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「賢人は無限の幕、羽織り」(2012/10/24 (水) 20:11:42) の最新版変更点
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*賢人は無限の幕、羽織り
「私がすっかり変わっちまったと。
何故、以前の俺を知らないあんたに言うことができるんだい?」
いかにも、と。白髮鬼は言った。
「おまえさんの服は泥まみれで
見かけも振る舞いも取り繕ったものではない。
偽善者であるならばすぐさまわかったじゃろう。
もっと言えばもしお前さんが根から変わっていなかったのなら
そう遠くない将来に少なくとも振る舞いだけは人殺しに戻っただろう。
服や見かけはどうあろうともな。
何故なら、偽者とは上辺だけゆえに
思想を変える勇気を持ち合わせとらんからじゃ。
城戸真司がお前さんの心に刻んだ思想はしっかりと根づいておる。
魂に刻みつけられとる。もはやそれはお前さんの宿命じゃ。
憐れな者よ。
お前さんはこの世界では最も救い難く、目も当てられない敗者だ」
建物の外で轟音が響いた。
音は風として病院に打ちつけて、
白髪鬼がいる部屋も少しだけ揺れた。
「爺ィ!」
ドアを勢い良く開けて血相を変えた
翠星石が息を切らしてやって来た。
「カントリーマンは戻ってきたか?」
「まだですよ!」
音が来たのは東から、
闘っているのはカントリーマンと何者か。
ヨキという防人ならば最悪のケースだ。
「すぐにここから離れるぞ。
支度はできているかね?」
「ちょっと待つです!」
身を翻して突進せんばかりの勢いで走りだした
翠星石を見送ると白髪鬼もリュックを背負い。
数枚のカルテに目を通すと折り畳んで懐にしまいこんだ。
「これは誰のさしがねか」
病院から出ると後から少し遅れて翠星石が続いた。
「何処に行くかわかっとるな?」
「え、でもまだカントリーマンが……」
「奴は奴で何とかするじゃろう」
空気が震え、また建物が倒壊する音が聞こえる。
舞い上がった埃は激流のように道路を流れ、
カントリーマンたちの視界を遮ってしまう。
「まだ逃げてねえのかよ!?」
翠星石を粉塵から庇った白髮鬼のまえに飛び出してきたのは
埃と汗で灰色の顔になっているカントリーマン。
「無事だったですね!」
「逃げられたのか?」
喜色満面にカントリーマンに抱きついた翠星石とは
反対にあくまでも冷静に白髪鬼は尋ねた。
「いや、闘ってるのは私じゃないみたいだけどよ」
首を振って否定するカントリーマンの背後で、
未だに倒壊していく市街地の建物。
病院が設置されているせいか人を多く収容できる建造物が多い。
「…………やられたな」
「まんまと炙り出されたというわけじゃな」
事態を呑み込めない翠星石が
カントリーマンと白髪鬼を交互に見上げている。
ズボンの端を握りしめた翠星石をそっと引き剥がずと
無数の手形に穿たれ倒壊していく建物を一瞥する。
「ヨキだよな」
「虱潰しに壊せばいつか出るだろうと踏んでのことじゃの」
会話にようやく追いついた
翠星石は表情を曇らせて俯いた。
そんな翠星石の頭を
カントリーマンの手が載せられ、勢い良く撫でた。
「気にするこたぁねえよ。
どうせいつかはカチあたるんだ」
「今は……1430時か。
桐山たちは置いて行くしかないな」
「そんな!」
悲痛な顔で翠星石は悲鳴をあげた。
それと同時に桐山達が行った方角から
山のように巨大な龍が立ち昇る。
雲に頭を埋めてもなお飛び回るその威容は
見る者を圧倒する迫力があり。
白髪鬼ですら、一瞬目を奪われる。
「最悪の事態になっているようじゃな」
他の二人にも聞こえただろう呟きだが返答はない。
代わりに返ってきたのは倒壊する建物群を掻き分け、押し潰して
なお有り余る力を奮う《ジョーカー》の宣告。
「見つけた」
崩壊の空気の中、浮かび上がるように現れた黒き血の賢者。
既に護神像と合体しているヨキの顔は能面に覆われており、
窺い知れるのは溢れんばかりの鬼気と
スプンタ・マンユの能力の発動の予兆。
そして
「蒼星石!
蒼星石のローザミスティカを返してもらうですよ!」
先の闘いで味わった恐怖と絶望がまだ抜けきっていないのか。
今度は白髮鬼の側で震えつつも、翠星石は声を張り上げる。
「どうして?」
「どうしてって当然でしょう!
