「トラーギッシュ」(2012/02/21 (火) 00:33:18) の最新版変更点
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*トラーギッシュ ◆1yqnHVqBO6
――命を奪えば。人は何かを永遠に喪う。
少なくとも。彼女は確実に喪うだろう。
音。響き、雪の大海原が波打つ。
だが波は水のように元に静まることはなく
天高く舞い上がり陽の光に照らされる。
楽士である金糸雀。
音を操る彼女の最も強大なアドバンテージは
最低速度の高さだろう。
音を使う以上。
それは人間の反応可能な速度を
軽々と飛び越える。
そして金糸雀は音を練り、
形を変えることができる。
ときには波の形。
ときには弾の形。
果てには槍にも。
彼不可視の攻撃は
浅倉威をたしかに惑わせていた。
仮面ライダーナイトの
ミラーモンスターも音を攻撃に使うが
それは獣が牙を剥き、獲物に突き立てる粗雑さに留まるもの。
全くの未知の力を振るう相手。
だが、浅倉威は怯まない。
後退の意志の片鱗すらなく。
蛇のしなやかさは
毒蛇の戦士にも存在するのか。
予測不可能な動きで
金糸雀の音を避け。
足跡が白銀に
蛇の這った跡のような蛇行となり。
走る浅倉威が接近し、剣を振るう。薙ぎ払う。
上体が地面に接しそうなほど
前へ傾いているのに
不安定な体勢から放たれた斬撃は
正確に金糸雀の胴体へと進む。
だが、斬撃は金糸雀のすぐ下を通り過ぎ。
バイオリンを傘へと変えた金糸雀は空へと逃げる。
眩い空の光が金糸雀の黄を基調とした服と混じり
砂粒に落ちた砂金のような印象を与える。
そこに飛来する長方形の物体。
ローゼンメイデンが眠りにつく鞄が
金糸雀の足場となる。
それは同時に光に浮かぶ点として
浅倉からも見分けることが容易になったことを表すが。
金糸雀は間を置かず、傘をバイオリンに戻し。
浅倉の立つ雪原を音の塊で絨毯爆撃する。
巻き上げられた雪の結晶が細かく舞い散り。
金糸雀の周囲を翼のように彩る。
銀。銀。銀。陽に煌く雪の結晶粒。
金糸雀は平清が遠くに逃れたか確かめようと首を動かし。
視界に彼を収めると心に束の間の安堵が訪れる。
死なせたくは、ない。
人の命は、重い。
雛苺の死も。水銀燈の死も。
彼女の心には重く響いた。
覚悟を決めたとしても。
それが宿命でも。
死に涙を流すことを
とめるのはできなかった。
だから、力の限り――
無意識下の思考。
彼女の攻撃を休めるには至らない
小さな決意。彼女自身、自覚しないほどの。
高低差を利用した攻撃は
周囲一帯の雪を丸ごと削らんばかりに。
白銀の霧と金の日光が溶け合う中、
空気をつんざく音をたてて
赤い剣が彼女へと放たれた。
剣。それはそんな大仰なものではない。
赤。それは一色のみではなく、濁りの末の。
赤錆のスコップが
金糸雀を足元から貫かんと襲いかかる!
「あっ……」
咄嗟に体を捻り。
鞄を貫き、生えたスコップの刃は躱した。
けれども、鞄はもはやかつての飛行機能を失った。
唸り声が、下方から聞こえ。
銀も、金も意に介さぬ紫の戦士が
天高く飛び上がった。
その脚力は人外。
しかし、音速の攻撃の嵐のなか。
巧みに狙いを定めて放ち、
見事当てた力量は人だからこそ。
人外の身体能力と
本能に基づいた戦闘スタイル。
狂気の中に人の知性が在ったことを見抜けなかった
金糸雀は罅走り壊れていく鞄とともに落ちていく。
悲鳴を上げそうになるのを危うい所で堪え。
天地が逆さまになった視界に浅倉威が。
仮面ライダー王蛇が。
空に浮かんだスコップを握りしめ、
体を真後ろにまで捻ると
鞄の破片を雨アラレと打つ。
蒼空の中、銀を頭上に、
地中から金色を背にした紫が弾丸を乱射する。
シュールな表現にもなりそうな状況。
傘で空を飛ぶにも時間がない。
音で迎撃すれば着地の衝撃が
金糸雀の意識を奪いかねない。
「金糸雀!」
絶望が素早く金糸雀の心を握りつぶす前に
上から、地上からかけられた声。
顔を上げなくても、空を仰ぐように地上を見なくても
声の主がどこにいるかは瞬時にわかった。
手に握られたレーダーを使わずとも、わかった。
飛来するかつての寝床の欠片を
震える大気を音で包み、盾にして防ぐ。
自由落下に任せ空から遠ざかる
金糸雀への追撃。
更に飛来するは
細い筒の先に鋭い針が付けられたダーツ。
銀線、幾筋も金糸雀へと吸い込まれる。
「それくらい!」
だが、その程度で金糸雀を殺すことはできない。
空気を斬り裂く。
だが、そこから音が産まれる限り。
楽士に届くことはない!
