高校卒業する前にちゃんと』 『……そっか』 『……』 『……』 『……いきなりごめんな』 『謝んなって』 『……うん』 『……』 『……』 『……ちょっと、考える時間もらってもいい?』 『えっ』 『駄目か?』 『え、いや、駄目とかじゃなくて……、考えてくれるの?』 『当たり前だろ。澪が勇気出して気持ち伝えてくれたんだ』 『律……』 『ちゃんと考えるよ。だから、時間ちょうだい』 『……うん。ありがとう』 ---------- 「……もう、無かったことになったのかと思ってた」 「うん?」 「告白」 「なってないって。……まあ、すっごい待たせちゃったけどさ」 「大学入ってからもそんな素振り全然見せなかったし」 「ごめん」 「ううん、怒ってるとかじゃないよ。変わらず接してくれて嬉しかったし」 「……」 「だから、今まで通りっていうのが律の答えなんだって勝手に思ってた」 「……」 続ける言葉が見つからず、ふたりの間に沈黙が下りる。 これから律が何を言うのか、どんな答えをくれるのか。 思っている以上に緊張しているらしく、手にしたペットボトルすら動かせずにいる。 ずっと遠くのほうで、ぼう、と汽笛が響いた。 それを合図にしたかのように、律が再び口を開く。 「今日、澪を後ろに乗っけてさ」 「うん」 「同じ風景見たり、美味しいもの食べたり、一緒の時間共有して」 「うん」 「すごく楽しかった」 「うん……私も」 「でも、タンデムするってそれだけじゃなくて」 「……」 「一人で走るよりすごく緊張した。澪を怖い目にも遭わせちゃったし」 「あれは律のせいじゃ」 「うん、でも聞いて」 やんわりと私の言葉を遮った律に、素直に頷く。 「それで、その……。同性同士で付き合うってさ」 「……」 「異性と付き合うより、辛いこととか嫌な思いすることが沢山あるんだろうなって」 「……」 「あっ、別に、それを実感するために澪を誘ったわけじゃないぞ?」 「うん、わかってる」 「ん、それで……。ああ、どう言えばいいんだろ」 律がもどかしそうに頭を掻いて、結んだ髪が不規則に揺れる。 握りしめたペットボトルが、手の中でペコンと音を立てた。 「それで、それでもさ」 「……」 「澪がそばにいてくれて、私のことちゃんと見てくれてて、」 「……」 「ふたり一緒っていうのが、そういうのがやっぱり嬉しくて、すごく幸せで、」 「……」 「えっと……それでさ、」 「うん」 「もし、気持ちが今も変わってなかったら、だけど、」 澪、と改まった声で呼ばれて、視線を合わせる。 まっすぐ私を見つめる律は、何故だか今にも泣きそうな顔をしていた。 「澪」 「……はい」 「私と、付き合ってください」 「……」 「……」 「……」 「……あ、あれ、駄目?」 「…………る、わけ……ないだろ」 「え?」 「変わるわけ、ないだろ」 「……」 「何年好きだったと思ってるんだ、ばか」 ぱたぱたとこぼれた涙がジーンズにシミを作る。 ごめん、とやさしい声が耳に届いて、もういちど、ばか律、と返す。 「ええと、それで?」 「え?」 「お返事は? 澪しゃん」 「……あ、えっと……」 「うん」 鼻を啜って顔を上げ、しっかりと視線を合わせる。 「……よろしくお願いします」 涙のせいで潤んだ視界の中、愛しい人が満面の笑みを見せてくれた。 ---------- 「お土産、これでよかったのかな」 「美味しいし、いいんじゃない?」 「でもシュウマイって……。今日のコースと全然関係ないし」 「そういうの気にしないって、あいつら」 「まあ、そっか」 「ほんとはみんなにもマグロコロッケ食べさせたいけど」 「ん?」 「あれは、あの場所で揚げたて食べてこそだしな」 「うん、そうだな」 すっかり日が暮れた帰り道、何度目かの休憩に立ち寄った国道沿いのコンビニ。 排気ガスの混ざったぬるい風に乱された前髪を直す。 「律、疲れてない?」 