翠星石と蒼星石は双子なんですよ!?」
ヨキは能面をかぶったまま、
抑揚のない声でスプンタ・マンユの腹に触れる。
「蒼星石は君とは違い、闘いを受け入れていた。
我がスプンタ・マンユの力になっているのは彼女の意志さ」
「う、嘘です!」
「安寧を求めているのは君だけだと何故気づかない。
運命に従ったのは彼女の意思だ。
……君を選んだアールマティと同じくね」
「それはいいとしてだ」
旅人としての武器を構え、
一瞬たりとも目を逸らさずに
ヨキを注視してるカントリーマン。
よくねえです! と翠星石が反論したが
無視してカントリーマンは続けた。
「三対一だが。やるってえのか?」
「もちろん」
地面が嵐に放り込まれた小舟のように激しく揺れだす。
コンクリートの道路を突き破り、砕くのは無数の手。
その全てが必殺に近い威力を内包している。
対面する者の心胆を凍らせるに余りある最強の護神像の力。
「我が“願い”。運命、導からの自由のために」
手が三人に襲いかかり、
天蓋を白色の斑が隠してしまう。
それを体で守るのは分裂した白髪鬼。
稼いだ時間は僅か。
だがその隙に三人はその場を走り去る。
進むは1500時に禁止エリアになる南西の方角。
――――――――。
太陽は天高くあるはずなのに薄暗い一本道。
どぶねずみ色のコンクリートに残された足跡。
綺麗な足形が続く先を静かに慎重に歩く。
掌に握られたレーダーに反応があり。
脳の中に直接反応の主の姿がぼんやりと映し出される。
確認すると口元に笑みを浮かべてヨキは坂を登った。
「ごきげんよう、ご老人」
坂の上、少し開けた広場にあったのは老人ホーム。
その入り口の前に椅子をひとつ設置し、ゆったりと腰掛ける白髪鬼。
「誘いに素直に乗ってくれて感謝するよ賢者くん」
老獪な空気はそのままで白髪鬼
パンを数個まとめて頬張り、咀嚼し、水で流すと不快な顔をする。
「もっとマシなものを用意できなかったものかの」
白髪鬼の悪態には肩を竦めただけ。
ヨキは無機質な瞳を白髪鬼に投げかけたまま。
「アールマティ……の主とは知り合いだったのかね?」
飲み干したペットボトルをキャップと分別してビニール袋に入れながら
白髪鬼は何でもないことのように問いかけた。
その言葉にヨキはわずかに眉を上げた。
「何故そう思った?」
「ただの勘じゃよ。
おまえさんに不手際があったわけではない。
年寄りの眼力も捨てたもんじゃなかろ」
「私は貴方以上に生きているのだけどね」
「歳月の波に魂削られて至る境地もあるのじゃよ青年」
喰えない男だと内心吐露するも、
ヨキはあくまでも冷静に答えた。
「友の息子さ」
「翠星石を見逃したのは感傷かの」
髭を撫で、興味深げに眼を細める白髪鬼に
どう返答するかヨキは暫し考えた。
捉えどころのない、
それでいて底知れない鬼気を持つこの老人との会話を楽しむのも
心を疼くのを止めたヨキですら悪くないと思うことだが
生憎と今は時間がない。
「馬鹿なことを言うものではないよ」
ヨキが一歩進むと虚空に光が瞬き、
次の瞬間には白髪鬼がいた場所を手の嵐が荒らした。
しかし、ヨキの背後から突風が吹き付け、
ヨキの重心が大きく揺らぐ。
頭上に現れたのは一振りの剣を振り上げた白髪鬼。
今、老人は純白のタキシードから
荘厳な光沢を帯びたプレートメイルを身に纏い。
天高く跳び上がると、落下速度に身を任せ剣を振り下ろした。
斬撃を真っ向から迎え撃つのは当然、
スプンタ・マンユの無数の手。
夥しい数のそれがひとつに束ねられ、
槍と化して白髪鬼の剣よりも早く、遠くから攻撃する。
「消影(バニッシュ)」
目の前に槍の穂先が現れる直前に、
魔法を行使した白髪鬼はその姿を風景に溶けこませる。
しかし、消影はあくまで己の体を光学的に見えなくするもの。
槍は問答無用と白髪鬼を跡形もなく吹き飛ばし、
背後の老人ホームごと粉砕するだろう。
「合体だ。クシャスラ」
入り口を彩っていた花壇の花びらが吹き上げる竜巻に
渦となって散っていき、ヨキの視界を一瞬だが奪う。
目まぐるしい色彩で見通しが立たない風景から
吐き出される何発もの鉛玉。
不思議と正確にヨキのボディの装甲に当たった。
ヨキの斜め左前方から殺気がぶつけられ。
無条件に注意をそこに向けたのと同時に
右側面へと回し蹴りが打ち込まれる。
だが既に手の盾を展開していたヨキは無傷。
次に仕掛けられた攻撃は
ヨキを中心に全方位取り囲んだ集中砲火。
高低ばらばらの絨毯銃撃がヨキ、
引いてはスプンタ・マンユの動きを止める。
スプンタ・マンユの弱点、
それは属性が人であるが故の耐久性の低さ。
精密動作が可能な千手とスプンタ・マンユの変化を併せれば
応用性は無限大へと広がるが防御も
殆どは手を用いなければならない。
そんなスプンタ・マンユにこの弾丸の乱れ撃ちは致命傷になることは
ありえなくとも動きを鈍らせるには十分なものになっていた。
甲高い音がヨキの周囲で鳴りまわり、
ヨキの耳から聴覚を消す。
硝煙と鉛が潰れる臭いが
鼻孔を鈍く強く刺激して
脳神経の働きも阻害された錯覚を起こした。
「……舐めないでもらおうか」
銃弾を撃ち尽くしたのか、
未だ嵐に乗って
オーロラのように色彩豊かな垂れ幕の花弁。
それを掻き分け、潜り抜け、吹き飛ばし。
姿を現す無数の白髪鬼。
純白から白銀のフルメイルを装着したジジイ軍団は
背後に花嵐を背負ってスプンタ・マンユへと連打を仕掛ける。
「今の私は不服ながらも神の祝福を受けているんだよ」
ヨキの口から言葉が滑り流れると、
放射状に幾何の線が走り。
爺たちの胸に風穴を開けた。
ほどばしった線の正体は潰れた弾丸。
それを指弾に弾けばたちまち歪に相手を喰らう。
動きを止められた状態から
ヨキは最小限の力で分身を退けた。
「レーダーは身から離せば効果を喪い。
探知は不可能となる。
だが白の老練した鬼よ。
