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SS10唯「ねえりっちゃん、私たちって似てると思わない?」

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yuiritsu

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SS10


唯「ねえりっちゃん、私たちって似てると思わない?」

律「はあ?」

二人で街をぶらぶらしてると、唯が突然こんなことを言い出した。
相変わらず脈絡のない奴だ・・・。

唯「だってね、二人ともお姉ちゃんだし」

確かに二人とも下に兄弟がいる。いる・・・が。

律「私は唯ほど弟に依存はしてないぞ」

唯「んなっ!?」

ひどいよりっちゃーん、とか言いながらポカポカ叩いてくる。
ああもう、なんで仕草がいちいち可愛いんだろうなこいつは!

      • いつからだろう、唯のことをこんなに意識するようになったのは?
視線が合う度。言葉を交わす度。肌を触れ合わせる度。
気持ちがまるで雪のように積み重なっていって、押し潰されてしまいそうになる。

友達として「好き」になったのは、恐らく唯が入部してくれたあの日だろう。
第一印象はダメダメだったけど、ほんの少し話をしただけで分かった。こいつとは仲良くなれる、と。

果たして予感は的中し、何カ月もしないうちに私と唯は親友と呼べるほどの仲になった。
唯と二人でいるのが当たり前になった。唯と一緒なら何をしていても楽しいし、飽きることもない。
二人で廊下ではしゃいでは和に注意され、また部活をサボって街に繰り出しては二人で澪に怒られた。
笑い、泣き、怒り。
まるで万華鏡のようにコロコロと変わる彼女の表情は、私を強く惹き付け、少しずつ心のアルバムを埋め尽くしていった。

そんな「当たり前」を繰り返すうち、いつしかそれは「特別」に変わっていった。
唯ともっとずっと一緒にいたい。卒業しても離れたくない。唯の一番近くにいたい。
それはもう、ただ「好き」という言葉では表すに足りない気持ちだった。
そう、私は唯を「愛」している・・・。

律「悪かったよ・・・。で、似てるのがどうしたって?」

思わず抱きしめてしまいそうになるのを堪えつつ、努めて平静に問いを返す。
唯のことだ、深い考えがあって言ったわけじゃないんだろうけども。

唯「ううん、ただ似てるなぁって思っただけだよ?」

無邪気な顔で首を傾げてそんなことを言う。
ほらやっぱり、と思うと同時、その無垢な顔がまた私の胸の奥をざわつかせる。
いっそ打ち明けてしまえば、この苦しみから解放されるだろうに。
皮肉にも、親友という今の立場が、それを失う恐怖を伴って私を何重にも縛りつけていた。

唯「だってね、ほら」

律「っ!?」

唯「こんなにそっくり・・・ッ?」

私たちのトレードマークであるヘアピンとカチューシャを共に外す唯。
そこにいたのは、唯であって唯ではない唯。
そして、私であって私ではない私。
知らない国へ紛れ込んでしまった異邦人が、そこには二人。

唯「あ、あんまり似てないね・・・あはは」

唯が何か言っているが、耳に入ってこない。
そんなことより前髪が気になって落ち着かない。
      • 気になるのは自分の前髪?それとも―

律「・・・おかしーし」

その先を考えるより早く、以前髪をいじった時にも出た言葉を言う。
さっさとこの話題を終わらせていつもの私たちに戻りたい、その思いが口を動かしたのだろうか。
とりあえずカチューシャを回収すべく手を伸ばす、が。

唯「だ、駄目だよりっちゃん!だってこんなに似合っててかっこいいのに・・・」

ひょい、と唯が手の届かないところへ隠してしまう。
      • あれ?唯?今いる唯は確かに唯だけど。でもやっぱりいつもの唯とは違って。
なんだろうこれ、いつにも増して胸がドキドキする。

律「唯も・・・よく、似合ってて可愛いよ」

無意識にそんな言葉が口を突いて出た。
何故か、言わなければならない気がしたんだ。

唯「~~~!!」

唯が真っ赤になって俯いてしまう。
しまったと思ったが時既に遅く、自分の不用意な口を呪った。
が。

唯「・・・ずるいよ」

律「なに?」

唯「りっちゃんはずるい。だって私はこんなにドキドキしてるのに、りっちゃんは平気そうなんだもん」

唯が言ってることがわからない。ドキドキって?私が平気?
ははっ、馬鹿なことを言うんじゃない。だって私はこんなに・・・

律「平気なわけないだろ・・・」

唯「へっ?」

律「いつもでさえドキドキしてたのに、こんな雰囲気の違う唯を見てドキドキしないわけないだろ!」

言った。言ってしまった。
秘めておくつもりだったのに、勢いに任せて言ってしまった。
唯がこんなに可愛い・・・いや、綺麗なのがいけないんだ。
ここまできたらもういっそ最後まで言ってしまおう。

