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梓「ピックって……あのピックのことですか?」

澪「そうです! その背中のギターですよね・・お願いします!! いっぱいあるので、好きなの選んでいいので!!」

梓「は、はぁ……。まぁ見るだけでしたら構いませんが……」

澪「ありがとうございますぅ!!」パアァ

梓「凄い笑顔だ……。それで、ええと、どこですかピック?」

澪「よいしょっ・・・これですっ!!」ズーン

梓「多っ! あ、でも、これだけあれば掘り出しものも……」

澪「どれがいいですか? 色の多さなら、その辺の色エンピツより負けていませんよ!!」

梓「は、はぁ。色はあんまり気にしないので、素材ですかねぇ……」



  ガサゴソ ガサゴソ

梓(安物が多いなぁ。中古も混じってるっぽい。もしかしてこの人……)

澪「ど、どうですか・・。なにか気に入ったものは・・!!」ワクワク



梓「あのぉ、いつもこういう売り方してるんですか?」

澪「こういうっていうと・・・どういう?」

梓「ですから、全部出して好きなのどうぞーって。良さそうなの一つもないんですけど」

梓「……もしかして、出し惜しみとかしてません?」

澪「あ、いや、ええと・・・ついさっきまであったんですけど・・・」モジモジ

梓「さっきまで?」

澪「実は・・最後の隠しピックのピク美ちゃんを雪玉に入れて投擲しちゃって・・・」

梓(……どういう状況だったんだろう……)

梓「とにかくですけど、全然いいのないです。っていいますか、これほとんどベース向きじゃないですかっ!」

澪「えっ・・!? ピックに向き不向きとかあるんですか?」

梓「当たり前です! おにぎり形とかドロップ形とか、厚みもかなり重要ですが、なんといっても素材命ですね! 

澪「つまり!! つまりこの子たちにも個性があるっていうんだな!!?」

梓「え? はぁ。そりゃあそうですけど」

澪「そうか! ピク助・・ピク次郎・・ピク恵にピク子!! みんな似てるようだけど実は違うんだな!!
  私は嬉しいよ・・・社会の歯車にあてられるような、無個性ピックになんて育っていなくて・・・!!!」

梓「この人なんか気持ち悪い……」



梓「あの、よく分からない感動中のところもう一ついいですか?」

澪「はひ?」

梓「あのですね、毎回「好きなのどうぞ」じゃ良いものから買われていくに決まってるじゃないですか」

梓「そんなんだから安物中古しか残らなくて苦労するんですよ。例えば玉石混交でセット売りとかしないと」

澪「すいません・・。私、可哀想な子なので、その辺のことよく分からなくて・・・」

梓「……はぁ。そうですか……」

澪「あっ! でもでも! 可哀想さ具合だったら凄い自信ありますよ・・!!」

澪「実は、おばあちゃんの新しい旦那さんが、通帳と印鑑奪って行方をくらましちゃったりとか!!!
  ・・あとあと! 実はおばあちゃんの遺産をもらえる人が急に増えたりとか・・!! 他にも色々ピーチクパーチク!!」

梓(本当かなぁ……?)