想波を産み出すのは心の海を持つ者にしかできない」
十色が晴れた今、青空には雲の衣もなく。
チャンが消費した膨大な想波が呼び寄せた
闇の気配がこの場にいる者の心を蝕むのみ。
「……ふむ、赤き神の血。
紅のワインをあおった漆黒の力とは素晴らしいものよ」
「それは誤解だよご老人」
剣道のように正眼に構えた白髪鬼に対して
やれやれとヨキは息を吐く。
「私達黒き血の人は
元来、赤を遥かに上回る性能を持つ存在として造られた。
この盆台の上でお前と私が対等に闘うことが本来おかしいのだよ」
「ほお」
「恍惚的無意識浸る同胞の中、
初めて意識を持った私でさえ
大幅にグレードダウンした力しかなかった。
おそらくは、原罪意識が黒き血の人々には刻まれているのだ」
「それは儂ら人間に積まれたプログラムか」
「いいや。お笑い種なことに違う」
陽射しに黒色が混じり始め、
光が呑まれていく。
一瞬、ヨキの顔が黒塗りの球体となり。
自嘲に裂いた口元から
呪詛の重さに沈む言葉が紡がれる。
「我ら黒き血の人々が無意識に望んでいるのだ。
己に不自由の楔を打ちつけ。
十字架を背負いて赤の代わりに
留まるのを求めているのだよ」
ゆえに、そう続けてヨキは勝負を決めにかかる。
分身と勇者の剣を同時に操るのは難しいはずだ。
想波の闘法を修めていない
白髪鬼は刀身を維持するだけにも集中が必要なはず。
「我が“願い”。
神の祝福を受けずとも何者かになれる自由を得るため、
世界の果実の収穫を」
興味深く耳を傾けていた白髪鬼も
対峙する者の殺気で空気が悲鳴を上げるのを感じ。
構えを改め、足を大きく前に開く。
「最後に儂の“願い”を聴いてくれんか?」
「ご自由に」
「楽しい老後」
「理解できないね」
舌打ちをきっかけに千を超えた万の手が
白髪鬼の体を蹂躙し消失せんと迫りくる。
踏み込んだ足がコンクリートの床を砕き。
すり足が砕けた破片を巻き上げて、
白髮鬼の剣は唸りをあげると産まれるは巨大な光球。
「醒天」
だが呆気無くも無数の手により光球は握りつぶされ。
ヨキの視界にも神々しき光を喪い。
姿を見せた白髮鬼の上半身が見えた。
「グランド・ブレイバー」
肩を抉られ、穴だらけにされて尚、
白髮鬼は怯むことなく前へと進み。
勇者の剣を握っていた腕もとうの昔に何処へと消え。
ぱちん、とヨキの指を鳴らした音が響いたときが
白髪鬼が人の形をしていた最期だった。
――ピッ
「狙いには気づいていたけれどね」
白髪鬼がいた場所には大きな血溜まりが出来あがり。
その上にはクシャスラが所在無げに浮かんでいる。
主に見捨てられたかのような憐れな姿。
――ピッピピピ
首元でやかましく電子音が叫ぶ。
時計を観るまでもなく。
今は1500時。
ついでにここは禁止エリア。
―――――――。
「時間だ」
カントリーマンは手首のスナップをきかせて
懐中時計の蓋を閉じた。
隣でとぼとぼと歩いている翠星石は沈痛な面持ちで頷く。
足止めを提案したのは白髪鬼であるし
自らを捨て石にするのを決めたのも本人だ。
つまり、翠星石が気に病むことではないのだが
これは彼女の性質によるものだろう。
なにか慰めの言葉を考えつこうと
頭を捻って脳の奥の奥から
何かいい案がないかと苦闘していた中、
翠星石が口を開いた。
「津幡共仁は……死んでしまったんですかね……?」
耳慣れない名前だと最初に思ってしまったが
それこそが白髪鬼の名前だったのだと思い当たる。
何故あれほどまでにこの名前がしっくり来るのだろうか。
交流したのは短い間だったがおかしな老人だったと
つくづく思い返した。
掌の上で踊らされていた感がかなり強いあの男。
旅人として殺し合いに従事していた頃ならば
何とか寝首を掻こうと夜な夜な頭を悩ませていただろう。
それでも良好な関係を築こうと思えたのは
城戸真司の影響を受けたためか。
翠星石が眠っていたときに交わした会話が
脳裏をよぎって、しこりを残す。
「敗者ときたか……」
翠星石も物思いに沈んでいたため、特に反応はない。
そのことに気恥ずかしい安心を覚えてしまう。
まったく腹立たしいくらいにのどかな風景だ。
空は天高く牧歌的な草原はなだらかな
斜面を形作り遠くまで続いている。
耳を澄ませば風の悲鳴だって――――
「…………ありえねえ」
驚愕、そして恐怖で息が乱れてしまう。
ありえない。
その言葉通り、ここに来れるはずはない。
接近速度から逆算しても禁止エリアには間違いなくいたはず。
そして白髪鬼の誘いを蹴ったならば死んでいるのは自分たち。
ならば、どうやって。
「元気だしたほうがいいですよ」
声がした方を見ると翠星石が小さな両手で
カントリーマンの手を包むように握っていた。
気の抜けてしまった彼女には異常を察知することができない。
だからこんな的外れな言葉をかけてきた。
なのに、どうして。
「悪い、翠星石。
先行っててくんねえか?」
守りたいと想うのだろうか。
こんなに小さくて震えている手を。
翠星石はカントリーマンの言葉に
きょとんと首をかしげた。
「やっぱあんなジジイでも死なれると悲しいもんだぁね。
けど泣き顔見られるのは爺の私でも恥ずかしいからよ。
ちょっと先まで走っててくんねえかい?」
力強く翠星石の頭を撫でて。
小さな手にカントリーマンの玉を載せた。
深緑の袖がふわりと揺れて
まじまじと翠星石はカントリーマンの玉を見つめた。
「なんで、これを…………!?」
事態に気づいたのは自力でか、
それとも空を走るあの音を聞いたからか。
「ほら、行け。
爺ちゃん、もう涙で前が見えねえよ」
肩を押しやると翠星石は弱々しく後ずさって首を振った。
「いや……いやです……」
手持ちの武装は旅人としてのものしかない。
“あれ”を渡すのは気が引けたが
白髮鬼は生き残る気でいた。
奴から逃げ延びた可能性も……ないとは言えない。
「レオと雛苺って奴と会いたいんだろ?