「無駄かしら」
一つ。
二つ。
更に、更に。
ダーツは楽士を狙う。
金糸雀の肩にあるバイオリンが奏でる
音が、貫く針を払い落とす。
落下。落下。
そして、地面にあたる前に、
太くて大きな腕が金糸雀を受け止める。
体ごと、すべてをもって支えるように!
「ようやく役にたてたな」
「役立たずだなんて一度も思ってないかしら」
すぐ傍でニカリと虚勢とともに笑った平に
金糸雀は優しく答えた。
その二人に渦巻く突風が襲いかかった。
銀雪が空気ともに、一点へと吸い込まれていく。
それは、もはや大蛇の捕食ではなく。
どの動物にも分類されない、
暴食、悪食が行うものだった。
金糸雀達の遥か前方。
しかし圧力は、遠近法を軽く踏み越え
目の前にいるような錯覚を与えた。
合成獣。
もはや元が何であるのか見当もつかない化物が
頂点に差しかかろうとする太陽の下、そびえ立つ。
「離れないで。平」
平の腕から音もなく降り立つと。
力強く。勇気づけるように金糸雀は言った。
「守るから」
ブラックホールがあらゆるものを吸い込む。
生命以外の、すべてを。
音が、世界を騒がしくして。
事態の把握を妨げる。
けれど。
――水銀燈。
瞳を閉じて思い浮かべるのは死した姉の姿。
――意地悪でいいから。
また会うことができたら好きなだけ意地悪していいから。
バイオリンを構え直し。
すべての力をもって、耳に意識を集中する。
――力を貸して。
浅倉威、大蛇の男、仮面ライダー王蛇。
彼が化物へと吸い込まれ。
そのまま大口に呑まれるかと、思う前に。
射出。
迅速に、銀の中、紫影が弾丸をも超えた威力、
空気が唸る大砲の如き威力で金糸雀へと襲いかかる。
その速度に反応するのは困難。
敢なくこの技の前に倒れた者は
浅倉の狂気に喰われるのが運命。
しかし、足りない。
速さが。空気歪め、穿つには、足りない。
壁は1秒。いいや、もしくは2秒か。
「今まで、何度も部屋の中を片付けてあげたんだから」
聞いている。
聴いている。
「恥ずかしい秘密もぜんぶみんなに黙ってきたんだから」
楽士の本領を余すことなく発揮した金糸雀は応える!