梓「まぁ色々大変そうなのは分かりましたから……頑張って下さい。私もう」

澪「えっ!? 同情してくれないんですか・・? ピック買って、優越感満たしてみようとか思っちゃったりいかがですか・・!?」

梓「…………」ゾゾゾ

梓「やっぱりこの人気持ち悪いーっ!」ダーッ



澪「・・・あっ、あっ・・」ポツーン



  シーン・・・・ ビュウウゥッ! ・・・シーン・・・

澪「・・・寒い。・・・眠い。でも、お腹へった・・・もう駄目だぁ・・・」

澪「あぁ・・今頃ほとんどの人たちは暖炉の効いた、屋根のある、ふかふかのベッドで・・・」

澪「もう真夜中・・・人がいなかったら、売るもの売れないじゃないかぁ・・・」


  ワァーユキヨー! サイトウミテー スゴイマッシロー♪ 

澪「ん? あれは・・・?」



紬「やっぱり雪は見るものじゃなくて触るものねっ。そー……つ、冷たいいっ!」

斉藤「お嬢様。そうあまりはしゃがれませんよう」

紬「まぁ斉藤。お屋敷に閉じこもってばかりでは運動不足になってしまうわ」

紬「こういう時くらいは……そぉれっ! うふふ、斉藤のお髭が真っ白しろ♪」



澪「・・ふんっ!! 箱入り娘のお嬢様かっ! ちくしょう・・自慢しにきたのか! ちくしょう・・」



紬「あら……。ねぇ斉藤、あの子、あんなところでなにやってるのかしら?」

斉藤「ハッ。あの様な輩は闇に紛れ、下賤な商いを主としているのです。決して近づかれませんよう」

紬「でも、見たところ、私と年格好ほとんど同じくらいの女の子よ。まさかそんな……」

斉藤「左様。ああいった娘たちは末端として利用されているのです。ですが小さくとも悪なのです」

紬「そう……。話しかけてみたかったのだけど、残念ね」

斉藤「さあさあ。明日も早朝からピアノの先生がいらっしゃいます。そろそろ帰りましょう」




澪「・・・はぁ。私も生まれ変わったら、お嬢様になりたいなぁ・・」

澪「そしたら・・毎日使い捨てに鼈甲ピックを使って、ピックを敷き詰めたピック風呂に浸かって・・・どゥへへw」


  ドビュウウウウフォオオオオオッ!!

澪「ざぶぅッ!! へっ・・へっ、へっぐじぃ!! ううぅ寒い、下手なこと考え込んでると凍え死んじゃう・・」

澪「・・・そうかっ! ピック! 寒いなら、こいつを使ってずっと動いていればいいじゃないか!!」



澪「ベー助!! 出番だぞっ!!」


  ベベンベンベン「ハッ!」 ベンンベンベンベ「ヤッ!」


澪「こうやって体を動かし続ければ・・・続ければッ・・・」

澪「あぁ、そういえば今日売り損ねた子たち・・・みんな楽器が使えるっぽかったな・・・」

澪「はじめにドラムの恫喝デコで、次にギターの見せかけ偽善者で、次もギターで毒舌ちびすけ、
  それからピアノ・・・キーボードもできるかな、あのファッキンお嬢様・・・」

澪「なんだ、完璧じゃないか・・!! これで一つのバンドが組めるぞっ!!」

澪「ああっ、もし違う世界で出会っていれば・・きっとあのメンバーで演奏を・・・」



  モヤモヤ モヤモヤァ....

澪「・・んっ。なんだ!? 目の前に眩しい霧が立ち込めてきたぞ・・・」


  そのとき彼女は見たのである。自分を見捨てた少女たちが、楽器を持って微笑んでいる姿を


澪「まぼ・・ろし・・?? いや、違う、本物!! 本物だっ!!!」



澪「なんだ! さっきからそこにいるなら、いるって言ってくれればいいじゃないか!!」

律『・・・・・・』

澪「ちょっ、どうして黙ってるんだよ。さっきまでの威勢の良さはどうした・・!?」

唯『・・・・・・』

澪「ほおら、唯なんて呆れて声もでないじゃないか。全く、律らしくないぞっ!!」

梓『・・・・・・』

澪「あっ、梓ごめんな。真面目に練習しなきゃな。ようし、それじゃそろそろ・・・」

紬『・・・・・・』

澪「ああ、ムギ、分かってるよ。照れくさいけど、いつもフォローありがとうな・・・///」


澪「よおし!! 武道館に向けて、私たちの青春をはじめるぞ・・っ!!」

澪「・・・じゃあまず、第一曲目ッ!!!」


   ...........


澪「ねーし!!」



  そして一夜が明けた。道端にあの少女が、ぴくりとも動かずに横たわっていた

律「えーっと、確かこの辺りだったはずなんだけど……」


律「おー、いたいた! ……って、おい、大丈夫か? おい、昨日のピック売り!」

律「こんなに、こんなに冷たくなって、まさか……」ガシッ

律「し、死んでる……!」


唯「えーとー、どこだっけかなぁ。この辺のはずなんだけどー」

唯「あっ、見つけたぁっ!」

律「ん? えっ? ちょっ、誰だお前」

唯「ほぇ、私? 私はね、昨日ピックを売ってもらおうとしたんだけど、色々あって買えなくて。
  でね、今朝ギー太の練習してたらピックが割れちゃって、やっぱり売ってもらおうと思って来たんだ~」

