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「Say good bye And Good day」(2013/02/11 (月) 21:04:15) の最新版変更点
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*Say good bye And Good day
「君が辿り着くだろうとは思っていたよ」
交わらない黄金螺旋階段。
孤独に、ぶつかりあうことも調和することもなく伸びるもの。
命の理にもっとも近い形ではあったが。
伊賀忍、薬師寺天膳が歩いてきた道は鍍金のようなくすみが見えた。
「君は誰よりもひとりだからね。
敵を嘲笑い、味方をも利用し。
己の主君すら覇道の道具でしかない。
死なず、老いず。君はそんな身を嘆くこともない愚物。
先立った者達の命を惜しんだこともないだろう。だから、君を助けた」
薬師寺天膳は無言。
この男は真には如何なる話も聞くことがない。
聞かず、聴かず、効かず。
すなわち不敵である不死。
「勝ちを確信した敵を背中から討つ君にこそ。
僕の宿願の贄に相応しい。さあ、述べろ。君の”願い”を」
女神、黄金そのものである無垢なる存在であったはずの一柱。
宇宙の彼方にて永遠に微睡む言い表しがたき存在。
そのヴェールが剥がれれば、見えるのは《無色》の青年。
みすぼらしいシャツを着ただけで、何の装飾具もつけてなく。
「――――――――!!」
薬師寺天膳は”願い”を告げた。
両腕を広げて高らかに己の野望を謳った。
その顔は達成感に眩しくも輝き、
足元より伸びた栄華の絨毯を踏みしめているよう。
微笑みは嘘。
クリア・ノートは表情を変えない。
「それが君の”願い”なんだね。
誰もが持っている浅ましく、くだらないものだ。
他者を蹴落とし、甘い汁を啜ることを求めている。
だからこそ、望ましい。叶えよう。
喩え、その形が歪に過ぎたものだろうと、かまわないだろ?」
そう言って、黄金の玉座。
小さき神々が周囲を踊り。
背後にはフルートの調べが響いていても。
微笑みは虚無。
クリア・ノートは何の感慨も抱かない。
「君のためだけに造られた永遠の今日の中で。
偽りの里を終わりなく孤独に過ごすがいい」
微笑まない、嗤う。
そうして、クリア・ノートは薬師寺天膳を選び、取り込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーー。
王。ここにいるのは《水の王》に《火の王》、
そして機械仕掛けの《土の王》といったところか。
広大なる水盆のリング。透き通った
水面の先には雄大なる大地が暗闇に蝕まれて行っている。
炎を纏った龍の騎士。
《赫龍士》が巨体なる炎熱のエネルギー体を動かして
《防人の剣》を振るった。
空気が溶けて、余波がまた酸素を喰った炎を産み出す。
そして、その炎は粘つき、消えることがなく。
酸素を喰っては産まれ、喰っては産まれと急速に世界を侵していく。
「桐山、今だ!」
《蒼竜騎》が剣を握り、小さく構える。
「三星の構え」
水の流れのようにゆったりと、握りは弱く、
踏み込みは、低く。縫うようにして炎の間を滑る。
「歩法・川流れ」
だが炎で機械の巨人の逃げ場を無くしたということは
逆に言えば攻める隙間も限定されるということ。
「この巨人には未来日記が直接リンクされてある。
だから、全てを読めるし、わかっている。桐山くん、遅いよ!」
機械の巨人の頭部が開かれ、
放射線状に機械が散っていくと、現われたのは巨大な砲。
乱れ撃つのは”願い”のエネルギーを溜めに溜めた連弾の攻撃。
一発にこめられた年月はおよそ百年分、それが五発。
「防人流剣術、七の弦」
刀身に渡った水を超振動させ、
数mmの繊細さで砲撃をいなしていく。
逸れた砲撃、超高密度エネルギー体はそのまま空を翔け。
道行く雲という雲に隧道を開けていった。
「桐の突き」
息する暇も与えずに、
桐山は山脈ほどもある
大きさの剣を直線で巨人の喉元へと刺す。
刺突は、惜しくも巨人の重ねられた両手を貫くだけにとどまり。