「少しくらい……妹に協力しなさい!」
浅倉威の両脚が、蛇の顎のように上下に開かれ。
貫き、砕く蹴撃が――
「これで、終劇!」
瞳を開き、浅倉威のすべてを視界に収める。
今から殺すだろう男の姿を、確かにこの眼で見る。
「追憶の――――――――――カノンッ!!」
弦が切れんばかりの大音量。
それを、一つに収束し、
槍のように貫く。
一本。
だがそれは槍衾も敵わない強靭な鋭さ。
全力が一瞬だけ拮抗し。
浅倉威の、ベルトが、砕け散った。
それと同時に衝突からの解放により吹き飛ばされて。
雪原を転がり回った金糸雀は、確かな満足感に包まれて。
瞼の裏に浮かぶ小生意気な彼女に胸を張りたい気持ちでいっぱいになり。
そのまま、意識を手放す――
のを、浅倉威を囲む
三体のモンスターの出現を目にしたことで阻まれた。
大の字で横たわる浅倉威を、
モンスターが見下ろす。
モンスターが咆哮する。
「が。がああああああ!!」
憤怒に顔を悪鬼にして唸る浅倉威。
だが、どうしようもない事態が
今確かに彼を飲み込まんとしており。
化け物たちは待望の時だと歓喜した。
一本一本を丁寧に味わう心は微塵も感じられず。
腕を喰らう。脚を喰らう。腹を喰らう。
飛び散る血液が湯気をたてて銀雪を汚し。
一体のモンスターがくわえた腸から、
なぜか人肉らしき肌色が覗いていた。
「え……?」
理由もわからず眼前に繰り広げられる惨劇。
金糸雀は必死に意識を再覚醒しようと頭を振った。
だが、現実は刻一刻と迫り。
絶叫する浅倉威の声はとうに止み。
三体のモンスターが金糸雀に狙いをつける。
浅倉威を破ったのならばさぞかし美味かろうと思ってか。
金糸雀を喰おうと動き出した。
もう、逃げ場はない。
力はすべて使い果たして。
指先一本動くこともなく。
「逃げるかしら。変平」
せめて守れたことは誇りにしようと。
恐怖に震える心に必死で終わりを納得させて。
平がぎこちなく足を動かす音を耳に、
金糸雀は目を閉じた。
だが時は来ない。
来たのは柔らかい
何かがぶつかる感触と
ささやかな浮遊感。
目を開くと映るのは
金糸雀の目の前で立つ平の姿。
「なに、してるのかしら……?」
もう、間に合わない。
金糸雀を狙ったモンスターは邪魔する
平清を平らげるために囲み。こぞって齧る。
噛み砕く。平清の全身を。
「どう、して…………」
絶望に、また一人の死に。
金糸雀の心が静かに、落ちていき。
平の手に握られたBIM全てが。
モンスターに喰われ、
衝撃を受けたことで作動し、爆発した。
モンスターの首から上が
爆発により呆気無く四散する。
「平…………」
平が何をしようとしたのか。
朦朧とした意識の中、悟り。
悟ったからこそ。
なにをすべきかわからなくなる。
なにを、考えればいいのかすら。
残骸となったモンスターの
骸の中央に散らばる肉片。
金糸雀の眼に強烈に映り。
奇跡的に無事だった頭部が。
辛うじて無事といえる顔が。
金糸雀の眼に映った。
眼を逸らすことも、できたはずなのに。
なにかを、期待して。
見極めようと眼を凝らしてしまって。
金糸雀は見てしまった。
恐怖と、諦観をないまぜにして、
壊れてしまった平清の顔を。
「あ、ひ……ぃぁ……」
金糸雀は顔に手をやる。
何かから逃げるように。
手が、爪をたてて掻きむしるように顔を覆い。
「あああああああ!」
逃れるように、大切な人の名前を呼んだ。
「みっちゃあああああん!」
恐慌する幼子が母に助けを求めるが如く。
「みっちゃあああああん!」
くしゃくしゃになり、涙をいくら零そうと。
水に溶けゆく銀雪しかそこにはなく。
少女を金色に照らす太陽は時を待つ。
どれだけ、いくら呼んでも。
金糸雀が愛するマスターはここにはいない。
彼女の強さを信じてくれたマスターはいない。
彼女に愛を注いだマスターはこの空の下には、いない。
銀色の雪は赤い血と原色の濁りに汚されてしまった。
――親しき者の死。引き起こすのもまた、
命を奪った時と同じく自己の喪失。
それが嫌ならば、闘う以外に道は――
&color(red){【浅倉威@仮面ライダー龍騎 死亡確認】}
&color(red){【平清@BTOOOM! 死亡確認】}
&color(red){【残り 22名】}
【A-1/1日目/昼】
【金糸雀@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(中)
[装備]:金糸雀のバイオリン@ローゼンメイデン、レーダーのレプリカ@BTOOOM!
川田章吾のバードコール@バトルロワイアル
[道具]:基本支給品、
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームの破壊 ?
1:???