友達と姉妹は大切にしとけよ。
どっちも亡くして狂った奴を知ってるからよ」
そしてその一端をカントリーマンもたしかに担っていた。
生き残るべきはやはりこの“二人”だろう。
「楽しかったぜ。
アールマティを連れて、行きな」
アールマティの単語を出されて
翠星石は顔をくしゃくしゃにしても頷いた。
「あばよ、楽しかったぜ」
笑みを浮かべて手を振ったカントリーマン。
最後に翠星石が大きくジャンプして
カントリーマンの頭に抱きついて。
顔中を涙と鼻水だらけにされたが
死んでいく荷物には重すぎもなく軽すぎもなく。
満足とはこのことを言うのかもしれない。
「すまねえ、城戸」
玉を四つ喪いすっかり貧相になった愛用のメス。
相手に届けるには封印魔法しかない。
使用制限が解禁された
こちらの殺し合いのルールには感謝もしておこう。
雲の向こうからやってきた小さな影は
重低音とともにカントリーマンの真ん前に降り立つ。
完全に舐めきっているのだろう。
影だったヨキは今や表情がはっきりと視認できる近さにいる。
――黒医伝術――
幾十もの手が現れると同時に
カントリーマンは宙に魔方陣を刻む。
爆発が辺りを揺らし。
立っているのはカントリーマンとヨキ。
――黒医伝術――
再度、筋肉の悲鳴を感じて。
病に蝕まれた身が軋み上げるのを無視して
封印魔法を行使した。
幾百もの手を消し飛ばし。
大地が光に燃え上がった。
立っているのはカントリーマンとヨキ。
――黒医伝術――
数千の手がカントリーマンの両腕を消し飛ばし。
喪った血液で視界が暗くなる。
それでも、最後には封印魔法がヨキの体に刻まれ。
“首輪を喪った”ヨキの体が破裂し。
砂のように霧散していく。
「――――」
なにか言おうとしたが何も言えない。
もう音は消え去り。
眼もほとんどが見えなくなった。
仰向けに倒れた
カントリーマンの眼に飛び込んできたのは人影。
それは誰か。
白髪鬼ならいいと思った。
城戸真司なら何を言うか迷った。
翠星石ならば内心とても嬉しい。
「実験につきあってくれてありがとう」
カントリーマンの顔を覗き込んでいたのはヨキ。
それも数人ではきかない。
最低でも数十人の。
最強の護神像の群れ。
「禁止エリアを用いるのは有効な案だった。
実際は首輪を喪うことで闇を呼び寄せて死ぬのだけれどね」
柔らかに微笑んでヨキの群れは囁いた。
「爆発のダメージは寸前で首輪を外したから、ない。
闇を呼び寄せるペナルティは私には存在しない。
さて、どうしてかわかるかい。カントリーマン?」
「が、あぁっ…………」
「私が《JOKER》だからさ」
&color(red){【カントリーマン 死亡確認】}
&color(red){【残り 15名】}
【C‐5/一日目/午後】
【ヨキ@WaqWaq】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、BMによる火傷 (処置済み)、
スプンタ・マンユはクシャスラの能力使用可能、首輪解除
[装備]:スプンタ・マンユ(玉四つ、ドラグブラッカー、蒼星石のローザミスティカ、クシャスラ完食)
@WaqWaq、ヒミコのレーダー@BTOOOM!、スタンガン@BTOOOM!、
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して赤き血の神を抹殺する
1:動く。
※神の血をあびたことで身体能力大幅上昇
※どれほどパワーアップしたのかは後続にお任せします
【翠星石@ローゼンメイデン】
[状態]:
[装備]:庭師の如雨露@ローゼンメイデン 、
護神像アールマティ@waqwaq、カントリーマンの玉四つ@ブレイブ・ストーリー~新説~
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針: 闘わないで済む世界が欲しい
1:…………
[備考]
※参戦時期は蒼星石の死亡前です。
※waqwaqの世界観を知りました。シオの主観での話なので、詳しい内容は不明です
※護神像アールマティに選ばれました。
※シオとヨキが黒き血の人であることを知りました。
これは賢人と鬼が対峙する前。
何か優雅なものはないかと白髮鬼が老人ホームを荒らしていたときのこと。
視界の隅で誰かが動く気配がして
迷わずそこへと銃弾を撃つ。
「いきなり銃なんて撃ったら危ないですよ!」
冷や汗を浮かべて銃弾を掴みとっている闖入者は少年の姿をしていた。
黒曜石の肌をして、黒色のシャツと革のパンツを着ていた中学生くらいの平凡な。
「すまんすまん。
お前さんもいきなり現れんでくれよ。
撃たれても文句は言えんぞ」
からからと笑うと銃口を改めて少年へと向け直し。
クシャスラを待機させ、相手の出方を見た。
「僕にはわかるんです。
あなたが英雄を求めていることを」
「んん? 盗聴の記録でも覗いたのか?
べつに大した秘密でもないぞ」
「そういう意味ではなくて」
「オンバ」
頭を掻いて困惑していた少年の表情は白髪鬼の言葉でぴしりと固まった。
「……何故わかった?」
「そもそも儂はその少年の死体見をとるんじゃが……
カントリーマンからその名前を聞いとったし。
タイミング的にはそれ以外なかろうて」
「おや、主がワタルを殺したのかえ?」
「いや違う。
違うから殺気で家具類を破壊するのはよせ」
オンバの発した気迫、
想いが呼び寄せた波が周囲の家具を粗方壊しつくし。
老人たちの憩いの場を廃墟へと変える。
「あーあー。
せっかくヨキくんと優雅に
茶飲み室内決闘をしようと思っておったのに」
「御託はいい。
妾には賢者二人を出し抜く手駒が必要ぞ」
胸ぐらを剛力で掴み上げ、
白髪鬼を持ち上げたオンバはそう告げた。
「ふむ、何故儂を?」
「おぬし、”願い”は?」
「楽しんで死ぬ。
そのための英雄道よ」
「はっ」
窮地においても眉ひとつあげず答えた白髪鬼に
オンバは破顔し、獰猛に嗤う。
「それでよい。
それでこそ鬼じゃ。悪魔じゃ」
白髪鬼を下ろしたオンバは
鬼の胸元に人差し指をあてて、上目遣いに見上げた。
「ゆえに勇者殺したであろう
人やヒトモドキよりよほど信頼出来る」
そうして、白髪鬼とオンバは手を組んだ。
「賢人を出しぬき、死を装え。
離脱は妾も手助けしてやろう。
その後、妾に勇者の剣を献上すれば。
お主に大義の道を歩ませてやろう」
たった一つの餌とともに。
「蜘蛛の糸に征き、コトどもを殺せ」
【蜘蛛の糸/一日目/午後】
【津幡共仁@銀齢の果て】
[状態]:疲労(大)
[装備]:カードデッキ(龍騎)、サバイブ(烈火)、チャンの玉@ブレイブ・ストーリー~新説~
[道具]:基本支給品×3、簡易工具セット、輸血パック(各種血液型、黒い血のも)、首輪解除
ワタルを打ち抜いた弾丸 、月の石@金色のガッシュ!!、 レーダー@BTOOOM!、ワルサー予備弾×16、
レオパルドン・パピプリオの首輪、ワタルの首輪(分解済み)、不明支給品0~1
[思考・状況]
基本行動方針:オンバの要求を呑み。英雄として行動する
1:これだから人生は面白い!!!!!