「ん。ちょこちょこ休憩してるし、平気」 「無理しないでね」 「ありがと。……なあ、澪」 「うん?」 「しばらくはスクーターだけどさ、私、大学卒業するまでに車の免許取るから」 「……」 「そしたら、車でいろんな場所に行こうな」 「うん」 「その時は、みんなもマグロコロッケ食べに連れて行こう」 「じゃあ、全員で乗れる車にしないとな」 「あー。折角だから、全員の楽器を積めるのにするか」 でっかいやつ、と両手を広げてみせた律と顔を見合わせて笑いながら、 そんな未来も素敵だなと思う。 ……でも。 「でも、当分は、」 小さな声で呟いた私に、何?と律が顔を寄せる。 「当分の間は、律のスクーターでいろんな風景を見に行こう。……ふたりで」 言ってから、カアッと頬が熱くなった。 律も、今にも笑い出しそうな、でもちょっと泣きそうな顔をしている。 「……そうだな、じゃあ次はどこ行くか、帰るまでに決めちゃおっか」 な?と小首を傾げてみせた律に、うん、と頷く。 「あ、そうだ」 「うん?」 律は左袖を少し捲ると、手首に巻き付けていた大振りな腕時計を外した。 「これ、ツーリングの時は澪が着けといて」 「え?私?」 「うん」 手、出して、と言われて素直に差し出す。 律の腕時計を右の手首に巻かれながら、その意味を考えてみる。 口に出すとまた頬が赤くなってしまいそうだったので、言葉はそっと飲み込んだ。 「よし、と。んじゃ、帰りますか」 顔を上げてニカッと笑ってみせた律に頷いて、 安全運転でな、と私も微笑みを返した。 おしまい [[戻る>http://www43.atwiki.jp/moemoequn/pages/381.html]]
#AA(){{{ 「はぁ……。あーもう、変な体力使った」 「私も」 ひとしきり笑って、目尻の涙を拭う。 「そろそろ行こっか。もっと車も増えてくるし」 「そうだな」 「……気をつけて走るから」 「うん」 微笑んでみせて、タンデムシートに乗せていたヘルメットを再び手に取る。 律は残りのお茶を一気飲みすると、自販機横のゴミ箱にポイと放り投げた。 ---------- 夏には大勢の海水浴客で賑わいそうな砂浜沿いを走ったり、 地元住民しか知らないような細い路地に迷い込んで笑ったり。 途中のランチも含めてたっぷりと時間を掛けて移動して、 灯台のある海浜公園に着く頃には15時を少し回っていた。 「ふー、着いた着いた」 「お疲れ様」 「ん、」 公園の駐車場にスクーターを停めて、散策路をのんびり歩く。 こんもりと茂った樹木のずっと上に、白く光る灯台が見えた。 「おー、灯台」 「ほんとだ、灯台だ」 「灯台だぞ、みおー」 「うん」 「他に感想はないのかッ」 「えっ…………。し、白いな」 「なんだそれ」 「急に聞かれても困る! 律はどうなんだよ」 「えっ……。んと……、と、灯台もと暗し、みたいな?」 「……」 「せめて何か言ってよ澪しゃん……」 散策路が急な上り坂になったところで、ふたり並んで立ち止まる。 一度見上げて、顔を見合わせて、多分同じ事を考えているだろうなと確信する。 「……あっ、みおー、あっちの岩場が気持ちよさそうだぞー」 「そ、そうだなー!じゃあ灯台は下から眺めるだけにしとこうかー」 わざとらしく振り返った律に棒読みで応える。 何やってんだ私らと苦笑いした律に、まったくだ、と私も笑った。 駐車場の自販機で買ったペットボトルの蓋を捻って、一口飲む。 磯の香りが少し強い岩場に並んで腰掛けて、沖を緩やかに航行するタンカーを眺める。 「……なあ、澪」 「うん?」 「楽しかった?ツーリング」 沖のタンカーに視線を向けたまま、律が私に訊ねる。 「……正直最初はちょっと怖かったけど、バイクで走るって気持ちいいな」 「うん」 「律がバイクに乗りたいって思った気持ち、ちょっと分かった」 「……」 「ずるいよ律、もっと早く誘ってくれればよかったのに」 「えっ」 「え?」 