胴体を蹴られるまえに宙を大きく飛んだ。
「今のワザマエ、すべてに実在の人物の名前を取り入れてある。
どうしてかわかるか? 天野雪輝」
「その方がロックだからっていうんだろ!?」
「違う。その方がかっこいいからだ」
事もなげに言う桐山に対して
雪輝は咆哮を上げながら腕を振りかぶって殴りかかった。
「俺を忘れるなよ?」
雪輝が桐山を殴ろうとしたのは左腕。
だがそこに、レオの黄金龍が喰らいつく。
粘焼の牙が機械の腕に噛みつくと、
そこから毒に感染したかのように
炎が密集した機械の表面へ燃え移っていく。
炎の侵食は左腕をたちまち覆い。
隙を逃さず横一文字の薙ぎ払いを
レオの《防人の剣》が放つ。
雪輝は逃れられない。
チャンの拳法をインストールしていても。
燃えきった左腕と炎で制限された
足場の中では出来る事など知れていた。
機械の巨人の左腕が切り落とされた。
重々しい音と圧倒的な風圧を巻き起こして左腕が落下し、燃え尽きていく。
「さあ、これで――」
「ひとつだけ、訊きたい」
首元まで機械の蟲達が来ているなか、
静謐な声で桐山は問いかける。
「おまえの”願い”は、すべてを救うことじゃなかったんだな」
「……そうだよ。僕の”願い”は、愛する人と一緒にいることだ。
夢は、諦めて。愛を、選んだのが僕なんだ!!」
「よくわかった」
パリッ、と電撃が大きく鳴った。
「お前は傍観者じゃなかった。
神ではなく、人間だった。
ワイルドセブンがおまえの本音を引き出してくれた」
機械の海の中で雪輝は眉を顰めた。
怪訝な声で、近くより鳴る不協和音に耳を澄ませた。
「模倣ではない、モノマネでもない。これが、俺の意思で求めた才能。
コピーではなく、クリエイト。物語を創る。
――《神業級職人(マエストロ)》の右手。雷電が導く機体のほつれを掴みとれ」
桐山の右手の指が鍵盤に踊る奏者のようにリズムよく動く。
右手が動かずとも、伸ばすことができなくても、
《神業級職人》には指があれば全てが織れる。
機械の巨人の胸部分、
勇者ミツルが最後に遺していた雷がそこに燻っていて。
桐山の指の動きに連動し、機械の巨人の体躯を大きく縦に裂いていく。
「なっ、いつのまにこんなことを!?」
「機会は何度もあった。
おまえの未来日記はアカシックレコードでは決してない。
この世界に、秋瀬或はいない。お前が、殺したんだから」
縦に裂けて、雷電にて二つに割れた機械の巨人。
「もういっぱぁぁぁつっ!!!」
駄目押しとばかりに、
解放されたレオが《防人の剣》で胴体を纏めて斬り裂いた。
##########
【未来日記:無差別日記】
1st.天野雪輝の前にて起こるあらゆる出来事を予知することが出来る。
しかし、その最大の弱点は傍観者の性質の強さから
己の身に起こる出来事を全く予知できない。
【備考】
この弱点は2nd.我妻由乃の雪輝日記と
併用することで完璧に補うことができる。
##########
ばらばらにほつれて、機械の巨人が崩れ落ちる。
統率を失った機械の群れ達は何処かへと飛び去って、
天野雪輝は床に這いつくばった。
「まだだ! まだ柿崎めぐは生きている。
もう一度、もう一度!!」
近くに横たわった無傷の柿崎めぐへと雪輝は手を伸ばした。
柿崎めぐの側にはプラが立って、悲しげに雪輝を見ていた。
いざというときに核への攻撃から守るために守護させていた
オーディンのミラーモンスター・ゴルドフェニックスが解き放たれて柿崎めぐへと襲いかかった。
「邪魔だよ!」
雪輝が手を払うだけで
ゴルドフェニックスの因果律が崩壊し、黒球に呑まれた。
「さあ、もう一度だ! もう一度!!!!!」
妄執、狂気、どれもが天野雪輝の瞳にはない。
ただひたすらに、望むだけ。
けれど、天野雪輝の声は届かない。
代わりに、柿崎めぐの体が光りに包まれて、天へと昇った。
同行者だったプラは柿崎めぐにしがみついてチーと鳴きながら一緒に昇っていく。
何をも掴まなかった雪輝の手は虚しく伸びきったまま。
「…………どうして!?
女神! 今更に僕の邪魔をするのか!!
それが、貴女の理だろう! 世界の理だろう!
僕の”願い”を――――阻むな!」
クエスチョン:女神とは?