[備考]
※支給品であるファウードの回復液@金色のガッシュは既に飲み干されました。
※基本支給品×3、レーダーのレプリカ@BTOOOM! 首輪(霞刑部)、
不明支給品2~3が放置されています。
|[[歩くような速さで]]|投下順|[[第二放送]]|
|[[弔いのボサ・ノバ]]|時系列順|[[第二放送]]|
|[[トラーギッシュ]]|浅倉威|&color(red){GAME OVER}|
|~|金糸雀|[[]]|
|~|平清|&color(red){GAME OVER}|
----
*トラーギッシュ ◆1yqnHVqBO6
――命を奪えば。人は何かを永遠に喪う。
少なくとも。彼女は確実に喪うだろう。
音。響き、雪の大海原が波打つ。
だが波は水のように元に静まることはなく
天高く舞い上がり陽の光に照らされる。
楽士である金糸雀。
音を操る彼女の最も強大なアドバンテージは
最低速度の高さだろう。
音を使う以上。
それは人間の反応可能な速度を
軽々と飛び越える。
そして金糸雀は音を練り、
形を変えることができる。
ときには波の形。
ときには弾の形。
果てには槍にも。
彼不可視の攻撃は
浅倉威をたしかに惑わせていた。
仮面ライダーナイトの
ミラーモンスターも音を攻撃に使うが
それは獣が牙を剥き、獲物に突き立てる粗雑さに留まるもの。
全くの未知の力を振るう相手。
だが、浅倉威は怯まない。
後退の意志の片鱗すらなく。
蛇のしなやかさは
毒蛇の戦士にも存在するのか。
予測不可能な動きで
金糸雀の音を避け。
足跡が白銀に
蛇の這った跡のような蛇行となり。
走る浅倉威が接近し、剣を振るう。薙ぎ払う。
上体が地面に接しそうなほど
前へ傾いているのに
不安定な体勢から放たれた斬撃は
正確に金糸雀の胴体へと進む。
だが、斬撃は金糸雀のすぐ下を通り過ぎ。
バイオリンを傘へと変えた金糸雀は空へと逃げる。
眩い空の光が金糸雀の黄を基調とした服と混じり
砂粒に落ちた砂金のような印象を与える。
そこに飛来する長方形の物体。
ローゼンメイデンが眠りにつく鞄が
金糸雀の足場となる。
それは同時に光に浮かぶ点として
浅倉からも見分けることが容易になったことを表すが。
金糸雀は間を置かず、傘をバイオリンに戻し。
浅倉の立つ雪原を音の塊で絨毯爆撃する。
巻き上げられた雪の結晶が細かく舞い散り。
金糸雀の周囲を翼のように彩る。
銀。銀。銀。陽に煌く雪の結晶粒。
金糸雀は平清が遠くに逃れたか確かめようと首を動かし。
視界に彼を収めると心に束の間の安堵が訪れる。
死なせたくは、ない。
人の命は、重い。
雛苺の死も。水銀燈の死も。
彼女の心には重く響いた。
覚悟を決めたとしても。
それが宿命でも。
死に涙を流すことを
とめるのはできなかった。
だから、力の限り――
無意識下の思考。
彼女の攻撃を休めるには至らない
小さな決意。彼女自身、自覚しないほどの。
高低差を利用した攻撃は
周囲一帯の雪を丸ごと削らんばかりに。
白銀の霧と金の日光が溶け合う中、
空気をつんざく音をたてて
赤い剣が彼女へと放たれた。
剣。それはそんな大仰なものではない。
赤。それは一色のみではなく、濁りの末の。
赤錆のスコップが
金糸雀を足元から貫かんと襲いかかる!
「あっ……」
咄嗟に体を捻り。
鞄を貫き、生えたスコップの刃は躱した。
けれども、鞄はもはやかつての飛行機能を失った。
唸り声が、下方から聞こえ。
銀も、金も意に介さぬ紫の戦士が
天高く飛び上がった。
その脚力は人外。
しかし、音速の攻撃の嵐のなか。
巧みに狙いを定めて放ち、
見事当てた力量は人だからこそ。
人外の身体能力と
本能に基づいた戦闘スタイル。
狂気の中に人の知性が在ったことを見抜けなかった
金糸雀は罅走り壊れていく鞄とともに落ちていく。
悲鳴を上げそうになるのを危うい所で堪え。
天地が逆さまになった視界に浅倉威が。
仮面ライダー王蛇が。
空に浮かんだスコップを握りしめ、
体を真後ろにまで捻ると
鞄の破片を雨アラレと打つ。
蒼空の中、銀を頭上に、
地中から金色を背にした紫が弾丸を乱射する。
シュールな表現にもなりそうな状況。
傘で空を飛ぶにも時間がない。
音で迎撃すれば着地の衝撃が
金糸雀の意識を奪いかねない。
「金糸雀!」
絶望が素早く金糸雀の心を握りつぶす前に
上から、地上からかけられた声。
顔を上げなくても、空を仰ぐように地上を見なくても
声の主がどこにいるかは瞬時にわかった。
手に握られたレーダーを使わずとも、わかった。
飛来するかつての寝床の欠片を
震える大気を音で包み、盾にして防ぐ。
自由落下に任せ空から遠ざかる
金糸雀への追撃。
更に飛来するは
細い筒の先に鋭い針が付けられたダーツ。
銀線、幾筋も金糸雀へと吸い込まれる。
「それくらい!」
だが、その程度で金糸雀を殺すことはできない。
空気を斬り裂く。
だが、そこから音が産まれる限り。
楽士に届くことはない!