ちょっとびっくりした様子でこちらを向いた律と視線がぶつかる。 少しの間が空いて、ああ、と律がなにやら納得した顔を見せた。 「二輪免許って、取ってから1年経つまで二人乗りしちゃいけないんだぞ?」 「え、そうなの?」 「やっぱり、知らなかったか」 「うん、知らなかった……そうなんだ」 まあ知らない人のほうが多いかもな、と律が笑う。 「でも、嬉しい」 「ん?」 「澪が楽しんでくれて」 そう言うと律は再び海上に視線を移して、ペットボトルを口元に寄せた。 こくり、と動く律の喉元を見つめる。 「ずっとひとりで走ってて、綺麗な風景とか美味しいものとか見つけて、」 「うん」 「そういうの全部、澪と一緒ならもっといいだろうなって、いつも思ってた」 「……」 「二輪免許取ったの、元々ツーリングしたかったとかそういうんじゃなくてさ」 律はそこでいったん口をつぐんで、次の言葉を探すように目を泳がせた。 頭のてっぺんで結んだ髪が、海風にあおられて揺れている。 「えっと……。雑誌か何かで読んだんだ」 「何を?」 「バイクで走るのは、恋愛に似てるって」 「……!」 全く予想外の言葉に、思わず目を見開いた。 律はちらりと私に視線を向けて、少しはにかんで言葉を続ける。 「私、恋愛経験なかったし……澪の気持ちにさ、どう応えていいか分からなくて」 「……」 「でも、ちゃんと考えなきゃって思って、それで」 「それで、バイク?」 律はこくんと頷いて、 今思うとなにやってんだろうって感じだけどな、と小さく笑った。 ---------- 『えっ……、え?』 『だから……。好きなんだ、律のこと』 『……』 『びっくりするよな……。ごめん』 『いや、謝らなくてもいいけど……。えっ、いつから?』 『えと……気がついたらもう、だから……ずっと前から』 『……』 『付き合って欲しいとかじゃなくて、あ、いや、付き合えるなら嬉しいけど、』 『……』 『……とにかく、言いたかったんだ。高校卒業する前にちゃんと』 『……そっか』 『……』 『……』 『……いきなりごめんな』 『謝んなって』 『……うん』 『……』 『……』 『……ちょっと、考える時間もらってもいい?』 『えっ』 『駄目か?』 『え、いや、駄目とかじゃなくて……、考えてくれるの?』 『当たり前だろ。澪が勇気出して気持ち伝えてくれたんだ』 『律……』 『ちゃんと考えるよ。だから、時間ちょうだい』 『……うん。ありがとう』 ---------- 「……もう、無かったことになったのかと思ってた」 「うん?」 「告白」 「なってないって。……まあ、すっごい待たせちゃったけどさ」 「大学入ってからもそんな素振り全然見せなかったし」 「ごめん」 「ううん、怒ってるとかじゃないよ。変わらず接してくれて嬉しかったし」 「……」 「だから、今まで通りっていうのが律の答えなんだって勝手に思ってた」 「……」 続ける言葉が見つからず、ふたりの間に沈黙が下りる。 これから律が何を言うのか、どんな答えをくれるのか。 思っている以上に緊張しているらしく、手にしたペットボトルすら動かせずにいる。 ずっと遠くのほうで、ぼう、と汽笛が響いた。 それを合図にしたかのように、律が再び口を開く。 「今日、澪を後ろに乗っけてさ」 「うん」 「同じ風景見たり、美味しいもの食べたり、一緒の時間共有して」 「うん」 「すごく楽しかった」 「うん……私も」 「でも、タンデムするってそれだけじゃなくて」 「……」 「一人で走るよりすごく緊張した。澪を怖い目にも遭わせちゃったし」 「あれは律のせいじゃ」 「うん、でも聞いて」 やんわりと私の言葉を遮った律に、素直に頷く。 「それで、その……。同性同士で付き合うってさ」 「……」 「異性と付き合うより、辛いこととか嫌な思いすることが沢山あるんだろうなって」 「……」 「あっ、別に、それを実感するために澪を誘ったわけじゃないぞ?」 