「…………は?」
天から降りてきた言葉に雪輝は耳を疑った。
女神は、どこにもいない。
《時空王》デウス。君の求める道標は
この千里眼で全てを見通してもどこにも、観測できなかった
「――――嘘だ!!
嘘だと言えよ!! 僕をからかってるのか女神!
だって、それじゃあ……誰も救われないじゃないか!!」
クエスチョン:救いとは?
「誰もが幸せになれることだよ!!
でも、それはいい。さあ、名前も知らない君!
なら、僕の”願い”を叶えて、世界を救ってくれ!」
拒否する。
「はあ!?」
世界に人が奉じるような救いの神はいなかった。
死んだのではなく、始めからいない。
神と喚べる一柱はもはや、君だけだ。
君は…………ひとりだ。
「だから、そんな僕を憐れんで救ってくれ!!」
僕の名前は
私の名前は
俺の名前は
我の名前は
クリア・ノート
気づけば黄金の玉座に据えられていた魔物
すべてをクリアにせよと
見知らぬ誰かに課せられた使命を遂行する魔物
「…………嫌だっ! 嫌だッ! 嫌だよぉっ!
じゃあ、僕はなんで人を殺したの!?
高坂も、日向も、まおちゃんも秋瀬くんも!
ガッシュも北岡さんもウマゴンも神崎もミツルもティオも雪華綺晶も!
七原……ワイルドセブンだって僕が殺したんだよ!?」
意味はない
誰もが目を逸らそうと気づく真理
「やめて! そんなことを言うのはやめてよ!!」
君が殺しただけだ
「違う!!」
君が自分の意思で殺しただけだ
「僕は、僕はただ!!!」
報いも罰も褒美もない
柿崎めぐの体が黄金の満月に到達し。
「幸せになりたかっただけなんだよ!」
さようなら、天野雪輝
別れの言葉を最後に天からの声は途絶えた。
「――――ふざけるなよ」
ゆらりと、力なく雪輝は立ち上がった。
その瞳はもう何も映してはいない。
虚ろな顔で、桐山とレオを見た。
「なんだよ、それ!
なんだなんだなんだなんだなんだなんだ!!
なんだよおかしいだろどうして僕は! 由乃!!」
「「特攻形」」
桐山は右手を伸ばす。
レオは左手を伸ばす。
「ハルワタート」「アールマティ・アシャ」
「嘘さ! こんなのは駄目だ間違ってる
みんなもそうおもうだろうねえそういってよ
ゆのとうさんかあさんこうさかあきせくん!」
「おまえのことは、正直、色々殴りたいと思うが。
俺はやっぱ、お前のこと色んな意味で否定できねえ」
レオが半狂乱になった雪輝を悲痛な面持ちで見る。
「……すまない。おまえのことをどうしようもできない。
おまえの疑問に俺達はまだ答えられない」
だから、と彼らは言った。
「――――連れて行く。おまえを」
螺旋状に渦巻く護神像。
赫と蒼の穿孔形態は寸分違わず天野雪輝を狙った。
定めて、突撃する。
「…………ああっ!!」
為すすべなく雪輝は二つの攻撃を同時に喰らい。
黄金の月ではない、慣性をも無視した直線に吹き飛ばされていく。
特攻形は桐山とレオの体から離れて、どんどんと雪輝を空へと連れて行く。
「な、んだよ、僕を何処に連れて行くんだ!!
この世界の外にはもう、何もないのに!」
「だから、俺達が今から世界を救ってくる」
「それまで、おまえは世界の外側で待っていてくれ」
雪輝の体がどんどん削れていく。
足先から崩れ、溶けて、風化していき。
それでも神である雪輝は死なない。
《時空王》である天野雪輝はこの程度では、死ねない。
「嫌だ、嫌だ! それでどうなるっていうんだ!
死んだ人間はなにも帰ってこない!!
