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―――2010年8月13日
ミーンミンミン

夏休みがあと2週間くらいで終わってしまうという時、私達は唯の家で"勉強会"という名のお茶会をやっていた

唯「なぜこんなにも夏休みは早いんだ」
澪「まあそんなもんだろ夏休みなんて」
律「私を置いていかないで~!シクシク」

紬「大丈夫よ、りっちゃん。まだ夏休みは来年もあるわ!」
澪「来年か……一体何やってんだろうな」

唯「来年は海に行こう!」

律「おっいいね!賛成!」

澪「そうだ、来年もそうやって笑っていられるように今精一杯勉強するんだ」

紬「そうよ、今くらいしかできないんだから」

澪(仲間がいるって嬉しいよームギ!)
紬「海水浴は」

澪「そっち!?」



憂「皆さん頑張ってくださいね!私も応援してますよ」

唯「あぅー」グテー
唯「うーいー!」

憂「どうしたの?」
唯「ここわかんなーい」

憂「えっとねここは……」

律(なんで教えてもらってんだよー!)
澪(こんなんで大丈夫なのか……?)


今思い出すと笑い事だが当時はもう先が見えず毎日が鬱だった

この勉強方法で本当に大学に行けるのー、とか

大学に行っても幸せな生活をすることができるのー、とか

でももしかすると私のこの性格には学校の先生というのが性に合っていたのかもしれない

まあまだまだ私は若いから仕事も終電ギリギリの時間に帰らされることも多々あったり、ましてや"あんな部活"の顧問にまでなってしまったのだから毎日が高校時より大変だというのは言うまでもないが




もちろん勉強づくし(?)の夏休みにもたまに部活に行ったりはした


梓「…ってせっかくこうやって集まったのに」


唯「いやー美味しいねー!」

律「おかわり!」

紬「はいはい」

梓「どうしてまたお茶会なんてやってるんですかー!」

唯「どうして………って、ねぇ」

律「ま、まあそういうことだよなあ」

紬「ごめんなさい……私がこんなもの持ってくるからいけないのよね」

澪(いや、実際そうかもしれない)

梓「あ……え…と」




梓(ムギ先輩には怒れない……ってまさか!)

唯「作戦通りだねりっちゃん!」ヒソヒソ

律「だな」ヒソヒソ

梓「う……」

澪「はいはい、練習やるぞー」

唯「えー!」

澪「せっかく集まったのにもったいないだろ…だいたいお茶会なんて夏休み中にも時々やってるって言うのに」

梓「そ、そうですよー!皆さんやりましょうよ!」

律「……んじゃ、やるかあ」





学校に着いた私は車を停め、職員室に向かった

ガラガラガラ

「こんにちはー」


とは言っても今はお盆休み

職員室にはあまり先生方はいなかった


「あー!澪ちゃ…」
「ゴホン」

「こんにちは、秋山先生」ニコッ

澪「そろそろ慣れてくださいよ、山中先生」

さわ子「にしても今日は暑いわねー」

澪「本当ですね」
さわ子「今日は?」
澪「ああ、えーと部活動があって…」

さわ子「"あんな部活"に入って、やっと私の大変さがわかってきたんじゃない?」
澪「"あんな部活"とか言って、先生だってたまに部活に行ってるそうじゃないですか。顧問でもないのに」



さわ子「忘れられないのよ」

澪「?」

さわ子「あの紅茶の味が」

澪「私はとっくに忘れちゃいましたよ」
さわ子「そう。でも今もまだやってくれてるじゃない、お茶会」

澪「いやな伝統ですよ。ろくに練習してくれませんし」

さわ子「あなた達も一緒だったでしょ?」

澪「……まあ」

澪「ってヤバい!時間だ!」

澪「では山中先生」
タッタッタ

さわ子「あらあら……すっかり先生らしくなっちゃって」

さわ子(きっとあの時の私も今の澪ちゃんみたいだったのよね…)

さわ子「……フフ」

さわ子「軽音……ね」




澪「遅刻だ遅刻ー!」

澪「………!」


と、その時階段の前でふと私は歩みを止めた

そう、一瞬あの頃に戻ったような気がしたからだ

大人になってから昔修学旅行で行った場所やよく皆で遊んだ場所にあの懐かしさを求めて出かけてみてもどうもしっくりこないのだが、今はどこか違った


そんな思いを抱きながら再びまた私は歩き始めた


そして思い出す


あの夏の終わりに起こった出来事を




――――2010年8月30日


唯「終業式に戻りたい」

澪「戻ってどうするんだ?」

唯「また夏休みやり直す」

澪「でもいつかまたこの日が来るぞ?」
唯「そ、そしたらまたやり直す!」

澪「そんなの無理なんだからさー受け入れて宿題終わらせたら?」

唯「い、良いもん憂に手伝ってもらうから」

澪「自分でやれ!」
唯「ひどい……ねぇりっちゃんもなんか言ってよー」

律「………」

唯「……りっちゃん?」



律「…へっ?あ、ああそうだ!自力でやっても一向に終わらん!誰かに手伝ってもらうべきだ!」

澪「お前誰に手伝ってもらうんだ?」

律「う……それは」
律「ねー、みーおー手伝ってよー!」

澪「いやだ」

律「けちー!悪魔ー!」

澪「……ったく」

澪「ムギは終わったんだよな?」

紬「もちろんよ。旅行行く前には終わってたわ」

唯・律(これが私達との差か)