「無駄かしら」
一つ。
二つ。
更に、更に。
ダーツは楽士を狙う。
金糸雀の肩にあるバイオリンが奏でる
音が、貫く針を払い落とす。
落下。落下。
そして、地面にあたる前に、
太くて大きな腕が金糸雀を受け止める。
体ごと、すべてをもって支えるように!
「ようやく役にたてたな」
「役立たずだなんて一度も思ってないかしら」
すぐ傍でニカリと虚勢とともに笑った平に
金糸雀は優しく答えた。
その二人に渦巻く突風が襲いかかった。
銀雪が空気ともに、一点へと吸い込まれていく。
それは、もはや大蛇の捕食ではなく。
どの動物にも分類されない、
暴食、悪食が行うものだった。
金糸雀達の遥か前方。
しかし圧力は、遠近法を軽く踏み越え
目の前にいるような錯覚を与えた。
合成獣。
もはや元が何であるのか見当もつかない化物が
頂点に差しかかろうとする太陽の下、そびえ立つ。
「離れないで。平」
平の腕から音もなく降り立つと。
力強く。勇気づけるように金糸雀は言った。
「守るから」
ブラックホールがあらゆるものを吸い込む。
生命以外の、すべてを。
音が、世界を騒がしくして。
事態の把握を妨げる。
けれど。
――水銀燈。
瞳を閉じて思い浮かべるのは死した姉の姿。
――意地悪でいいから。
また会うことができたら好きなだけ意地悪していいから。
バイオリンを構え直し。
すべての力をもって、耳に意識を集中する。
――力を貸して。
浅倉威、大蛇の男、仮面ライダー王蛇。
彼が化物へと吸い込まれ。
そのまま大口に呑まれるかと、思う前に。
射出。
迅速に、銀の中、紫影が弾丸をも超えた威力、
空気が唸る大砲の如き威力で金糸雀へと襲いかかる。
その速度に反応するのは困難。
敢なくこの技の前に倒れた者は
浅倉の狂気に喰われるのが運命。
しかし、足りない。
速さが。空気歪め、穿つには、足りない。
壁は1秒。いいや、もしくは2秒か。
「今まで、何度も部屋の中を片付けてあげたんだから」
聞いている。
聴いている。
「恥ずかしい秘密もぜんぶみんなに黙ってきたんだから」
楽士の本領を余すことなく発揮した金糸雀は応える!