僕の帰ってくる場所も! 待ってくれる人も、いないんだよ!!」
「じゃあ、俺達がお前のことを伝えてやる。
お伽噺としてでもな」
「すべてを奪われて、神にならなければならない運命に翻弄されてもなお、
愛する人と観る星を望み続けた神がいると。俺達が伝えていく。
おまえが帰ってきてもさみしくないように」
地平線の彼方、世界と外宇宙との境界線にまで追いやられた
天野雪輝にはもう、桐山とレオの姿は見えない。
左腕が削られて、落ちた。
「どんな有様になってでも、どんな心になっても、戻ってきな」
「無限大の彼方から、宇宙の外から。
何年、何千年かかっても、戻ってこい。
帰ってきてから、おまえが観た世界を見てから。
おまえが何を求めるかもう一度決めるんだ」
体を構成する要素は凡そ全て喪われている。
今や天野雪輝を構成しているのは右腕と、頭部の右半分のみ。
「桐山ぁぁぁぁぁぁぁぁ! レオナルドぉぉぉぉぉぉ!!」
「三千年後にまた会おうぜ」
「ヨグに匹敵しかねない力を持ってもなお、愛を捨てなかった人間。
覚えていろ、この世界にはおまえを待つものがいることを!!
おまえにかける言葉はただひとつだ、天野雪輝」
世界から天野雪輝は消えていく。
誰にもわからない場所へ天野雪輝は追いやられる。
思考も一旦は乱れ、聴覚も正常に機能しなくなっていく。
「――――走れ!!」
最後に天野雪輝は想う。
自分が愛した彼女を、自分に手を差し伸べた人達を。
自分が殺めてきた人々を。
きっと、それはすべて同じ人だった。
愛して、殺して、”願い”を求めた。
――けれども。
「………………ちくしょぉ」
天野雪輝は確かに覚えた。
自分を待つ人がいるということを。
&color(red){【天野雪輝 ゲーム追放】}
&color(red){【残り ”3”名】}
空をつんざく音が上よりやってきて。
桐山とレオを襲った。
咄嗟に展開する硬化シールド。
間に合わない。弱すぎた。
二人もろとも死ぬ。
だがその直前にレオは桐山を突き飛ばし。
光線がレオの胸を抉った。
【午前零時 突入】
|[[箱庭世界の果て]]|投下順|[[彷徨う少年達の乱痴気騒ぎ]]|
|[[箱庭世界の果て]]|時系列順|[[彷徨う少年達の乱痴気騒ぎ]]|
|[[箱庭世界の果て]]|天野雪輝|&color(red){GAME END}|
|~|桐山和雄|[[彷徨う少年達の乱痴気騒ぎ]]|
|~|レオナルド・エディアール|~|
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*Say good bye And Good day
「君が辿り着くだろうとは思っていたよ」
交わらない黄金螺旋階段。
孤独に、ぶつかりあうことも調和することもなく伸びるもの。
命の理にもっとも近い形ではあったが。
伊賀忍、薬師寺天膳が歩いてきた道は鍍金のようなくすみが見えた。
「君は誰よりもひとりだからね。
敵を嘲笑い、味方をも利用し。
己の主君すら覇道の道具でしかない。
死なず、老いず。君はそんな身を嘆くこともない愚物。
先立った者達の命を惜しんだこともないだろう。だから、君を助けた」
薬師寺天膳は無言。
この男は真には如何なる話も聞くことがない。
聞かず、聴かず、効かず。
すなわち不敵である不死。
「勝ちを確信した敵を背中から討つ卑劣な君にこそ。
僕の宿願の贄に相応しい。さあ、述べろ。君の”願い”を」
女神、黄金そのものである無垢なる存在であったはずの一柱。
宇宙の彼方にて永遠に微睡む言い表しがたき存在。
そのヴェールが剥がれれば、見えるのは《無色》の青年。
みすぼらしいシャツを着ただけで、何の装飾具もつけてなく。
「――――――――!!」
薬師寺天膳は”願い”を告げた。
両腕を広げて高らかに己の野望を謳った。
その顔は達成感に眩しくも輝き、
足元より伸びた栄華の絨毯を踏みしめているよう。
微笑みは嘘。
クリア・ノートは表情を変えない。
「それが君の”願い”なんだね。
誰もが持っている浅ましく、くだらないものだ。
他者を蹴落とし、甘い汁を啜ることだけを求めている。
だからこそ、望ましい。叶えよう。
喩え、その形が歪に過ぎたものだろうと、かまわないだろ?」
