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澪先輩に彼氏ができた。
それはつまり澪っぱいがどこの馬の骨とも知らぬ男に
穢されるということにほかならない。
嫌だ。
嘘だ。
あの高貴で神聖なる澪っぱいが
きたならしい男のものになってしまうなど
信じたくはない。

ムギ先輩の話によると
澪先輩に彼氏ができたのは合宿から帰ってきた後のことで、
いつも通っている学習塾でバイトをしている大学生に
付き合って欲しいと言われてOKしたらしい。

梓「そんなっ……澪先輩がどこの男と仲良くなってるとか
  誰が澪先輩に惚れてるとか、そういう情報は
  調べてなかったんですかっ」

紬「ごめんなさい、調べていなかったの。
  澪ちゃんが男と仲良くなるようなことがあったら
  まずりっちゃんに相談すると思って……」

梓「……律先輩は何も聞いてなかったんですか」

律「聞いてねえよ……何も聞いてない……
  今日いきなり言われたんだよ……
  『私、彼氏ができたんだ』……って」

梓「そんな」



紬「まさかりっちゃんに何も言わずに
  彼氏を作るなんて思わなかったわ……
  完全に盲点だった」

梓「……み、澪っぱいは……」

紬「もう私たちのものじゃない。彼氏のものよ。
  澪っぱいの会も解散するわ」

梓「解散……」

紬「もともとそういうことになってたのよ。
  会則の第649493条251151項……
  『秋山澪に恋人ができた場合、即刻、会の活動を停止し解散すること』」

梓「……」

紬「諦めましょう。
  結局私たちは傍観者でしかないの。
  観察対象に干渉することは許されない。
  だから澪ちゃんのあるがままを受け入れるしかない。
  これ以上活動を続けても、
  澪っぱいを観察し続けても、
  私たちは澪っぱいが男に穢されていくのを
  黙って見ているしかないの」

ムギ先輩が話し終えると、
唯先輩はいきなり立ち上がって
音楽準備室から飛び出していった。
私はあとを追いかけた。



唯先輩は空き教室の隅でうずくまっていた。

梓「唯先輩……」

唯「やだ……やだよ……
  澪っぱいが男に穢されちゃうなんて……
  そんなのやだぁ……」

梓「私だってイヤですよ……でも……」

唯「どうしようもないのは分かってるよ……
  私たちは澪ちゃんが彼氏とよろしくやってるのを
  見てるだけで……それで何も出来なくて……
  いずれ澪っぱいは……」

梓「……」

唯「やだよ……耐えられない、そんなの……
  私にはもう澪っぱいしかないのに……!!
  澪っぱいだけが私の生きる全てなのにっ!!」

そう叫ぶと唯先輩は赤子のように泣き出した。
唯先輩にとって澪っぱおが生きる全てだという言い方は
大袈裟でも何でもないことは
今までの唯先輩の言動から分かっていた。

逆にムギ先輩は割と冷静だった。
彼女にとってあくまで澪っぱいは
おっぱい道の通過点でしかない、ということだろう。



律先輩は、唯先輩以上に
今回の件についてショックを受けていたようだった。
以前ムギ先輩が言っていた、
律先輩はおっぱいじゃなく澪先輩そのものに依存している、
という話はあながち間違いではないのかも知れない。

唯先輩、ムギ先輩、律先輩、
それぞれ澪っぱいとの接し方は異なる。
では私は?
私はこの事態をどのように受け止めて、
どのような行動を取るべきなのか。
澪っぱいとの別れは決まってしまった。
ならばどのようにして
私と澪っぱいの関係に終止符を打つべきなのか。

ムギ先輩のように、あるがままを受け入れればいい?
唯先輩のように、気が済むまで泣きじゃくれないい?
律先輩のように、ただ絶望に打ちひしがれればいい?

いや、違う。
そんなのはただ諦めているだけだ。
私にはできることがある。
取るべき行動がある。
澪っぱいのために。

梓「……唯先輩」

唯「なに……?」

梓「行きましょう」



唯「行くって、どこへ?」

梓「そんなこと聞かなくても分かっているはずです。
  私たちがどこへ行き、何をするべきなのか」

唯「……」

梓「行きましょう、唯先輩。
  私たちがやらなければいけないことは、ただひとつです。
  私には目の前の現実をただ受け入れることなんて出来ない。
  唯先輩もそうでしょう?」