「少しくらい……妹に協力しなさい!」
浅倉威の両脚が、蛇の顎のように上下に開かれ。
貫き、砕く蹴撃が――
「これで、終劇!」
瞳を開き、浅倉威のすべてを視界に収める。
今から殺すだろう男の姿を、確かにこの眼で見る。
「追憶の――――――――――カノンッ!!」
弦が切れんばかりの大音量。
それを、一つに収束し、
槍のように貫く。
一本。
だがそれは槍衾も敵わない強靭な鋭さ。
全力が一瞬だけ拮抗し。
浅倉威の、ベルトが、砕け散った。
それと同時に衝突からの解放により吹き飛ばされて。
雪原を転がり回った金糸雀は、確かな満足感に包まれて。
瞼の裏に浮かぶ小生意気な彼女に胸を張りたい気持ちでいっぱいになり。
そのまま、意識を手放す――
のを、浅倉威を囲む
三体のモンスターの出現を目にしたことで阻まれた。
大の字で横たわる浅倉威を、
モンスターが見下ろす。
モンスターが咆哮する。
「が。がああああああ!!」
憤怒に顔を悪鬼にして唸る浅倉威。
だが、どうしようもない事態が
今確かに彼を飲み込まんとしており。
化け物たちは待望の時だと歓喜した。
一本一本を丁寧に味わう心は微塵も感じられず。
腕を喰らう。脚を喰らう。腹を喰らう。
飛び散る血液が湯気をたてて銀雪を汚し。
一体のモンスターがくわえた腸から、
なぜか人肉らしき肌色が覗いていた。
「え……?」
理由もわからず眼前に繰り広げられる惨劇。
金糸雀は必死に意識を再覚醒しようと頭を振った。
だが、現実は刻一刻と迫り。
絶叫する浅倉威の声はとうに止み。
三体のモンスターが金糸雀に狙いをつける。
浅倉威を破ったのならばさぞかし美味かろうと思ってか。
金糸雀を喰おうと動き出した。
もう、逃げ場はない。
力はすべて使い果たして。
指先一本動くこともなく。
「逃げるかしら。変平」
せめて守れたことは誇りにしようと。
恐怖に震える心に必死で終わりを納得させて。
平がぎこちなく足を動かす音を耳に、
金糸雀は目を閉じた。
だが時は来ない。
来たのは柔らかい
何かがぶつかる感触と
ささやかな浮遊感。
目を開くと映るのは
金糸雀の目の前で立つ平の姿。
「なに、してるのかしら……?」
もう、間に合わない。
金糸雀を狙ったモンスターは邪魔する
平清を平らげるために囲み。こぞって齧る。
噛み砕く。平清の全身を。
「どう、して…………」
絶望に、また一人の死に。
金糸雀の心が静かに、落ちていき。
平の手に握られたBIM全てが。
モンスターに喰われ、
衝撃を受けたことで作動し、爆発した。
モンスターの首から上が
爆発により呆気無く四散する。
「平…………」
平が何をしようとしたのか。
朦朧とした意識の中、悟り。
悟ったからこそ。
なにをすべきかわからなくなる。
なにを、考えればいいのかすら。
残骸となったモンスターの
骸の中央に散らばる肉片。
金糸雀の眼に強烈に映り。
奇跡的に無事だった頭部が。
辛うじて無事といえる顔が。
金糸雀の眼に映った。
眼を逸らすことも、できたはずなのに。
なにかを、期待して。
見極めようと眼を凝らしてしまって。
金糸雀は見てしまった。
恐怖と、諦観をないまぜにして、
壊れてしまった平清の顔を。
「あ、ひ……ぃぁ……」
金糸雀は顔に手をやる。
何かから逃げるように。
手が、爪をたてて掻きむしるように顔を覆い。
「あああああああ!」
逃れるように、大切な人の名前を呼んだ。
「みっちゃあああああん!」
恐慌する幼子が母に助けを求めるが如く。
「みっちゃあああああん!」
くしゃくしゃになり、涙をいくら零そうと。
水に溶けゆく銀雪しかそこにはなく。
少女を金色に照らす太陽は時を待つ。
どれだけ、いくら呼んでも。
金糸雀が愛するマスターはここにはいない。
彼女の強さを信じてくれたマスターはいない。
彼女に愛を注いだマスターはこの空の下には、いない。
銀色の雪は赤い血と原色の濁りに汚されてしまった。
――親しき者の死。引き起こすのもまた、
命を奪った時と同じく自己の喪失。
それが嫌ならば、闘う以外に道は――
&color(red){【浅倉威@仮面ライダー龍騎 死亡確認】}
&color(red){【平清@BTOOOM! 死亡確認】}
&color(red){【残り 22名】}
【A-1/1日目/昼】
【金糸雀@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(中)
[装備]:金糸雀のバイオリン@ローゼンメイデン、レーダーのレプリカ@BTOOOM!
川田章吾のバードコール@バトルロワイアル
[道具]:基本支給品、
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームの破壊 ?
1:???
[備考]
※支給品であるファウードの回復液@金色のガッシュは既に飲み干されました。
※基本支給品×3、レーダーのレプリカ@BTOOOM! 首輪(霞刑部)、
不明支給品2~3が放置されています。
|[[歩くような速さで]]|投下順|[[第二放送]]|
|[[弔いのボサ・ノバ]]|時系列順|[[第二放送]]|
|[[トラーギッシュ]]|浅倉威|&color(red){GAME OVER}|
|~|金糸雀|[[ポツンとひとり]]|
|~|平清|&color(red){GAME OVER}|
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