そう言って、黄金の玉座。
小さき神々が周囲を踊り。
背後にはフルートの調べが響いていても。
微笑みは虚無。
クリア・ノートは何の感慨も抱かない。
「君のためだけに造られた永遠の今日の中で。
偽りの里を終わりなく孤独に過ごすがいい」
微笑まない、嗤う。
そうして、クリア・ノートは薬師寺天膳を選び、取り込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーー。
王。ここにいるのは《水の王》に《火の王》、
そして機械仕掛けの《土の王》といったところか。
広大なる水盆のリング。透き通った
水面の先には雄大なる大地が暗闇に蝕まれて行っている。
炎を纏った龍の騎士。
《赫龍士》が巨体なる炎熱のエネルギー体を動かして
《防人の剣》を振るった。
空気が溶けて、余波がまた酸素を喰った炎を産み出す。
そして、その炎は粘つき、消えることがなく。
酸素を喰っては産まれ、喰っては産まれと急速に世界を侵していく。
「桐山、今だ!」
《蒼竜騎》が剣を握り、小さく構える。
「三星の構え」
水の流れのようにゆったりと、握りは弱く、
踏み込みは、低く。縫うようにして炎の間を滑る。
「歩法・川流れ」
だが炎で機械の巨人の逃げ場を無くしたということは
逆に言えば攻める隙間も限定されるということ。
「この巨人には未来日記が直接リンクされてある。
だから、全てを読めるし、わかっている。桐山くん、遅いよ!」
機械の巨人の頭部が開かれ、
放射線状に機械が散っていくと、現われたのは巨大な砲。
乱れ撃つのは”願い”のエネルギーを溜めに溜めた連弾の攻撃。
一発にこめられた年月はおよそ百年分、それが五発。
「防人流剣術、七の弦」
刀身に渡った水を超振動させ、
数mmの繊細さで砲撃をいなしていく。
逸れた砲撃、超高密度エネルギー体はそのまま空を翔け。
道行く雲という雲に隧道を開けていった。
「桐の突き」
息する暇も与えずに、
桐山は山脈ほどもある
大きさの剣を直線で巨人の喉元へと刺す。
刺突は、惜しくも巨人の重ねられた両手を貫くだけにとどまり。
胴体を蹴られるまえに宙を大きく飛んだ。
「今のワザマエ、すべてに実在の人物の名前を取り入れてある。
どうしてかわかるか? 天野雪輝」
「その方がロックだからっていうんだろ!?」
「違う。その方がかっこいいからだ」
事もなげに言う桐山に対して
雪輝は咆哮を上げながら腕を振りかぶって殴りかかった。
「俺を忘れるなよ?」
雪輝が桐山を殴ろうとしたのは左腕。
だがそこに、レオの黄金龍が喰らいつく。
粘焼の牙が機械の腕に噛みつくと、
そこから毒に感染したかのように
炎が密集した機械の表面へ燃え移っていく。
炎の侵食は左腕をたちまち覆い。
隙を逃さず横一文字の薙ぎ払いを
レオの《防人の剣》が放つ。
雪輝は逃れられない。
チャンの拳法をインストールしていても。
燃えきった左腕と炎で制限された
足場の中では出来る事など知れていた。
機械の巨人の左腕が切り落とされた。
重々しい音と圧倒的な風圧を巻き起こして左腕が落下し、燃え尽きていく。
「さあ、これで――」
「ひとつだけ、訊きたい」
首元まで機械の蟲達が来ているなか、
静謐な声で桐山は問いかける。
「おまえの”願い”は、すべてを救うことじゃなかったんだな」
「……そうだよ。僕の”願い”は、愛する人と一緒にいることだ。
夢は、諦めて。愛を、選んだのが僕なんだ!!」
「よくわかった」
パリッ、と電撃が大きく鳴った。
「お前は傍観者じゃなかった。
神ではなく、人間だった。
ワイルドセブンがおまえの本音を引き出してくれた」
機械の海の中で雪輝は眉を顰めた。
怪訝な声で、近くより鳴る不協和音に耳を澄ませた。
「模倣ではない、モノマネでもない。これが、俺の意思で求めた才能。
コピーではなく、クリエイト。物語を創る。
――《神業級職人(マエストロ)》の右手。雷電が導く機体のほつれを掴みとれ」
桐山の右手の指が鍵盤に踊る奏者のようにリズムよく動く。
右手が動かずとも、伸ばすことができなくても、
《神業級職人》には指があれば全てが織れる。
機械の巨人の胸部分、
勇者ミツルが最後に遺していた雷がそこに燻っていて。