※ブレイブ・ストーリー~新説~側の事情をだいたい把握しました。
※ローゼンメイデンの事情をだいたい把握しました。
※バトルロワイアルの事情をだいたい把握しました。
※ワタルの首輪を分解しました。
造りはガダルカナル22号と同じようです。
|[[参の支配者《歴史の道標》《クイーン》《ジョーカー》]]|投下順|[[PARADIGUM]]|
|[[参の支配者《歴史の道標》《クイーン》《ジョーカー》]]|時系列順|[[強制型エンターテイメント判明]]|
|[[過去の産声]]|翠星石|[[]]|
|~|津幡共仁|[[お願い、死なないで天膳さま! 小四郎やお幻婆との約束はどうなっちゃうの? ここを耐えれば、ゲームに勝てるんだから! ―「薬師寺天膳死す」― デュエルスタンバイ!]]|
|~|カントリーマン|&color(red){GAME OVER}|
|[[循環型悲劇症候群]]|ヨキ|[[]]|
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*賢人は無限の幕、羽織り
「私がすっかり変わっちまったと。
何故、以前の俺を知らないあんたに言うことができるんだい?」
いかにも、と。白髮鬼は言った。
「おまえさんの服は泥まみれで
見かけも振る舞いも取り繕ったものではない。
偽善者であるならばすぐさまわかったじゃろう。
もっと言えばもしお前さんが根から変わっていなかったのなら
そう遠くない将来に少なくとも振る舞いだけは人殺しに戻っただろう。
服や見かけはどうあろうともな。
何故なら、偽者とは上辺だけゆえに
思想を変える勇気を持ち合わせとらんからじゃ。
城戸真司がお前さんの心に刻んだ思想はしっかりと根づいておる。
魂に刻みつけられとる。もはやそれはお前さんの宿命じゃ。
憐れな者よ。
お前さんはこの世界では最も救い難く、目も当てられない敗者だ」
建物の外で轟音が響いた。
音は風として病院に打ちつけて、
白髪鬼がいる部屋も少しだけ揺れた。
「爺ィ!」
ドアを勢い良く開けて血相を変えた
翠星石が息を切らしてやって来た。
「カントリーマンは戻ってきたか?」
「まだですよ!」
音が来たのは東から、
闘っているのはカントリーマンと何者か。
ヨキという防人ならば最悪のケースだ。
「すぐにここから離れるぞ。
支度はできているかね?」
「ちょっと待つです!」
身を翻して突進せんばかりの勢いで走りだした
翠星石を見送ると白髪鬼もリュックを背負い。
数枚のカルテに目を通すと折り畳んで懐にしまいこんだ。
「これは誰のさしがねか」
病院から出ると後から少し遅れて翠星石が続いた。
「何処に行くかわかっとるな?」
「え、でもまだカントリーマンが……」
「奴は奴で何とかするじゃろう」
空気が震え、また建物が倒壊する音が聞こえる。
舞い上がった埃は激流のように道路を流れ、
カントリーマンたちの視界を遮ってしまう。
「まだ逃げてねえのかよ!?」
翠星石を粉塵から庇った白髮鬼のまえに飛び出してきたのは
埃と汗で灰色の顔になっているカントリーマン。
「無事だったですね!」
「逃げられたのか?」
喜色満面にカントリーマンに抱きついた翠星石とは
反対にあくまでも冷静に白髪鬼は尋ねた。
「いや、闘ってるのは私じゃないみたいだけどよ」
首を振って否定するカントリーマンの背後で、
未だに倒壊していく市街地の建物。
病院が設置されているせいか人を多く収容できる建造物が多い。
「…………やられたな」
「まんまと炙り出されたというわけじゃな」
事態を呑み込めない翠星石が
カントリーマンと白髪鬼を交互に見上げている。
ズボンの端を握りしめた翠星石をそっと引き剥がずと
無数の手形に穿たれ倒壊していく建物を一瞥する。
「ヨキだよな」
「虱潰しに壊せばいつか出るだろうと踏んでのことじゃの」
会話にようやく追いついた
翠星石は表情を曇らせて俯いた。
そんな翠星石の頭を
カントリーマンの手が載せられ、勢い良く撫でた。
「気にするこたぁねえよ。
どうせいつかはカチあたるんだ」
「今は……1430時か。
桐山たちは置いて行くしかないな」
「そんな!」
悲痛な顔で翠星石は悲鳴をあげた。
それと同時に桐山達が行った方角から
山のように巨大な龍が立ち昇る。
雲に頭を埋めてもなお飛び回るその威容は
見る者を圧倒する迫力があり。
白髪鬼ですら、一瞬目を奪われる。
「最悪の事態になっているようじゃな」
他の二人にも聞こえただろう呟きだが返答はない。
代わりに返ってきたのは倒壊する建物群を掻き分け、押し潰して
なお有り余る力を奮う《ジョーカー》の宣告。
「見つけた」
崩壊の空気の中、浮かび上がるように現れた黒き血の賢者。
既に護神像と合体しているヨキの顔は能面に覆われており、
窺い知れるのは溢れんばかりの鬼気と
スプンタ・マンユの能力の発動の予兆。
そして
「蒼星石!
蒼星石のローザミスティカを返してもらうですよ!」
先の闘いで味わった恐怖と絶望がまだ抜けきっていないのか。
今度は白髮鬼の側で震えつつも、翠星石は声を張り上げる。
「どうして?」
「どうしてって当然でしょう!