唯「嘘・・・!」

律「嘘なもんか!私はいつだって唯の側ではドキドキしっぱなしだったんだぞ」

律「私な、唯のこと好きだったんだ。友達としてじゃなく、一人の女の子として」

律「唯を愛してしまったんだよ!だから、こんな普段と違う顔見たらドキドキするに決まってるだろ!」

半ばやけくそで告白をした。
我ながら格好悪いと思うが、もはや止まらなかった。
ダムが決壊するように、貯めてきた思いがどんどん流れてゆく。

律「いつだってそうだ。唯が隣にいるだけで楽しかったし、幸せだった」

律「まるで今まで欠けてた私のピースがはまったような気がしたんだ」

律「でも・・・」

唯「りっちゃん・・・?」

そして、水が流れ切った後に残るのは。

律「・・・ごめんな、女同士で好きとかありえないよな。」

律「じゃあな、唯・・・今までありがとう」

唯に背を向け歩き出す。これでよかったんだ。
唯とずっと親友のままでいても、苦しいだけだっただろうから。
こうして白黒つけちまえば、あとは時間が勝手に解決してくれる・・・

唯「待ってよりっちゃん!」

      • はずなのに。なんでこいつは背中にしがみつくんだ?
このまま立ち去らせてほしい、私のちっぽけなプライドのために。
泣きそうなの我慢してるんだからな?

律「・・・なんだよ」

唯「どうして行っちゃうの?私まだなんにも話してない!」

律「だって・・・唯は私のことどう思ってるんだ?」

唯「好きだよ!」

律「そうだ好き・・・え?」

唯「だから、私もりっちゃんが好きなの!愛してるのッ!」

時間が止まった気がした。
まさか。そんなはずが。

律「愛・・・って待て。私たち同性だぞ?」

唯「りっちゃんが先に言ったんじゃん・・・」

律「う・・・確かに・・・」

唯「でも、同性とか関係ないよ。私はりっちゃんだから好きになったんだもん」

律「唯・・・」

唯「もっかい言うね」

唯「私は、いつでも明るくて、ちょっぴりだらしないけど結構頼りになる」

唯「そんなりっちゃんという女の子が、大好きです!」

律「唯!」

思わず唯を思いっきり抱きしめた。
まさか思いが通じるなんて。これは夢じゃないよな?

唯「ちょ、苦しいよりっちゃん・・・」

律「ああ、悪い悪い。ついな」

唯「ぷっ」

律「くくくっ」

唐突にほんの少し前のノリに戻ったことに気づいた私たちは、二人しばらく笑い続けていた。
ひとしきり笑い終えると、肩を寄せ合って。

律「絶対叶うはずがない、って思ってた」

唯「それは私もだよ~」

律「まさか両思いだったなんてな・・・」

唯「りっちゃんたらニブいんだから・・・」

律「それはお前も同じだろっ!」

唯「いや~、りっちゃんだよ」

律「どうして」

唯「だってりっちゃん、さっき私が『ドキドキする』って言ったのに気づかないんだもん」

律「は・・・?」

言われてみれば、私は平気だっていう部分に反応して告白したわけだが、その前にそんなことを言ってたような気もする。

律「あー・・・実はテンパっててそれどころじゃなかったんだよ」

唯「?」

律「だってほら・・・髪髪」

唯「???」

律「髪下ろした唯が、その・・・凄く綺麗だったから///」

唯「そ、そうなの!?」

律「あ、ああ・・・」

唯「あ、ありがと・・・りっちゃんも、凄く・・・かっこいいよ」

律「ありがとう・・・」

律「・・・っていうかこの会話さっきもしたよな?」

唯「そ、そうだっけ・・・」

律「・・・やっぱ唯がニブいで決定」

唯「そんなぁ~!」

やっぱり私たちには恋人らしい会話は似合わないなぁ・・・と思う。
こういうバカなことやってる方が楽しいんだもんな。
でも、これだけはきっちり言っておく必要があるんだろうと思う。

律「なあ唯」

唯「ん~?なぁにりっちゃん」

律「やっぱり一旦お別れしよう、唯」

唯「えっ、どうして・・・」

律「まあ聞け」

律「友達としての私たちにお別れだ。そして」

律「これからは恋人として、改めてよろしく、だ」

唯「・・・・・うん!」

満面の笑顔で抱きついてくる唯。
決して離さないよう、強く強く抱きしめた―

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