唯「でもっ……そんなことをしたら」

梓「構いません。
  どちらにせよ終わってしまうことなら、
  私たちの最後のわがままくらい、
  許されたっていいと思いませんか」

唯「それじゃ澪ちゃんが……」

梓「澪先輩のことを傷つけることにはなります。
  でも私が納得する終わりを迎えるためには、これしかない」

唯「……分かったよ、あずにゃん。本気なんだね」

梓「はい」

唯「分かった。私も一緒に行くよ。
  終わらせよう、私たちのすべてを……」



私たちのやろうとしていることは単純明快、
ただ男の手に穢される前に澪っぱいを我が物にしようという
人として最低最悪の行ないであった。
これは私たちのエゴでしかない、
澪先輩のことなど何も考えていない行動である。
しかしこうでもしなければ、
永遠に澪っぱいに縛られて私たちは生きていくことになる。
私たちの中に渦巻く澪っぱいへの欲望を、
澪っぱいに一気にぶちまけてしまうことによって、
私たちは澪っぱいとの決着を付けることが出来るのだ。

私と唯先輩は教室から出て
音楽準備室前の階段の踊り場で澪先輩を待った。

澪先輩を待つ時間は長かった。
いや、実際にはそれほど時間は経っていたわけではないだろうが
私にとっては果てしなく永く感じられた。
その時間の中で私は今までのことを思い返していた。
澪先輩との出会い。澪っぱいの会の定例会議の目撃。合宿での覚醒。
澪っぱいを愛する同志たちとの語らい……

ふと隣を見やると、唯先輩が泣いていた。
唯先輩も私と同じように
思い出を振り返っていたのだろう。
だが澪っぱいとともに過ごした時間は
私よりも唯先輩のほうがずっと長い。
涙を流してしまうのも無理はあるまい。
……と、そこに。

澪「あれ、二人ともこんなとこで何やってるんだ?」



梓「あ……澪先輩っ」

唯「ひっく……ぐすっ」

澪「唯、泣いてるのか……?
  どうしたんだ、何かあったのか」

梓「ああいえ、なんでもありません」

澪「なんでもないようには見えないけど」

梓「いやほんとに何でもないですから大丈夫です。
  それより澪先輩」

澪「何?」

梓「彼氏できたって本当ですか?」

澪「え、ああ、本当だよ……
  あはは、もう梓も知ってたのか」

梓「ムギ先輩に聞きましたから」

唯「うう……ぐすっ」



澪「じゃあ音楽準備室行こうか。
  今日は2学期最初だし、久々にちゃんと練習したいな」

梓「あ、あのっ」

澪「なんだ?」

梓「彼氏とは……その、どこまで」

澪「えっ、ど、どこまでって……」

梓「チューとかしましたか?」

澪「いやいやいやそんなのまままままだだよ……
  まだ付き合って2週間くらいしか経ってないんだし……」

梓「手をつないだりとかも、まだ?」

澪「そう……うん」

梓「ということは……その体はまだ
  男の手で穢されちゃあいない……ってことですね」

澪「は?」

梓「いきますよ唯先輩!」

唯「うぉあぁぁぁぁぁ!」

澪「え!? ええっ!?」



梓「おらあああああああ」

唯「どらっしゃああああ」

澪「うわあああああああ!!」

梓「どおおらあああああ」

唯「うるおああああああ」

澪「ちょ、こら! 何すんだやめろ!」

梓「ううううやああああ」

唯「どるぇいいいあああ」

澪「なっなにをっ、落ち着け二人ともっ!」

梓「どおおああああああ」

唯「ふああああああああ」

澪「ひい、やめろって言ってるだろっ!」

梓「だあばああああああ」

唯「どんぼらあああああ」



私と唯先輩は二人がかりで澪先輩を押さえ込んだ。
澪先輩の抵抗は激しかった。
しかし私たちは抵抗に屈せず、
澪先輩の制服を力づくで脱がせてやった。
まるでクリスマスの朝、
枕元のプレゼントを見つけた子供が
プレゼントを包む綺麗な包装紙を
無造作に破り捨てるかのように。

そしてついに姿を現した。
私たちが崇め讃え奉ってきた
魅惑の澪っぱいが。

私は澪っぱいを生で見るのは初めてだった。
しかし感動している余裕などなかった。
一刻も早くこの澪っぱいを我が物にしたい……
私の頭はそんな考えでいっぱいになっていたのだ。

私と唯先輩は澪っぱいにしゃぶりつき
舐めまわし揉みまわし嗅ぎまわり
頬ずりし齧りつき掴み離し
ただひたすら本能の赴くままに
目の前にある澪っぱいをもてあそんだ。
他のことは何も考えられなかった。
今この瞬間、
私たちの全ては澪っぱいとともにあった。
そしていつの間にか私も涙を流していた。



梓「うっ……うううっ」

なぜ泣けてきたのかは分からない。
悲しみか、達成感か、罪悪感か……
感情を表す言葉はたくさんあるけれど
どんな言葉を以てしても今の私の気持ちは
言い表すことが出来ないような気がした。