「うん、わかってる」 「ん、それで……。ああ、どう言えばいいんだろ」 律がもどかしそうに頭を掻いて、結んだ髪が不規則に揺れる。 握りしめたペットボトルが、手の中でペコンと音を立てた。 「それで、それでもさ」 「……」 「澪がそばにいてくれて、私のことちゃんと見てくれてて、」 「……」 「ふたり一緒っていうのが、そういうのがやっぱり嬉しくて、すごく幸せで、」 「……」 「えっと……それでさ、」 「うん」 「もし、気持ちが今も変わってなかったら、だけど、」 澪、と改まった声で呼ばれて、視線を合わせる。 まっすぐ私を見つめる律は、何故だか今にも泣きそうな顔をしていた。 「澪」 「……はい」 「私と、付き合ってください」 「……」 「……」 「……」 「……あ、あれ、駄目?」 「…………る、わけ……ないだろ」 「え?」 「変わるわけ、ないだろ」 「……」 「何年好きだったと思ってるんだ、ばか」 ぱたぱたとこぼれた涙がジーンズにシミを作る。 ごめん、とやさしい声が耳に届いて、もういちど、ばか律、と返す。 「ええと、それで?」 「え?」 「お返事は? 澪しゃん」 「……あ、えっと……」 「うん」 鼻を啜って顔を上げ、しっかりと視線を合わせる。 「……よろしくお願いします」 涙のせいで潤んだ視界の中、愛しい人が満面の笑みを見せてくれた。 ---------- 「お土産、これでよかったのかな」 「美味しいし、いいんじゃない?」 「でもシュウマイって……。今日のコースと全然関係ないし」 「そういうの気にしないって、あいつら」 「まあ、そっか」 「ほんとはみんなにもマグロコロッケ食べさせたいけど」 「ん?」 「あれは、あの場所で揚げたて食べてこそだしな」 「うん、そうだな」 すっかり日が暮れた帰り道、何度目かの休憩に立ち寄った国道沿いのコンビニ。 排気ガスの混ざったぬるい風に乱された前髪を直す。 「律、疲れてない?」 「ん。ちょこちょこ休憩してるし、平気」 「無理しないでね」 「ありがと。……なあ、澪」 「うん?」 「しばらくはスクーターだけどさ、私、大学卒業するまでに車の免許取るから」 「……」 「そしたら、車でいろんな場所に行こうな」 「うん」 「その時は、みんなもマグロコロッケ食べに連れて行こう」 「じゃあ、全員で乗れる車にしないとな」 「あー。折角だから、全員の楽器を積めるのにするか」 でっかいやつ、と両手を広げてみせた律と顔を見合わせて笑いながら、 そんな未来も素敵だなと思う。 ……でも。 「でも、当分は、」 小さな声で呟いた私に、何?と律が顔を寄せる。 「当分の間は、律のスクーターでいろんな風景を見に行こう。……ふたりで」 言ってから、カアッと頬が熱くなった。 律も、今にも笑い出しそうな、でもちょっと泣きそうな顔をしている。 「……そうだな、じゃあ次はどこ行くか、帰るまでに決めちゃおっか」 な?と小首を傾げてみせた律に、うん、と頷く。 「あ、そうだ」 「うん?」 律は左袖を少し捲ると、手首に巻き付けていた大振りな腕時計を外した。 「これ、ツーリングの時は澪が着けといて」 「え?私?」 「うん」 手、出して、と言われて素直に差し出す。 律の腕時計を右の手首に巻かれながら、その意味を考えてみる。 口に出すとまた頬が赤くなってしまいそうだったので、言葉はそっと飲み込んだ。 「よし、と。んじゃ、帰りますか」 顔を上げてニカッと笑ってみせた律に頷いて、 安全運転でな、と私も微笑みを返した。 おしまい}}} [[戻る>http://www43.atwiki.jp/moemoequn/pages/381.html]]

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
記事メニュー
目安箱バナー