翠星石と蒼星石は双子なんですよ!?」
ヨキは能面をかぶったまま、
抑揚のない声でスプンタ・マンユの腹に触れる。
「蒼星石は君とは違い、闘いを受け入れていた。
我がスプンタ・マンユの力になっているのは彼女の意志さ」
「う、嘘です!」
「安寧を求めているのは君だけだと何故気づかない。
運命に従ったのは彼女の意思だ。
……君を選んだアールマティと同じくね」
「それはいいとしてだ」
旅人としての武器を構え、
一瞬たりとも目を逸らさずに
ヨキを注視してるカントリーマン。
よくねえです! と翠星石が反論したが
無視してカントリーマンは続けた。
「三対一だが。やるってえのか?」
「もちろん」
地面が嵐に放り込まれた小舟のように激しく揺れだす。
コンクリートの道路を突き破り、砕くのは無数の手。
その全てが必殺に近い威力を内包している。
対面する者の心胆を凍らせるに余りある最強の護神像の力。
「我が“願い”。運命、導からの自由のために」
手が三人に襲いかかり、
天蓋を白色の斑が隠してしまう。
それを体で守るのは分裂した白髪鬼。
稼いだ時間は僅か。
だがその隙に三人はその場を走り去る。
進むは1500時に禁止エリアになる南西の方角。
――――――――。
太陽は天高くあるはずなのに薄暗い一本道。
どぶねずみ色のコンクリートに残された足跡。
綺麗な足形が続く先を静かに慎重に歩く。
掌に握られたレーダーに反応があり。
脳の中に直接反応の主の姿がぼんやりと映し出される。
確認すると口元に笑みを浮かべてヨキは坂を登った。
「ごきげんよう、ご老人」
坂の上、少し開けた広場にあったのは老人ホーム。
その入り口の前に椅子をひとつ設置し、ゆったりと腰掛ける白髪鬼。
「誘いに素直に乗ってくれて感謝するよ賢者くん」
老獪な空気はそのままで白髪鬼
パンを数個まとめて頬張り、咀嚼し、水で流すと不快な顔をする。
「もっとマシなものを用意できなかったものかの」
白髪鬼の悪態には肩を竦めただけ。
ヨキは無機質な瞳を白髪鬼に投げかけたまま。
「アールマティ……の主とは知り合いだったのかね?」
飲み干したペットボトルをキャップと分別してビニール袋に入れながら
白髪鬼は何でもないことのように問いかけた。
その言葉にヨキはわずかに眉を上げた。
「何故そう思った?」
「ただの勘じゃよ。
おまえさんに不手際があったわけではない。
年寄りの眼力も捨てたもんじゃなかろ」
「私は貴方以上に生きているのだけどね」
「歳月の波に魂削られて至る境地もあるのじゃよ青年」
喰えない男だと内心吐露するも、
ヨキはあくまでも冷静に答えた。
「友の息子さ」
「翠星石を見逃したのは感傷かの」
髭を撫で、興味深げに眼を細める白髪鬼に
どう返答するかヨキは暫し考えた。
捉えどころのない、
それでいて底知れない鬼気を持つこの老人との会話を楽しむのも
心を疼くのを止めたヨキですら悪くないと思うことだが
生憎と今は時間がない。
「馬鹿なことを言うものではないよ」
ヨキが一歩進むと虚空に光が瞬き、
次の瞬間には白髪鬼がいた場所を手の嵐が荒らした。
しかし、ヨキの背後から突風が吹き付け、
ヨキの重心が大きく揺らぐ。
頭上に現れたのは一振りの剣を振り上げた白髪鬼。
今、老人は純白のタキシードから
荘厳な光沢を帯びたプレートメイルを身に纏い。
天高く跳び上がると、落下速度に身を任せ剣を振り下ろした。
斬撃を真っ向から迎え撃つのは当然、
スプンタ・マンユの無数の手。
夥しい数のそれがひとつに束ねられ、
槍と化して白髪鬼の剣よりも早く、遠くから攻撃する。
「消影(バニッシュ)」
目の前に槍の穂先が現れる直前に、
魔法を行使した白髪鬼はその姿を風景に溶けこませる。
しかし、消影はあくまで己の体を光学的に見えなくするもの。
槍は問答無用と白髪鬼を跡形もなく吹き飛ばし、
背後の老人ホームごと粉砕するだろう。
「合体だ。クシャスラ」
入り口を彩っていた花壇の花びらが吹き上げる竜巻に
渦となって散っていき、ヨキの視界を一瞬だが奪う。
目まぐるしい色彩で見通しが立たない風景から
吐き出される何発もの鉛玉。
不思議と正確にヨキのボディの装甲に当たった。
ヨキの斜め左前方から殺気がぶつけられ。
無条件に注意をそこに向けたのと同時に
右側面へと回し蹴りが打ち込まれる。
だが既に手の盾を展開していたヨキは無傷。
次に仕掛けられた攻撃は
ヨキを中心に全方位取り囲んだ集中砲火。
高低ばらばらの絨毯銃撃がヨキ、
引いてはスプンタ・マンユの動きを止める。
スプンタ・マンユの弱点、
それは属性が人であるが故の耐久性の低さ。
精密動作が可能な千手とスプンタ・マンユの変化を併せれば
応用性は無限大へと広がるが防御も
殆どは手を用いなければならない。
そんなスプンタ・マンユにこの弾丸の乱れ撃ちは致命傷になることは
ありえなくとも動きを鈍らせるには十分なものになっていた。
甲高い音がヨキの周囲で鳴りまわり、
ヨキの耳から聴覚を消す。
硝煙と鉛が潰れる臭いが
鼻孔を鈍く強く刺激して
脳神経の働きも阻害された錯覚を起こした。
「……舐めないでもらおうか」
銃弾を撃ち尽くしたのか、
未だ嵐に乗って
オーロラのように色彩豊かな垂れ幕の花弁。
それを掻き分け、潜り抜け、吹き飛ばし。
姿を現す無数の白髪鬼。
純白から白銀のフルメイルを装着したジジイ軍団は
背後に花嵐を背負ってスプンタ・マンユへと連打を仕掛ける。
「今の私は不服ながらも神の祝福を受けているんだよ」
ヨキの口から言葉が滑り流れると、
放射状に幾何の線が走り。
爺たちの胸に風穴を開けた。
ほどばしった線の正体は潰れた弾丸。
それを指弾に弾けばたちまち歪に相手を喰らう。
動きを止められた状態から
ヨキは最小限の力で分身を退けた。
「レーダーは身から離せば効果を喪い。
探知は不可能となる。
だが白の老練した鬼よ。