澪「…でももう夏休みも終わりか」

唯「いやだな」

紬「私ももうちょっと欲しいわ」



律「………」

澪「律、お前そんなに夏休みが終わるのが辛いのか?」

律「……そ、そんなわけないだろ~!私もう大人だからさー……あはは」


確かにその時私はふと律の異変に気がついていたのだが、私が干渉するまでもないと思い何もしなかった

ただもしかするとこの時何か行動を移せば事態はあれほど酷くはならなかったのかもしれない



―――8月30日19:00

私の家に電話が入った

澪母「ちょっと澪ー?りっちゃん知らないかーだって」

澪「律がどうしたって?」

澪母「それがね、まだ家に帰ってないんだって」

澪「あいつのことだからその辺ほっつき歩いてるんじゃないかな」

澪母「ほら、昨日起きた"あの事件"の犯人、まだ捕まってないんでしょ?」

澪「"あの事件"………?」

澪母「ほら、例の通り魔よ」

澪「あれってまだ捕まってないの?ていうかあれって隣街で起きたんじゃないの?」

澪母「そうなんだけど、噂じゃもう何人も殺してるらしいわよ?」

澪「じゃあちょっとその辺見てくるよ」

澪母「危ないわよ」

澪「大丈夫大丈夫」




通り魔と言っても「誰かが死んだ」という事実はその時はまだなかった


実際「人を殺した」のはあくまで噂であって、その日の前日に起きた事件も被害者の女性は死には陥らなかった


ただ私は律のことが心配でならなかった

―――もしかしたら。


ふとそれを考えただけで私は寒気がしていつもの私ならそこから逃げていたがその時はもうただただ一心不乱になっていた

澪「とりあえず皆にも聞いてみよう」

私は携帯の一斉送信の機能を使ってみんなに連絡を入れた

みんなというのはもちろん軽音部を含めクラスメイト達だった




ただ律を捜すと言っても正確な場所はわからない

律は電話にも出ないしメールにも返信がない

それも含め私は不安で心が押し潰されそうになった

そして憂ちゃんの提案で私達軽音部の面々は唯の家に集まった


紬「まだ見つからないの?」

梓「そうみたいです…」

澪「ったくあのバカ」

唯「でも本当にどこ行っちゃったんだろ…」



憂「律さんが良く行く場所ってどこかわからないんですか?」

澪「よく行く場所……かあ」


アナウンサー「昨夜遅くに女性が何者かに傷つけられた事件で未だに犯人が逃走中です。近隣にお住みの方はくれぐれもご注意ください。」

梓「本当に……何もないといいですね」

澪(律……)




私は音楽室の前に来た

この扉の中には私達の三年間の思い出が詰まっている

それはもちろん楽しい思い出も辛い思い出も

思い出すとちょっと涙が出そうになる

なあ、あの頃の私

私は今輝けているか?

そんな思いを嘲笑うかのように音楽室の中からは女の子らしくはない声が聴こえてきた

澪「…その通りかもな」


私は微笑を浮かべその思い出の詰まった部屋の扉をノックした



――――23:00

澪「……そうですか」ピッ

唯「どう?」
澪「…まだ帰ってきてないってさ」
梓「……警察にはもう連絡を?」

澪「一応したらしい…ただ例の事件が取り込んでるからちゃんと手が回るかわからないらしい」

紬「澪ちゃん…元気出して?」

憂「そ、そうですよ!」

澪「こんな時に元気が出るかよ…」


律『なー、澪』

澪『ん?』

律『この夏さー、ちょっと行きたい場所あんだよねー』

澪『ほう、楽器店か?』
律『違う違う!ここだよここ!』
澪『山……?なんでまた』
律『まー行けばわかるからさー!ね、お願い!』
澪『覚えてたらな』

澪「!」



そんな何気ない会話をふと思い出し私はすぐさま立ち上がった

澪(確かにあの山はそんな遠くじゃない)

澪(まさかあいつ私が約束を忘れたから一人で…?)

梓「どうしたんですか?澪先輩」


澪「ちょっと出かけてくる!」

憂「危ないですよ!もう夜も遅いしそれに……」

澪「あいつが…待ってるから」

澪「それにさ、後悔したくないんだ」

澪「だってほら律と私は」




―――無二の親友。

親友が困っていたら助けるのが当たり前だ

とは言ってもどうしてあの時の私は歩みを止めることなく何にも恐れることはなく前に進めたのか今となってはわからない

私の背中を押してくれたのは律に対する不安や、心配ではなく紛れもない律自身だったんじゃないかと私は思っている


その後私は唯の家を飛び出しその"約束の場所"へと向かった




―――8月31日24:00

もうすでに真っ暗で辺りに人影は見えない

まさかこんな形で夏休みの最終日を迎えることになるなんて私は思ってもいなかった


澪「はぁはぁ……この辺りか……?」

山と一概に言ってもそんなに小さな山じゃなく、一体全体どこを見ればいいのかなんて見当もつかなかったがその時の私はもう止まらなかった

澪「!」

その時人が山から降りてきた

手には望遠鏡

はっと私は気が付いた

澪「すいません」

「ん?どうした?」
澪「この山の星空が見えるスポットってどうやって行けますか?」




「これを上に上がってくだけだよ」

澪「ありがとうございます!」

「でもなんでこんな日に?」

澪「え?」

私は空を見上げた

澪「うそ…」

確かに星空を観察できるような天気では無かった

「言っておくけど星なんて見えないよ」
澪「そうですか…」
「そういや変なお嬢ちゃんがいたな……あいつも『星を見に来た』なんて言ってたから早く帰るよう言ったんだけど」

澪「律だ!」

タッタッタ

「ちょっとあんた!」

澪「ありがとうございました!」

「変な人だ…」

私はその後あの場所を目指して一心不乱に山を登っていった


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