真っ赤な水が桐山と雷を介し、雷電が伝った。
桐山の指の動きに連動し、機械の巨人の体躯を大きく縦に裂いていく。
「なっ、いつのまにこんなことを!?」
「機会は何度もあった。俺とお前は何度もぶつかった。
おまえの未来日記はアカシックレコードでは決してない。
この世界に、秋瀬或はいない。お前が、殺したんだから」
縦に裂けて、雷電にて二つに割れた機械の巨人。
「もういっぱぁぁぁつっ!!!」
駄目押しとばかりに、
解放されたレオが《防人の剣》で胴体を纏めて斬り裂いた。
##########
【未来日記:無差別日記】
1st.天野雪輝の前にて起こるあらゆる出来事を予知することが出来る。
しかし、その最大の弱点は傍観者の性質の強さから
己の身に起こる出来事を全く予知できない。
【備考】
この弱点は2nd.我妻由乃の雪輝日記と
併用することで完璧に補うことができる。
##########
ばらばらにほつれて、機械の巨人が崩れ落ちる。
統率を失った機械の群れ達は何処かへと飛び去って、
天野雪輝は床に這いつくばった。
「まだだ! まだ柿崎めぐは生きている。
もう一度、もう一度!!」
近くに横たわった無傷の柿崎めぐへと雪輝は手を伸ばした。
柿崎めぐの側にはプラが立って、悲しげに雪輝を見ていた。
いざというときに核への攻撃から守るために守護させていた
オーディンのミラーモンスター・ゴルドフェニックスが解き放たれて柿崎めぐへと襲いかかった。
「邪魔だよ!」
雪輝が手を払うだけで
ゴルドフェニックスの因果律が崩壊し、黒球に呑まれた。
「さあ、もう一度だ! もう一度!!!!!」
妄執、狂気、どれもが天野雪輝の瞳にはない。
ただひたすらに、望むだけ。
けれど、天野雪輝の声は届かない。
代わりに、柿崎めぐの体が光りに包まれて、天へと昇った。
同行者だったプラは柿崎めぐにしがみついてチーと鳴きながら一緒に昇っていく。
何をも掴まなかった雪輝の手は虚しく伸びきったまま。
「…………どうして!?
女神! 今更に僕の邪魔をするのか!!
それが、貴女の理だろう! 世界の理だろう!
僕の”願い”を――――阻むな!」
クエスチョン:女神とは?
「…………は?」
天から降りてきた言葉に雪輝は耳を疑った。
女神は、どこにもいない。
《時空王》デウス。君の求める道標は
この千里眼で全てを見通してもどこにも、観測できなかった
「――――嘘だ!!
嘘だって言えよ!! 僕をからかってるのか女神!
だって、それじゃあ……誰も救われないじゃないか!!」
クエスチョン:救いとは?
「誰もが幸せになれることだよ!!
でも、それはいい。さあ、名前も知らない君!
なら、僕の”願い”を叶えて、世界を救ってくれ!」
拒否する。
「はあ!?」
世界に人が奉じるような救いの神はいなかった。
死んだのではなく、始めからいない。
神と喚べる一柱はもはや、君だけだ。
君は…………ひとりだ。
「だから、そんな僕を憐れんで救ってくれ!!」
僕の名前は
私の名前は
俺の名前は
我の名前は
クリア・ノート
目覚めた時には黄金の玉座に据えられていた魔物
すべてをクリアにせよと
見知らぬ一者に課せられた使命を遂行する魔物
「…………嫌だっ! 嫌だッ! 嫌だよぉっ!
じゃあ、僕はなんで人を殺したの!?
高坂も、日向も、まおちゃんも秋瀬くんも!
ガッシュも北岡さんもウマゴンも神崎もミツルもティオも雪華綺晶も!
七原……ワイルドセブンだって僕が殺したんだよ!?」
意味はない
誰もが目を逸らそうとも突きつけられる真理
「やめて! そんなことを言うのはやめてよ!!」
君が殺しただけだ
「違う!!」
君が自分の意思で殺しただけだ
「僕は、僕はただ!!!」
報いも罰も褒美もない
柿崎めぐの体が黄金の満月に到達し。
狂乱を露わにして唾と涙と鼻水にまみれた顔で雪輝は月に乞うた。
「幸せになりたかっただけなんだよ!」
さようなら、天野雪輝
別れの言葉を最後に天からの声は途絶えた。
「――――ふざけるなよ」
ゆらりと、力なく雪輝は立ち上がった。
その瞳はもう何も映してはいない。
虚ろな顔で、桐山とレオを見た。
「なんだよ、それ!
なんだなんだなんだなんだなんだなんだ!!