想波を産み出すのは心の海を持つ者にしかできない」
十色が晴れた今、青空には雲の衣もなく。
チャンが消費した膨大な想波が呼び寄せた
闇の気配がこの場にいる者の心を蝕むのみ。
「……ふむ、赤き神の血。
紅のワインをあおった漆黒の力とは素晴らしいものよ」
「それは誤解だよご老人」
剣道のように正眼に構えた白髪鬼に対して
やれやれとヨキは息を吐く。
「私達黒き血の人は
元来、赤を遥かに上回る性能を持つ存在として造られた。
この盆台の上でお前と私が対等に闘うことが本来おかしいのだよ」
「ほお」
「恍惚的無意識浸る同胞の中、
初めて意識を持った私でさえ
大幅にグレードダウンした力しかなかった。
おそらくは、原罪意識が黒き血の人々には刻まれているのだ」
「それは儂ら人間に積まれたプログラムか」
「いいや。お笑い種なことに違う」
陽射しに黒色が混じり始め、
光が呑まれていく。
一瞬、ヨキの顔が黒塗りの球体となり。
自嘲に裂いた口元から
呪詛の重さに沈む言葉が紡がれる。
「我ら黒き血の人々が無意識に望んでいるのだ。
己に不自由の楔を打ちつけ。
十字架を背負いて赤の代わりに
留まるのを求めているのだよ」
ゆえに、そう続けてヨキは勝負を決めにかかる。
分身と勇者の剣を同時に操るのは難しいはずだ。
想波の闘法を修めていない
白髪鬼は刀身を維持するだけにも集中が必要なはず。
「我が“願い”。
神の祝福を受けずとも何者かになれる自由を得るため、
世界の果実の収穫を」
興味深く耳を傾けていた白髪鬼も
対峙する者の殺気で空気が悲鳴を上げるのを感じ。
構えを改め、足を大きく前に開く。
「最後に儂の“願い”を聴いてくれんか?」
「ご自由に」
「楽しい老後」
「理解できないね」
舌打ちをきっかけに千を超えた万の手が
白髪鬼の体を蹂躙し消失せんと迫りくる。
踏み込んだ足がコンクリートの床を砕き。
すり足が砕けた破片を巻き上げて、
白髮鬼の剣は唸りをあげると産まれるは巨大な光球。
「醒天」
だが呆気無くも無数の手により光球は握りつぶされ。
ヨキの視界にも神々しき光を喪い。
姿を見せた白髮鬼の上半身が見えた。
「グランド・ブレイバー」
肩を抉られ、穴だらけにされて尚、
白髮鬼は怯むことなく前へと進み。
勇者の剣を握っていた腕もとうの昔に何処へと消え。
ぱちん、とヨキの指を鳴らした音が響いたときが
白髪鬼が人の形をしていた最期だった。
――ピッ
「狙いには気づいていたけれどね」
白髪鬼がいた場所には大きな血溜まりが出来あがり。
その上にはクシャスラが所在無げに浮かんでいる。
主に見捨てられたかのような憐れな姿。
――ピッピピピ
首元でやかましく電子音が叫ぶ。
時計を観るまでもなく。
今は1500時。
ついでにここは禁止エリア。
―――――――。
「時間だ」
カントリーマンは手首のスナップをきかせて
懐中時計の蓋を閉じた。
隣でとぼとぼと歩いている翠星石は沈痛な面持ちで頷く。
足止めを提案したのは白髪鬼であるし
自らを捨て石にするのを決めたのも本人だ。
つまり、翠星石が気に病むことではないのだが
これは彼女の性質によるものだろう。
なにか慰めの言葉を考えつこうと
頭を捻って脳の奥の奥から
何かいい案がないかと苦闘していた中、
翠星石が口を開いた。
「津幡共仁は……死んでしまったんですかね……?」
耳慣れない名前だと最初に思ってしまったが
それこそが白髪鬼の名前だったのだと思い当たる。
何故あれほどまでにこの名前がしっくり来るのだろうか。
交流したのは短い間だったがおかしな老人だったと
つくづく思い返した。
掌の上で踊らされていた感がかなり強いあの男。
旅人として殺し合いに従事していた頃ならば
何とか寝首を掻こうと夜な夜な頭を悩ませていただろう。
それでも良好な関係を築こうと思えたのは
城戸真司の影響を受けたためか。
翠星石が眠っていたときに交わした会話が
脳裏をよぎって、しこりを残す。
「敗者ときたか……」
翠星石も物思いに沈んでいたため、特に反応はない。
そのことに気恥ずかしい安心を覚えてしまう。
まったく腹立たしいくらいにのどかな風景だ。
空は天高く牧歌的な草原はなだらかな
斜面を形作り遠くまで続いている。
耳を澄ませば風の悲鳴だって――――
「…………ありえねえ」
驚愕、そして恐怖で息が乱れてしまう。
ありえない。
その言葉通り、ここに来れるはずはない。
接近速度から逆算しても禁止エリアには間違いなくいたはず。
そして白髪鬼の誘いを蹴ったならば死んでいるのは自分たち。
ならば、どうやって。
「元気だしたほうがいいですよ」
声がした方を見ると翠星石が小さな両手で
カントリーマンの手を包むように握っていた。
気の抜けてしまった彼女には異常を察知することができない。
だからこんな的外れな言葉をかけてきた。
なのに、どうして。
「悪い、翠星石。
先行っててくんねえか?」
守りたいと想うのだろうか。
こんなに小さくて震えている手を。
翠星石はカントリーマンの言葉に
きょとんと首をかしげた。
「やっぱあんなジジイでも死なれると悲しいもんだぁね。
けど泣き顔見られるのは爺の私でも恥ずかしいからよ。
ちょっと先まで走っててくんねえかい?」
力強く翠星石の頭を撫でて。
小さな手にカントリーマンの玉を載せた。
深緑の袖がふわりと揺れて
まじまじと翠星石はカントリーマンの玉を見つめた。
「なんで、これを…………!?」
事態に気づいたのは自力でか、
それとも空を走るあの音を聞いたからか。
「ほら、行け。
爺ちゃん、もう涙で前が見えねえよ」
肩を押しやると翠星石は弱々しく後ずさって首を振った。
「いや……いやです……」
手持ちの武装は旅人としてのものしかない。
“あれ”を渡すのは気が引けたが
白髮鬼は生き残る気でいた。
奴から逃げ延びた可能性も……ないとは言えない。
「レオと雛苺って奴と会いたいんだろ?
