米原女性殺害裁判 難しい状況証拠の立証
8日後、同様に被告が否認していた強盗殺人事件の鹿児島地裁判決は無罪を言い渡した。いずれも裁判員裁判最長となる10日間の審理で、異なる結論が出された。市民から選ばれた裁判員が、状況証拠のみで事実認定ができるのか。両裁判はその試金石となった。
死刑求刑に対して無罪判決を言い渡した鹿児島地裁判決。現場の指紋を証拠採用しながらも「被告が過去に触れた事実が認められるだけ」と判断した。村井敏邦・龍谷大名誉教授は、「状況証拠での立証は被告が犯人でなければ合理的に説明できない事実関係が必要」とした昨年4月の最高裁判決の影響を指摘する。「あれは最高裁から裁判員へのメッセージ。今回の無罪判決は、厳格になった新基準に沿っている」と語る。
難解な審理は、裁判の長期化という問題もはらむ。大津は裁判員選任から判決まで31日間、鹿児島では40日間を要した。最高裁の竹崎博充長官は新年のあいさつで「長時間に及ぶ事件が増加し、生活面でも心理面でも裁判員に大きな負担を求める事態が生じてきた」と言及した。しかし、村井名誉教授は「事実関係を確かめるのに日数がかかるのはやむを得ない。しっかり議論を尽くすことが、逆に裁判員にとって充足感につながるはず」と語る。
[京都新聞 2011年1月12日掲載]
(2011-01-27)
五十嵐二葉弁護士(東京弁護士会)によると、欧米の主な国は、事実審理は1審だけの二審制を採用しており、陪審や参審の1審で無罪となったら検察側は控訴できない。「民の声は天の声」として尊重するのだという。三審制の日本は2審でも事実審理が行われ、2審では1審判決より重罰になる傾向が顕著なようだ。2008年、72人の無罪(無罪率0.14%)のうち半分の35人が有罪に切り替わっている(「法と民主主義1月号」掲載の同弁護士の論考「裁判員判決への検察控訴」に詳しい)。
今回の事件の控訴について、事件の国選弁護団の一人だった野平康博弁護士は「推定無罪の刑事裁判の原則を貫いた裁判員裁判制度を根底から揺らがす事態」と危機感を強める。このため2審では日本弁護士連合会(日弁連)が弁護団を組んで臨めるよう、鹿児島県弁護士会と宮崎県弁護士会が日弁連に働きかけているという。
(2011 02/09 11:21)
福岡高検と鹿児島地検は8日、殺害現場となった被害者宅で補充捜査を行った。地検は無罪判決を不服として控訴しており、高検が控訴審で有罪主張を行うための捜査の一環とみられる。
検察官らは同日午後1時ごろ、警察官の案内で同市下福元町の被害者宅を訪れ、屋内で約2時間捜査を行った。捜査関係者によると、殺害現場となった和室やガラスが割られた掃き出し窓の周辺を調べたという。
福岡高裁宮崎支部によると、裁判の事件記録は1月に地裁から送付済み。検察側が控訴理由を詳述する「控訴趣意書」は8日時点で提出されておらず、裁判官だけで裁判を行う控訴審の期日は決まっていない。
2011年2月17日 朝刊
裁判員裁判での全面無罪判決はこれまでに五件。
このうち昨年十二月、鹿児島地裁で審理された強盗殺人事件では、死刑が求刑された。被告は犯行を否認、目撃証言もなかったが、検察側は現場で見つかった被告の指紋や掌紋などから、被告が犯人だと主張。判決はこれらの間接証拠を慎重に吟味し「決め手にはならない」と結論づけた。日程は過去最長の四十日に及んだ。