11月4日(木) ▲
11月2日、元警察官のジャーナリスト、黒木昭雄さんが練炭自殺をしたという報道があり、驚いた。>私は前日、ツイッター上で黒木さんの不思議な書き込みを見かけていた。そこには「あなたを信用してお知らせします。私に何かあったら…」とメールアドレスやパスワードが書かれていた。
警察関係の取材をしていると、いろんな覚悟が必要なのね。でも、パスワードなんて公開したら意味ないのに……と、私はそのまま流し読みしていた。その翌日の自殺! だったらあれは黒木さんの遺言ではなかったか。と、慌てて黒木さんのツイートをたどったが、私が見たツイートは既に消されていた。
久々に焦った。何かの状況で黒木さんが送ったSOSを受け取りそびれてしまったのではないかと思ったのだ。もちろん、パスワードもメールアドレスも覚えていない。私ってば、一応マスコミ人なのに、なんでメモぐらい取らないのよ…と自分の無能さを呪った。他の人が記録しているかも…と、同じツイートを見た人がいないかどうかツイッターで尋ねると、何人かの人が黒木さんのツイートを見たと連絡をくれた。
他の人たちは私よりずっと冷静だ。ツイッターには、普通に公開するつぶやきと、特定の人だけにつぶやけるDMという機能がある。黒木さんは、誰かにメッセージを送るつもりが、間違って公開してしまったのだろうというのだ。なるほど。実際、「パスワードが漏れていますよ…」と指摘してあげた人も複数いたようだ。黒木さんは、指摘を受けてツイートを削除したのだろう。だったら、黒木さんのメッセージは、彼が信頼した相手にちゃんと届いているはずだと、ちょっと安心した。
黒木さんは、警察の捜査が間違っていると告発する活動をしていたので、自殺ではなく殺されたのではないかと見る人も多いようだ。が、黒木さんに近い山口一臣氏(週刊朝日編集長)は、「黒木さんの死は周到に準備した覚悟の自殺でした。死をもって岩手県警の疑惑を訴えたのです」「長期にわたる岩手県警追及にもかかわらず、地元メディアが追わないことに黒木さんは強い憤りを感じていました。無力感と憤り。私は、黒木さんの死は憤死だったと思っています」などとツイートしている。
私は黒木さんと面識もないし、ツイッターで会話をしたこともないし、今年になって彼のツイートを読んでいたというだけだが、やはり、黒木さんは自殺だったのではないかという気がする。
黒木さんが取材を手がけていた「岩手県17歳女性殺害事件」は、現在、容疑者として知人の男が指名手配され、県警が公的懸賞金を懸けて行方を追っている。が、黒木さんは犯人は別人で、被害者は容疑者の恋人と同姓同名だったために、間違って殺されたという見方。県警が捜査を見直そうとしないことに強い怒りを訴えていた。
(詳しくは黒木昭雄の「たった一人の捜査本部」参照
http://blogs.yahoo.co.jp/kuroki_aki )
県警の捜査に納得できない黒木さんは、自腹での捜査を続けていたようだ。ツイート上で、黒木さんは県警が動かず、世論も盛り上がらないことを嘆いていた。テレビで取り上げられることになったときには相当期待していたようだが、結果的にはあまり影響力がなく、落胆していたようだった。亡くなる数日前のツイートには「限界」という言葉もあった。
私はただそれを眺めていた。
ツイッターのタイムラインは残酷だ。黒木さんの死を嘆くつぶやきをした人が、数秒後にはおいしい食事についてツイートしたりする。こうして、時の流れとともに、黒木さんの死も忘れ去られてしまうのかもしれない。
黒木さんを殺したのは「警察」だ、「マスコミ」だ…という意見もある。が、私は黒木さんを殺したのは「無関心」なんじゃないかと思う。もちろん、黒木さんを応援する人はたくさんいたけれど、どうしても動かすことのできなかった世論の壁に敗れてしまった印象がある。もしかすると、正しいことを追求することが金銭的な仕事に結びついていかない辛さもあったかもしれない。
権力の壁に一人で立ち向かっている人に、応援のメッセージの一つも送らなかった私は、無関心な大衆の一人である。
「高くて、固い壁があり、それにぶつかって壊れる卵があるとしたら、私は常に卵側に立つ」と村上春樹氏はかつてエルサレム賞のスピーチで述べた。「その壁がいくら正しく、卵が正しくないとしても、私は卵サイドに立ちます」と。
壁に挑む壊れやすい貴重な卵を、私ももっと大切にするべきだった。ましてや、壁が正しくないかもしれないケースでは。