唯先輩も泣いていた。
そして涙声で歌い始めた。

唯「乳~のもとにぃ、集いし我ら~ぁ」

私もそれに続いて歌う。

梓「志は、天より高く~」

唯「愛しき乳を~、愛~でるため~っ」

梓「我~ら火の中、水の中~ぁ」

私たちは澪っぱいを揉みながら熱唱した。
泣きながらだったためにほとんど歌えていなかったが
それでも私たちの魂が込められたこの歌は
今この時にこそ歌わなければならなかったのだ。

唯梓「嗚呼、澪っぱーい澪っぱーい澪っぱーい、ともに~歩まん~っ!」

そのあと三番まで私たちは歌い続けた。
澪先輩は転校した。



唐突だが澪先輩はこのあと数日ほど学校を休んだかと思うと
誰にも行き先を告げず転校してしまったのだ。
きっと私たちのしたことが原因だろうが真相は分からない。
また澪先輩は私たちにされたことを誰にも言わなかった。
それゆえ私たちが咎められることもなかった。
これは澪先輩が私たちに情けをかけてくれたのか、
ただ思い出したくなかっただけなのか、理由は不明である。
私は前者として受け取っておこうと思う。

ついでに律先輩も唯先輩も学校に来なくなってしまった。
いや、唯先輩は二日ほど休んだだけだったのだが、
律先輩の方は澪先輩が転校してからずっと不登校を続けている。
澪先輩がいなくなったことが相当堪えたのだろう。
いつも気丈に振舞っているように見えて
割と精神がもろい人だった。

ムギ先輩はいつもと変わらなかった。
まあ、ムギ先輩は澪先輩にそこまで思い入れはなかったようだし
澪先輩がいなくなったところで
「友達が一人減って寂しい」くらいにしか思っていないだろう。

ムギ先輩とはよく音楽準備室でお喋りをする。
音楽準備室に来るのは私たち2人だけだ。
唯先輩は軽音部を辞めてしまった。
彼女にとっては澪っぱいのない軽音部など
参加している意味なんてないのだろう。



紬「どうぞ、紅茶が入ったわよ」

梓「ありがとうございます」

紬「……軽音部も、解散になっちゃったわね」

梓「私と唯先輩のせいですよね」

紬「そうね……ああ、責めているわけじゃないから、
  勘違いしないでね」

梓「……ムギ先輩」

紬「何?」

梓「私と唯先輩がしたことは本当に正しかったのでしょうか」

紬「正しい訳がないわ。
  澪ちゃんを転校に追い込んで、結果としてりっちゃんまで
  不登校になってしまった……
  普通なら退学モノよ」

梓「じゃあなぜあのとき止めてくれなかったんです?
  澪先輩の悲鳴は音楽室まで聞こえていたはずです」

紬「間違いだと分かっていても、止められなかったわ。
  私も梓ちゃんと同じ立場なら、きっとああしただろうし。
  りっちゃんだってそうよ」

梓「……」



紬「色々な人を傷つけてしまったけれど……
  あなたは澪っぱいの会の一員として、
  男よりも先に澪っぱいを自分の手に収めた。
  その功績は讃えなければならないわ」

梓「やめてください。解散したはずでしょう」

紬「そう。表向きは……ね。
  でも現物がなくなったら、そこでその全ては潰えてしまうのかしら?
  釈迦が死んでから2400年も経つけど
  仏教は未だに世界的な規模の宗教として根付いているわ。
  それは釈迦の死後も、人々が教えを語り継いでいったからよ」

梓「どういうことです?」

紬「私たちの心にはまだ澪っぱいが残ってる……
  それがなくなるまでは、
  澪っぱいの会を本当に解散してしまうのは惜しいわ」

梓「……」

紬「まだ終わってなんかいないわ、
  私たちの澪っぱいの会は」

梓「ムギ先輩……」



ムギ先輩は音楽準備室の窓を開け放った。
季節は10月。
残暑もとうに過ぎ去って、
秋晴れの空から爽やかな風が吹きこんでくる。

紬「澪っぱい、ばんざーい!」

いきなり大声を上げて万歳を始めたムギ先輩に
私は一瞬だけ驚いたが
すぐに窓際に走り寄って、ムギ先輩の隣に立った。

梓「澪っぱい、ばんざーい!」

そうだ、澪先輩はいなくなり、
澪っぱいも私たちの前から姿を消したが、
今も澪っぱいは私の心に生き続けているのだ。
澪っぱいが死に絶えることはない。
そして私はその澪っぱいの伝説を
後世に語り継いでいかねばならない。
それが澪っぱいに魅せられた者の使命なのだ。

紬「澪っぱい、ばんざーい!」

梓「澪っぱい、ばんざーい!」

ありったけの想いを込めた万歳三唱は
美しく澄み渡る青空に
どこまでも高く響いていった。

                                                       お         わ                               り