友達と姉妹は大切にしとけよ。
どっちも亡くして狂った奴を知ってるからよ」
そしてその一端をカントリーマンもたしかに担っていた。
生き残るべきはやはりこの“二人”だろう。
「楽しかったぜ。
アールマティを連れて、行きな」
アールマティの単語を出されて
翠星石は顔をくしゃくしゃにしても頷いた。
「あばよ、楽しかったぜ」
笑みを浮かべて手を振ったカントリーマン。
最後に翠星石が大きくジャンプして
カントリーマンの頭に抱きついて。
顔中を涙と鼻水だらけにされたが
死んでいく荷物には重すぎもなく軽すぎもなく。
満足とはこのことを言うのかもしれない。
「すまねえ、城戸」
玉を四つ喪いすっかり貧相になった愛用のメス。
相手に届けるには封印魔法しかない。
使用制限が解禁された
こちらの殺し合いのルールには感謝もしておこう。
雲の向こうからやってきた小さな影は
重低音とともにカントリーマンの真ん前に降り立つ。
完全に舐めきっているのだろう。
影だったヨキは今や表情がはっきりと視認できる近さにいる。
――黒医伝術――
幾十もの手が現れると同時に
カントリーマンは宙に魔方陣を刻む。
爆発が辺りを揺らし。
立っているのはカントリーマンとヨキ。
――黒医伝術――
再度、筋肉の悲鳴を感じて。
病に蝕まれた身が軋み上げるのを無視して
封印魔法を行使した。
幾百もの手を消し飛ばし。
大地が光に燃え上がった。
立っているのはカントリーマンとヨキ。
――黒医伝術――
数千の手がカントリーマンの両腕を消し飛ばし。
喪った血液で視界が暗くなる。
それでも、最後には封印魔法がヨキの体に刻まれ。
“首輪を喪った”ヨキの体が破裂し。
砂のように霧散していく。
「――――」
なにか言おうとしたが何も言えない。
もう音は消え去り。
眼もほとんどが見えなくなった。
仰向けに倒れた
カントリーマンの眼に飛び込んできたのは人影。
それは誰か。
白髪鬼ならいいと思った。
城戸真司なら何を言うか迷った。
翠星石ならば内心とても嬉しい。
「実験につきあってくれてありがとう」
カントリーマンの顔を覗き込んでいたのはヨキ。
それも数人ではきかない。
最低でも数十人の。
最強の護神像の群れ。
「禁止エリアを用いるのは有効な案だった。
実際は首輪を喪うことで闇を呼び寄せて死ぬのだけれどね」
柔らかに微笑んでヨキの群れは囁いた。
「爆発のダメージは寸前で首輪を外したから、ない。
闇を呼び寄せるペナルティは私には存在しない。
さて、どうしてかわかるかい。カントリーマン?」
「が、あぁっ…………」
「私が《JOKER》だからさ」
&color(red){【カントリーマン 死亡確認】}
&color(red){【残り 15名】}
【C‐5/一日目/午後】
【ヨキ@WaqWaq】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、BMによる火傷 (処置済み)、
スプンタ・マンユはクシャスラの能力使用可能、首輪解除
[装備]:スプンタ・マンユ(玉四つ、ドラグブラッカー、蒼星石のローザミスティカ、クシャスラ完食)
@WaqWaq、ヒミコのレーダー@BTOOOM!、スタンガン@BTOOOM!、
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して赤き血の神を抹殺する
1:動く。
※神の血をあびたことで身体能力大幅上昇
※どれほどパワーアップしたのかは後続にお任せします
【翠星石@ローゼンメイデン】
[状態]:
[装備]:庭師の如雨露@ローゼンメイデン 、
護神像アールマティ@waqwaq、カントリーマンの玉四つ@ブレイブ・ストーリー~新説~
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針: 闘わないで済む世界が欲しい
1:…………
[備考]
※参戦時期は蒼星石の死亡前です。
※waqwaqの世界観を知りました。シオの主観での話なので、詳しい内容は不明です
※護神像アールマティに選ばれました。
※シオとヨキが黒き血の人であることを知りました。
これは賢人と鬼が対峙する前。
何か優雅なものはないかと白髮鬼が老人ホームを荒らしていたときのこと。
視界の隅で誰かが動く気配がして
迷わずそこへと銃弾を撃つ。
「いきなり銃なんて撃ったら危ないですよ!」
冷や汗を浮かべて銃弾を掴みとっている闖入者は少年の姿をしていた。
黒曜石の肌をして、黒色のシャツと革のパンツを着ていた中学生くらいの平凡な。
「すまんすまん。
お前さんもいきなり現れんでくれよ。
撃たれても文句は言えんぞ」
からからと笑うと銃口を改めて少年へと向け直し。
クシャスラを待機させ、相手の出方を見た。
「僕にはわかるんです。
あなたが英雄を求めていることを」
「んん? 盗聴の記録でも覗いたのか?
べつに大した秘密でもないぞ」
「そういう意味ではなくて」
「オンバ」
頭を掻いて困惑していた少年の表情は白髪鬼の言葉でぴしりと固まった。
「……何故わかった?」
「そもそも儂はその少年の死体見をとるんじゃが……
カントリーマンからその名前を聞いとったし。
タイミング的にはそれ以外なかろうて」
「おや、主がワタルを殺したのかえ?」
「いや違う。
違うから殺気で家具類を破壊するのはよせ」
オンバの発した気迫、
想いが呼び寄せた波が周囲の家具を粗方壊しつくし。
老人たちの憩いの場を廃墟へと変える。
「あーあー。
せっかくヨキくんと優雅に
茶飲み室内決闘をしようと思っておったのに」
「御託はいい。
妾には賢者二人を出し抜く手駒が必要ぞ」
胸ぐらを剛力で掴み上げ、
白髪鬼を持ち上げたオンバはそう告げた。
「ふむ、何故儂を?」
「おぬし、”願い”は?」
「楽しんで死ぬ。
そのための英雄道よ」
「はっ」
窮地においても眉ひとつあげず答えた白髪鬼に
オンバは破顔し、獰猛に嗤う。
「それでよい。
それでこそ鬼じゃ。悪魔じゃ」
白髪鬼を下ろしたオンバは
鬼の胸元に人差し指をあてて、上目遣いに見上げた。
「ゆえに勇者殺したであろう
人やヒトモドキよりよほど信頼出来る」
そうして、白髪鬼とオンバは手を組んだ。
「賢人を出しぬき、死を装え。
離脱は妾も手助けしてやろう。
その後、妾に勇者の剣を献上すれば。
お主に大義の道を歩ませてやろう」
たった一つの餌とともに。
「蜘蛛の糸に征き、コトどもを殺せ」
【蜘蛛の糸/一日目/午後】
【津幡共仁@銀齢の果て】
[状態]:疲労(大)
[装備]:カードデッキ(龍騎)、サバイブ(烈火)、チャンの玉@ブレイブ・ストーリー~新説~
[道具]:基本支給品×3、簡易工具セット、輸血パック(各種血液型、黒い血のも)、首輪解除
ワタルを打ち抜いた弾丸 、月の石@金色のガッシュ!!、 レーダー@BTOOOM!、ワルサー予備弾×16、
レオパルドン・パピプリオの首輪、ワタルの首輪(分解済み)、不明支給品0~1
[思考・状況]
基本行動方針:オンバの要求を呑み。英雄として行動する
1:これだから人生は面白い!!!!!
※ブレイブ・ストーリー~新説~側の事情をだいたい把握しました。
※ローゼンメイデンの事情をだいたい把握しました。
※バトルロワイアルの事情をだいたい把握しました。
※ワタルの首輪を分解しました。
造りはガダルカナル22号と同じようです。
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