なんだよおかしいだろどうして僕は! 由乃!!」
「「特攻形」」
桐山は右手を伸ばす。
レオは左手を伸ばす。
「ハルワタート」「アールマティ・アシャ」
「嘘さ! こんなのは駄目だ間違ってる
みんなもそうおもうだろうねえそういってよ
ゆのとうさんかあさんこうさかあきせくん!」
「おまえのことは、正直、色々殴りたいと思うが。
俺はやっぱ、お前のこと色んな意味で否定できねえ」
レオが半狂乱になった雪輝を悲痛な面持ちで見る。
「……すまない。おまえのことをどうしようもできない。
おまえの疑問に俺達はまだ答えられない」
だから、と彼らは言った。
「――――連れて行く。おまえを」
螺旋状に渦巻く護神像。
赫と蒼の穿孔形態は寸分違わず天野雪輝を狙った。
定めて、突撃する。
「…………ああっ!!」
為すすべなく雪輝は二つの攻撃を同時に喰らい。
黄金の月ではない、慣性をも無視した直線に吹き飛ばされていく。
特攻形は桐山とレオの体から離れて、どんどんと雪輝を空へと連れて行く。
「な、んだよ、僕を何処に連れて行くんだ!!
この世界の外にはもう、何もないのに!」
「だから、俺達が今から世界を救ってくる」
「それまで、おまえは世界の外側で待っていてくれ」
雪輝の体がどんどん削れていく。
足先から崩れ、溶けて、風化していき。
それでも神である雪輝は死なない。
《時空王》である天野雪輝はこの程度では、死ねない。
「嫌だ、嫌だ! それでどうなるっていうんだ!
死んだ人間はなにも帰ってこない!!
僕の帰ってくる場所も! 待ってくれる人も、いないんだよ!!」
「じゃあ、俺達がお前のことを伝えてやる。
お伽噺としてでもな」
「すべてを奪われて、神にならなければならない運命に翻弄されてもなお、
愛する人と観る星を望み続けた神がいると。俺達が伝えていく。
おまえが帰ってきてもさみしくないように」
地平線の彼方、世界と外宇宙との境界線にまで追いやられた
天野雪輝にはもう、桐山とレオの姿は見えない。
左腕が削られて、落ちた。
「どんな有様になってでも、どんな心になっても、戻ってきな」
「無限大の彼方から、宇宙の外から。
何年、何千年かかっても、戻ってこい。
帰ってきてから、おまえが観た世界を見てから。
おまえが何を求めるかもう一度決めるんだ」
体を構成する要素は凡そ全て喪われている。
今や天野雪輝を構成しているのは右腕と、頭部の右半分のみ。
「桐山ぁぁぁぁぁぁぁぁ! レオナルドぉぉぉぉぉぉ!!」
「三千年後にまた会おうぜ」
「ヨグに匹敵しかねない力を持ってもなお、愛を捨てなかった人間。
覚えていろ、この世界にはおまえを待つものがいることを!!
おまえにかける言葉はただひとつだ、天野雪輝」
世界から天野雪輝は消えていく。
誰にもわからない場所へ天野雪輝は追いやられる。
思考も一旦は乱れ、聴覚も正常に機能しなくなっていく。
「――――走れ!!」
最後に天野雪輝は想う。
自分が愛した彼女を、自分に手を差し伸べた人達を。
自分が殺めてきた人々を。
きっと、それはすべて同じ人だった。
愛して、殺して、”願い”を求めた。
――けれども。
「………………ちくしょぉ」
天野雪輝は確かに覚えた。
自分を待つ人がいるということを。
&color(red){【天野雪輝 ゲーム追放】}
&color(red){【残り ”3”名】}
空をつんざく音が上よりやってきて。
桐山とレオを襲った。
咄嗟に展開する硬化シールド。
間に合わない。弱すぎた。
二人もろとも死ぬ。
だがその直前にレオは桐山を突き飛ばし。
光線がレオの胸を抉った。
【午前零時 突入】
|[[箱庭世界の果て]]|投下順|[[彷徨う少年達の乱痴気騒ぎ]]|
|[[箱庭世界の果て]]|時系列順|[[彷徨う少年達の乱痴気騒ぎ]]|
|[[箱庭世界の果て]]|天野雪輝|&color(red){GAME END}|
|~|桐山和雄|[[彷徨う少年達の乱痴気騒ぎ]]|
|~|レオナルド・エディアール|~|
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