唯「……なんだけど、ピック売りの子どうしたの? 寝ちゃってるの?」

律「ああ、寝ちゃってるんだ。永遠の眠りの中に……」

唯「!? そっ、そんな……」



律「実は私も昨日、ピックを買ってくれと言われたんだが、色々あって金を払わずに持って帰ってしまって。
  後から、やっぱり返したほうがいいって思って、来てみたんだけど……」

唯「そうだったんだ……」



梓「えーと、この角を曲がったところに」テクテク

梓「こんにちわー。昨日のピック売りさーん。……って、あの、あなたたちは?」

律「あ、もしかしてお前もそのクチか。でも、残念だけど、こいつはもう……」

梓「えっ……ちょっ、ピック売りさん!? まさか!」ユサユサ

律「駄目だ。死んでる」

梓「う、嘘……。ちょうどパパから、ピックをが大量に欲しいって聞かされたところだったのに……」ウルウル

唯「泣きたいなら、泣いていいんだよ」ギュッ

梓「うっ、もっと、もっと早く来れていたら……」ポロポロ

律「私だって、そう思ってるさ……クソッ!」



紬「しゃらんらしゃらんら~、お屋敷抜けだしてきちゃったぁ♪」

紬「これならうるさい斉藤にとやかく言われずに済むわぁ」



紬「こんにちわ~。街角のピック売りさんっ。……って、あら、皆さんは?」

律「おっ、また仲間が増えたみたいだな」

紬「昨日はお話できなかったから、改めて来てみたんだけど。どうして皆さんしんみりしているの?」

紬「あっ、なんて白い顔になって、まさか……!?」

唯「うん。残念だけど、そうみたい」

紬「そう……。そうだったの……」



澪「・・・・・・」チーン

一同「…………」シーン



唯「そういえばこの子、ベース持ってるみたいだけど」

律「ベースか……。一回くらい、こいつとリズムビート刻んでみたかったな。相棒のドラマーとして」

唯「あなたドラムできるんだ!? そしたら、私がリードギター弾きたかったな」

梓「私だって! リズムギターなら任せてください!」

紬「あら。そうしたら私はキーボードで参加しちゃおうかしら」

律「なんだ、みんなほどよくパートが分かれてるじゃないか! こいつがまだ生きてたら、みんなで一緒に演奏できたのにな……」

唯「そうだね。もし生きてたら」

梓「うぅ……それ以上言わないで下さい。また涙が」ウルウル

紬「まぁ。なきむしさんなのね」

梓「そっ、そんなことないですぅ!」カアァ



  『 ピックゥ!! ピック買って下さああァい!!! 』



一同「えっ!?」



純「ピックゥ! ピックはいりませんか!! ピック買って下さああァい!!!」

律「き、君は……君もピック売りの少女か!」

純「あっ、そ、そうです! ピック売ってます! 一つでいいので買っていただけませんか・・!?
  好きなの選んでもらって構わないので!! うちの死にかけのおばあちゃんのために・・・!!!」

唯「はいはい! 買います、一つ買います!」

梓「私は二十個くらい!」

純「わあぁ・・!! あっ、ありがとうございますっ!!」パアァ

紬「ねぇ、ピック売りさん。もしかして……あなたもベースが弾けたりするのかしら?」

純「ベース・・当たり前ですよ!! ベースが弾けなきゃピック売りは務まりません!!」

律「よしきた! お前を今日から私たちのバンドに招待する!」

唯「あっ、いいねぇ! でも、まだお互いのことよく知らないし、とりあえずお茶にしようよぉ」

紬「まぁそれは素敵ね♪ 紅茶とお菓子ならたくさん用意できるわぁ」

純「皆さん・・どうして見ず知らずの私にそこまで・・・」

梓「理由なんてなんだっていいんだよ! さぁ、行こっ!」



澪「・・・・・・」ヒュオオオォ





 こうして一人のピック売りの少女は天へと召されていった....

 しかし忘れないで欲しい。彼女の犠牲が別の誰かを助けたことを....


 おわりである